ネーションズリーグ・レポート 日本:男子
今回は、2023年のネーションズリーグで3位と躍進を遂げた男子日本代表チームのデータを見て行きたいと思います。というわけで、2021年以降3シーズン分のデータを比較してみたいわけですが、単純にスタッツを比較すれば、勝利数の多いシーズンは得点に関わるスタッツが良くなっていることが予想されます。
それを「スタッツが良くなって良かったね。」で済ましても構わないとは思いますが、それだけでは分析に工夫が足りないともいえます。
一工夫を加えるには
やり方はいろいろありますが、今回は勝ちセットと負けセットの成績を比較してみようと思います。勝ち方と負け方に変化があったのかという点まで調べてみようというプランです。
今回は準備編
このプランに従って、勝ちセットと負けセットの成績を比較していきたいところですが、その前に単純に男子日本代表チームの2021年間の成績の推移を比較しておきたいと思います。
勝利数が増えたのですから、おそらく、全体的に良くなっているとは思いますが、多分そうなっているだろうと確認を怠るのは危険なので、ちゃんと確認しておくというのが今回の目的になります。
成績の比較
今回見るデータは2021年から2023年のネーションズリーグ(VNL)の予選ラウンド(Preliminary Phase)の成績になります。ファイナルラウンドは試合数が少ないために予選のデータを見ることにしました。まずは、勝敗とセットカウントを比較したデータを以下の表1に示します。
2022年と2023年を比較すると、順位こそ5位から2位まで上がっていますが、勝利数は1つ上積みしただけで、得点と失点の比(Points: Point Ratio)からは、2023年は失点が増えたことがわかります。単純に何もかも良くなったともいえないデータです。
スタッツの推移
次に、各種スタッツの3シーズンの推移を見て行きたいと思います。こちらも予選ラウンドのデータを集計したものになります。例として以下の図1-0にデータを示します。
こちらはボックスプロットとバイオリンプロットというものを重ねたデータで、データは2021年から2023年の男子ネーションズリーグ(VNL)の予選ラウンドの試合ごとのスパイク決定率の値になります。
白い長方形がボックスプロットで、この長方形の上端が上位25%、下端が下位25%、長方形の中に一本ある線が50%を表しており、長方形から上下に伸びた線は最大、最小値までの範囲を表します。
白い長方形を囲む黄色い部分がバイオリンプロットで、これはデータの分布を表し、該当するデータが多いほど山が高くなります。2021年では、0.5付近のスパイク決定率が最も多いことを表しています。多少の違いはありますが、3シーズンで概ね似たような傾向です。
このデータを、日本の3シーズンの変化とVNL全体の分布を併せて比較してみたいと思います。まずは、スパイクの決定率、失点率、効果率のデータを以下の図1-1から図1-3に示します。
左側の赤い図が日本のデータ、右の図がVNL全体のデータになります。
スパイクに関しては決定率が年々向上しており、これを受けて効果率の値も向上しています。バレーボールの得点の多くはスパイクによって決まるため、勝利数が増えるということは、スパイク決定率も高くなることは予想できましたが、勝利数ではさほど変わらないのに、2022年よりも2023年はさらに良くなっていることが確認できました。
続いて、ブロックの1セットあたりの得点とエラー(Error:これが失点を表すのか、ミスを含んだエラーを指すのかはっきりしないのでErrorの表記のままにします)とブロックタッチ(Touch)のデータを以下の図1-4から図1-6に示します。
図1-4のブロック得点は3シーズンとも低いままですが、エラーとタッチは2022年以降増加しています。エラーが増えるのは一見良くないように見えますが、相手のスパイクについていっていると考えれば良いデータとも見ることはできます。このスタッツの解釈を日本代表ではどうしているかは気になるところです。
次に、サーブの得点率とエラー率(Error%)のデータを以下の図1-7と図1-8に示します。
図1-7の得点率ですが、2022年の分布が上下に長いのが特徴でしょうか。これは得点率の高い試合もあれば低い試合もあるという、あたりハズレが大きいことを意味します。この傾向が2023年は落ち着いたといえます。図1-8のエラー率も上昇傾向ですが、これは得点率の必要経費と見るべき結果です。
続いて、レセプションの成功率(Successful%)とエラー率(Error%)のデータを以下の図1-9と図1-10に示します。
図1-9の成功率を見ると日本は低下傾向にありますが、VNLリーグ全体としても低下傾向にあるので、これが問題のある傾向であるか、ここでは判断できません。図1-10のエラー率は横ばいです。
最後に、ディグについて1セットあたりのDigsとエラー(Error)のデータを以下の図1-11と図1-12に示します。
図1-11のDigsは若干の低下傾向で、図1-12のエラー(Error)は2023年では分布の幅が広く、あたりハズレのあるシーズンでした。
対戦相手のデータも確認してみる
ここまでは男子日本チームの成績の分布を見てきましたが、次は、一味加えて相手チームのスタッツも一緒に見てみたいと思います。相手のスタッツをどれだけ抑えることができたかも重要な情報と考えるためです。
こちらのデータは散布図で3シーズンのデータを集計しました。例として以下の図2-1にスパイク決定率のデータを示します。
左から2021年、2022年、2023年のデータとなっており、赤いプロットが日本のデータとなります。黄色のプロットは2021年から2023年までの他のチームのプロットで、全体の中での日本の位置づけを確認することが目的です。図中のグレーの破線は日本の成績=相手チームの成績のラインで、このラインより上にあれば日本のほうが高い値であることを意味します。
データを見ると、2021年はラインの下側のプロットが多かったですが、2022年と2023年は上側のプロットが多く、相手チームの決定率を抑えていることがわかります。
同様の集計を失点率、効果率で行ったものを以下の図2-2と図2-3に示します。
図2-2をざっと見るに、3シーズンともに日本のほうが失点率の高い試合のほうが多いことが分かります。図2-3の効果率は決定率と似たプロットになります。
続いて、ブロックの1セットあたりの得点とエラー(Error)とブロックタッチ(Touch)のデータを以下の図2-4から図2-6に示します。
図2-4のブロック得点では、2022年以降ラインの下側のプロットが減り、相手のブロック得点を減らすことができたことが分かります。
図2-5のエラー(Error)は、年々相手のエラー(Error)が少なくなってきています。これは図2-6のタッチ(Touch)も同様の傾向で、全体的にブロックにあたりにくいスパイクが増えてきたのでしょうか?
次に、サーブの得点率とエラー率(Error%)のデータを以下の図2-7と図2-8に示します。
図2-7の得点率を見ると、2023年はライン近くのプロットが多く、相手と同程度であったことが分かります。図2-8のエラー率(Error%)は、ラインの下側で相手より低いといえす。
続いて、レセプションの成功率(Successful%)とエラー率(Error%)のデータを以下の図2-9と図2-10に示します。
図2-9の成功率(Successful%)は、年々低くなってきており、ラインの下側のプロットが増えてきています。図2-10のエラー率(Error%)は、2022年のみラインの下側のプロットが多くなっています。
最後に、ディグについて1セットあたりのDigsとエラー(Error)のデータを以下の図2-11と図2-12に示します。
図2-11のDigsについては、年々相手チームのDigsが少なくなってきています。図2-12のエラー(Error)も同様の傾向です。
まとめ
以上、2021年以降の3シーズンの日本のデータを集計しました。単純に成績が良くなっただけではないという所もあり、確認をしておいて良かったです。
というわけで、下準備はこれくらいにして、次回は当初目的に掲げた、勝ちセットと負けセットでのスタッツを比較していこうと思います。
今回分析に使用したデータは以下よりダウンロードできます。興味のある方は自己責任でどうぞ
データ元
タイトル画像:いらすとや