デルタ・ベースボール・リポート4を読んで
先月の22日にデルタ・ベースボール・リポート4が発売されました。
この旨は、以前紹介記事にも書いているのですが、今回はそのうち一章を読んだ感想をまとめておきたいと思います。
テーブルスコアを活用した疑似UZRによる遊撃守備評価
選んだのは竹下弘道氏の『テーブルスコアを活用した疑似UZRによる遊撃守備評価』です。詳しくは本書を手に取って読んでもらいたい内容なので、概要と感想だけ紹介します。
守備の評価は、打撃や投球の評価と比べると後発の分野です。そして守備指標のUZR(Ultimate Zone Rating)は、これを測定するための専用の記録が必要になります。このため古い時代の記録からはUZRを算出することができません。
竹下氏の分析は、このUZRの記録の無い時代のデータを対象に、テーブルスコアを使って疑似的なUZRの推定値を求めるというものです。テーブルスコアとは、打席ごとの結果に加え打球を処理した野手のポジションを記録したものです。
竹下氏はこのデータを使って、1983年以降の遊撃手の守備ランキングを掲載していますが、過去にさかのぼってのデータの収集から、UZRの推定値の算出過程の緻密な分析と、一読の価値のある内容となっています。
これからのセイバーメトリクスの潮流
竹下氏の内容が面白いこともさることながら、こうした分析は今後のセイバーメトリクスの潮流を考えていく上で大切な意味を持つと思いました。
現在は、Baseball Savantにあるような高精度のトラキッグデータを利用することが可能です。今後は、こうしたデータがより高い精度で、より多くのプレーが測定されるようになっていくと考えられます。これが主流として継続していくでしょう。
この主流の支流となるかたちで、利用可能なデータが少ない環境の中では、利用可能なデータを工夫してより多くの情報を引き出していくという方向にもセイバーメトリクスの潮流は進むのではないかと考えています。
竹下氏の分析は、記録の少ない過去に遡って利用可能なデータから、当時の技術では評価し得なかったものを評価するという方法です。
既に現役を退いた名手たちをああだこうだと議論することは野球の魅力の1つで、そこに新たな可能性を広げたのが竹下氏の功績ですが、ここから対象を広げることも可能ではないかと思います。
高度な測定機材やそれを処理する人材は、どうしても資金的にも余裕のあるトップカテゴリに集まりがちで、過去のプロ野球と同じようにアマチュアカテゴリではどうしても利用可能なデータは不足しがちです。こうしたカテゴリでも竹下氏の試みは有効ではないかと思います。
技術革新と拡大
少し話を整理すると、今後の主流としてトップカテゴリのプロでは技術革新が続くことが予想されますが、アマチュアカテゴリの隅から隅まで最新の機材が普及するのは現実的ではありません。
必然的に利用できるデータには限りがありますが、これを最大限活用して、簡易的な推定値という形でトップカテゴリでも用いられている評価を導入する流れも必要ではないかと考えるわけです。
最新のデータも面白いですが、こうやって利用可能なデータを工夫して情報を引き出す試みも面白いアプローチだと思います。
余談
最後に余談ですが、これを読んでいるときに、そういえば自分もテーブルスコアのデータを使えないものかと1990年代の「ベースボール・レコードブック」を古本屋でまとめ買いしたのを思い出しました。
これをデジタルなデータに変換する作業に挫折して、段ボール箱に詰め込んだまま死蔵していたところでした。年間12チーム×140試合分の記録があるわけで、これをデータ化しないことには分析もできません。この辺りのデータ化の苦労については特に語られてはいませんが、本当に頭が下がります。