
スパイク決定率の揺り戻し
※2021/02/07 データ修正により図3~5を修正
前回はスパイク決定率の安定性を見るために、シーズン間の相関を求めました。
今回は別の角度からこの安定性を見ていこうと思います。
野球のスタッツから:BABIP
毎度のことながら、ここで野球のデータに脱線します。今回紹介するのはBABIPというスタッツ、Batting Average on Balls In Playの略称で、本塁打とファウルを除いた打球が安打になった割合を表します。以下の計算式から求めることができます。
BABIP=(安打−本塁打)÷(打数−三振−本塁打+犠飛)
いきなり見慣れないスタッツを出して申し訳ありませんが、今回はこのスタッツの計算方法はそれほど重要ではありません。大切なのはこのスタッツが持つ性質です。
まずは、このBABIPの年度間の相関を見てみましょう。以下の図1-1にデータを示します。
相関係数は0.29で弱い相関です。シーズン間の安定性は低いといえます。本題はここから、図1-1では、前年と翌年の値を比較していますが、この翌年の値を、前年の値からの変化(翌年-前年)の値に変えて相関を求めたものを以下の図1-2に示します。
こちらは中程度の負の相関が認められています。前年のBABIPが高いほど、翌年はBABIPが低下し、前年のBABIPが低いほど翌年は高くなることを意味します。
BABIPという指標は、前年の値がいくらであっても、翌年はだいたい0.3付近の値になることが知られています。これを平均回帰傾向といいます。
運のはなし
なぜこのような平均回帰傾向が見られるかというと、野球では『打球がアウトになるかどうか』は運によって左右されるためです。
以下の図2はサイコロを300回降って1が出る確率を3セット求めたものです。
サイコロの目はランダム、つまり運によって決まります。サイコロを振る回数が少ない図の左側は1が出る確率が激しく変動しますが、回数が増えていくと1/6に収束していくことがわかると思います。
BABIPも同様に0.3前後に収束する、つまり野球において『打球がアウトになるかどうか』は、選手の能力だけではなく運も影響してくるということを表しています。
“運”という言葉に納得がいかないかもしれませんが、これは要するにプレーする人間にはコントロールできない要因と考えてください。どんな競技でも、自身が同じ動きをすれば必ず同じ結果になるようなことはほとんどありません。いくらかは運に左右される要素があり、それがスタッツにも乗ってしまっているわけです。
データは客観的な指標といいますが、選手の能力以外にもこうした運によって左右された部分もあります。ここで重要なのは、全てのスタッツが運の影響を等しく受けているわけではないということです。スタッツによって運の影響を受けやすいものから、あまり受けないものが存在します。
では、どうやったら運の影響の程度がわかるのか?
答えは1つ1つ調べるしかありません。前置きが非常に長くなってしまいましたが、バレーボールのスタッツでもこれを調べてみましょう。BABIPと同じような傾向が認められれば、それは運の影響を受けているといえます。
スパイク決定率の平均回帰傾向
今回は、前回に年度間相関を求めた男子のセリエA1とA2、女子のセリエA1のデータを対象に、ミドルブロッカーと、スパイカー(ミドル以外のスパイカー)に分けてデータを見ていきます。ミドルは50打数、スパイカーは100打数を足切りのラインに設定し、このラインより打数の多い選手を分析の対象とします。
まずは、セリエA1のミドルブロッカーとスパイカーのデータを以下の図3-1と図3-2に示します。
負の相関が認められました。相関の強さはBABIPより少し弱いです。続いてA2のデータを以下の図4-1と図4-2に示します。
こちらも負の相関関係が認められ、相関の強さはA1より強いです。
最後に、女子のデータを図5-1と図5-2に示します。
こちらも同様の傾向で、男子のA1と比較すると強い関係となっています。
以上の分析より、スパイク決定率の平均回帰傾向を確認しました。男子A1のスパイカーが他と比べてこの傾向が弱くなっています。原因は今の段階ではよくわかりません。そして、弱いといっても平均回帰傾向自体はあることにも注意してください。
おわりに
以上、スパイク決定率の平均回帰傾向でした。1シーズン分、且つ打数の足切りラインを超えた選手でさえ、翌年の成績に影響があるということは認識しておく必要があります。
スパイク決定率の高い選手がいても、単純に良い選手だと飛びつく前に、これは運によって一過的に良い成績になってはいないだろうかと考え、できれば他のスタッツを見ながら総合的な評価が必要になります。
ただ、リーグ全体で平均回帰傾向が見られていても、個々の選手の中にはこれが当てはまらない選手もいます。例えば、野球を例にイチロー選手のBABIPを2001年から2017年まで以下の図6に示します。
現役も終盤に差し掛かった2010年以降は、0.3前後を行ったり来たりして一般的なBABIPの性質に合致していますが、2000年代は高い値をずっとキープしているのがわかるかと思います。
バレーボールにもこうした選手はいると考えても問題ないでしょう。これをどうやって見出していくかが課題になります。
というわけで、2020年の更新はこれが最後になります。来年からは他のスタッツで、今回の平均回帰傾向を含むシーズン間の安定性を検証していこうと思います。
それでは皆様良いお年を
タイトル画像:いらすとや
野球のデータ:https://www.fangraphs.com/