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打球の方向と速度
大谷翔平曰く
前回は打球の速度の分布を確認しました。今回は、打球の方向を踏まえた速度の分布を確認したいと思います。
まずは、昨年の大谷翔平選手の記事のリンクを以下に示します。
ここから大谷選手の発言を以下に引用させてもらいます。
「引っ張っているので、速度が出るのは普通じゃないかなとは思うんですけど、ああいう打球もしっかり打てるようになれば、幅自体も広がるのかなとは思っています」
ここで注目するのは発言の前半部分、引っ張った打球は速度が出るという部分です。当然の指摘ですが、打球速度を見る上では、引っ張った打球なのかどうか、打球の方向を確認しておく必要があるでしょう。
打球の分類
Statcastデータには”hc_x”と”hc_y”というグラウンド上の打球の座標を表すデータがあります。トラッキングシステムによる測定ではないのですが、打球の方向を知るためのデータとしての精度は十分です。
以前紹介した書籍(※)では、この”hc_x”と”hc_y”のデータを使って、打球をプロットした図を作成しています。その際に使用していた座標のデータを参考に、以下の図1に示すようにグラウンドを3つに分類しました。
本塁と一三塁線の座標を参考文献より拝借しています。この図から右打者の①の領域への打球を引っ張り(Pull)、②はセンター返し(Cent)、③は反対方向(Oppo)と分類しました。左打者の場合は、①と③の判定が逆になります。
打球別に見た速度
それでは、ゴロ・ライナー・フライ・ポップフライという4種の打球ごとに、引っ張り(Pull)、センター返し(Cent)、反対方向(Oppo)のそれぞれの打球速度の分布を確認していきます。
まずはゴロから、データを以下の図2-1に示します。
実線が測定された打球のデータで、破線は欠損値を補填した値になります。データとしては実線部分を見ていきます。
この図で引っ張った打球は速度が速いかどうかを判断するより、続くライナーやフライのグラフを見たほうがわかりやすいかと思いますので、図2-2と図2-3にデータを示します。
図をみると、反対方向(Oppo) 、センター返し(Cent)、引っ張り(Pull)の順に分布の山が右に寄っているのを確認できると思います。このデータは、引っ張った打球のほうが速度が速くなる傾向を示しています。
このライナーとフライのデータと比較すると、ゴロは引っ張った打球が速いとはいえそうにありません。
最後に、ポップフライのデータを図2-4に示します。
ポップフライについては、欠損値が多いこともあり、打球の方向による速度の違いを確認できません。
まとめ
以上、特にライナーとフライといった飛球系の打球は、引っ張ったほうが速度が速いことが確認できます。大谷選手の発言も正しかったことになります。
打球速度を見ていく上では、こうした打球の方向にも注意が必要になると思います。個人のデータを考えた場合、引っ張った打球の速い打者は、反対方向に打っても打球は速くなると考えられますが、それでも引っ張ることが多い打者なのか、センター返しの多い打者か、反対方向が多い打者かという事前の情報は必要になると思います。
タイトル画像:いらすとや
※参考文献