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噛み合わない守備力の評価 ケース2
前回、Statcastデータより算出された守備の評価指標であるOuts Above Average(OAA)と、既存の守備の評価指標Ultimate Zone Rating(UZR)のデータから、UZRの得点は同程度なのに、OAAの評価に差があるJaCoby Jones選手とBilly Hamilton選手のデータを比較しました。
今回は視点を変えて、OAAは同程度なのにUZRに差がある選手を見ていこうと思います。
選手のピックアップ
以下の図1は、出場した試合あたり1回以上の守備機会のあった選手MLBのセンターのUZRとOAAをプロットした図です。今回対象としたのは、図中に赤の○を付けた2人です。
図より2017年のKeon Broxton選手とMichael A. Taylor選手が対象になります。2人のOAAはともに10ですが、UZRはKeon Broxton選手が-2.6で、Michael A. Taylor選手が10.3と大きな差があります。
OAAは同程度なのにUZRに差がついた理由を見つけることができるだろうか、という観点からこの2人のデータを見ていきたいと思います。ただ、あくまで2人のデータのピックアップなので、今回見られた傾向が他の選手に一般化できるかどうかは、現段階ではわかりません。知見を積み上げていく作業中と思ってもらえればと思います。
次のシーズンはどうなった?
まずは、2人の次のシーズンのOAAとUZRの値を確認したいと思います。Keon Broxton選手は2018年に基準をクリアしていなかったので、2018年を飛ばして2019年のデータを用意しました。データを以下の図2に示します。
2人ともOAAはほとんど変わらず(10→9)、Keon Broxton選手はUZRがアップ、Michael A. Taylor選手はUZRがダウンして同じような成績となっています。この変化が意味するのは何でしょうか?
守備範囲を見てみよう
数値だけではわかりにくいので、ここからはOAAとUZRを構成する細かいデータを見ていきたいと思います。まず確認するのは、UZRの構成要素です。以下の表1にデータを示します。
この表のRngRというのが、守備範囲の広さの値になります。Keon Broxton選手はマイナスからプラスにアップし、Michael A. Taylor選手はダウンしています。図2で見たUZRの接近はこうしたRngRの変化を反映していると見ることができます。
次に、Baseball Savantより2人の守備時の捕球位置を図にしたものを示します。まずは、Keon Broxton選手のデータを示します。
図中の□が大きいほど守備機会が多く、赤いほどOAAがプラス、青いほどOAAはマイナスになります。□が広範囲に広がって赤いところが多いほど守備範囲が広がったといえますが、どうでしょうか?
続いて、Michael A. Taylor選手のデータを示します。
こちらも図の見方は同じです。あくまで視覚的印象ですが、Keon Broxton選手の守備範囲が広がって、Michael A. Taylor選手の守備範囲が狭くなったようには見えません。
難易度を比較する
OAAもUZRも捕球した際のアウトをとる難易度によって得点が変わってきます。OAAでは野手からボールまでの距離と時間からこの難易度を求めます。そして野手ごとに、処理した打球の難易度ごとに守備機会を集計しています。
具体的には以下の5つの☆によって分類されています。
☆☆☆☆☆(0-25%)
☆☆☆☆(26-50%)
☆☆☆(51-75%)
☆☆(76-90%)
☆(91-95%)
一方、UZRの出典元であるFANGRAPHSもInside Edge Fieldingという難易度の評価を行っています。こちらは以下の6段階での評価となっています。
Impossible (0%)
Remote (1-10%)
Unlikely (10-40%)
About Even (40-60%)
Likely (60-90%)
Almost Certain / Certain (90-100%)
OAAとUZRの得点に差がつくのは、こうした打球の難易度の評価にズレが生じている可能性はないでしょうか。2人の難易度の評価を比較してみたいと思います。
まずは、以下の表2-1と表2-2にそれぞれの難易度の内訳を示します。
この難易度別の守備機会の内訳を図にしたものを以下の図4-1と図4-2に示します。
データを見ると、Keon Broxton選手は図4-1では5つ星と1つ星の割合が減少し、図4-2ではImpossible (0%)からAbout Even (40-60%)までの難易度の高い打球の割合が減少しています。両方とも難易度の高い守備機会が減少しているといえ、図4-2で顕著です。この変化にUZRの値は反応した形でアップし、OAAは反応していないということになります。
一方、Michael A. Taylor選手の場合、図4-1では1つ星と5つ星の割合が増加し、難易度の極端なケースが増えたといえます。図4-2では、Impossible (0%)からAbout Even (40-60%)までの難易度の高い打球の割合が増加しています。この変化にUZRの値は反応した形でダウンし、OAAは反応していないということになります。
おわりに
今回のデータはここまでです。OAAはシーズンを挟んで動かないのに対し、UZRは良く動いていているというデータでした。UZRも難易度に応じて得点化しているので、難易度の高い守備機会が増えたところで、それが得点減にはつながらないと思うのですが、どうも難易度の増減とUZRのアップダウンがリンクしているような結果となっています。
しかし、これはあくまで2人分のデータなので、今は結論云々という段階ではないです。もう少しデータを見る対象を増やして、同じ傾向が見られるかどうか確認していく必要があります。
タイトル画像:いらすとや