菊池雄星選手は移籍後に何が変わったのか?
2024年のMLBが終わってみての感想は、大谷翔平の1年だったに尽きるのですが。もう1つ気になるトピックがあります。シーズン中にBlue Jays からAstrosへと移籍した菊池雄星選手が移籍後に大幅に成績を改善したことです。
以下の記事では、パフォーマンスが菊池の投球内容を紹介しています。
抜粋するとこんな感じでしょうか。
・カーブを減らしてスライダーを強調するようになり
・スライダーの縦変化が以前よりも2.5インチ(約6.35センチ)
・三振率の向上
こうした成績の変化をBaseball Savantから見たいのですが、機能が豊富なBaseball Savantといっても移籍の前後で比較するのは難しい所もあります。それなら少し自分で調べてみようということで、いくつかデータをまとめて見ました。今回はその結果を紹介したいと思います。
投球内容の変化
まずは主だった成績の変化として移籍前後の対戦打者あたりの被本塁打(HR%)、与四球(BB%)と奪三振(SO%)を以下の表1に示します。
移籍後に奪三振(SO%)が5%ほど増えています。先ほど紹介したFull-Countの記事は8月末時点のものでしたが、9月の成績を加えても同様の傾向が確認できたと思います。
次に、使用球種を対戦した左右の打者別に集計したものを以下の表2に示します。
Astros移籍後は指摘のあったように、左右の打者ともにカーブ(Curveball)の割合が減少し、スライダー(Slider)が増加しています。スライダー(Slider)が増えただけではなく、ストレート(4-Seam Fastball)との日が1:1に近いところまで増えています。
投球の変化量
次に、カーブ(Curveball)とスライダー(Slider)の変化量を確認しておきたいと思います。まずはカーブ(Curveball)の変化量を移籍の前後でプロットしたものを以下の図1-1に示します。
水平方向への変化量をpfx_x、垂直方向への変化量をpfx_zで表しています。このプロットは捕手・審判目線なので、pfx_xのマイナス方向の変化は右打者の打席方向への変化となります。
水色の○がBlue Jays所属時の1球ごとの変化量、オレンジの〇がAstros移籍後の1球ごとの変化量になります。◆はBlue Jays所属時とAstros移籍後の変化量の平均を表しています。
移籍の前後で比較をすると、カーブ(Curveball)の変化量に記事では言及はありませんでしたが、Astros移籍後の投球自体は減りましたが、変化量は大きく、より曲がるようになったといえます。
次に、スライダー(Slider)の変化量を以下の図1-2に示します。
図1-1と見方は同じです。カーブ(Curveball)ほど変化量の違いは確認できません。記事は8月末までのデータ、今回は9月末まで対象にしたためかもしれません。
リリースポイント
投球の変化量に違いがあったということならば、リリースポイントにも何かしら変化があるのではないかということで、次はリリースポイントを移籍の前後で比較しました。カーブ(Curveball)の変化量を移籍の前後でプロットしたものを以下の図2-1に示します。
水平方向のリリースポイントをrelease_pos _x、垂直方向へのリリースポイントをrelease_pos _zで表しています。
◆の平均で比較すると、水平方向に違いはありませんが、垂直方向でAstros移籍後のほうがより高い位置になっていることが分かります。
次に、スライダー(Slider)のリリースポイントを以下の図2-2に示します。
図2-1と見方は同じです。図1-2の投球の変化量と同じくリリースポイントに大きな違いはありません。
スライダー(Slider)のリリースポイントに大きな変化は確認できませんでしたが、ストレート(4-Seam Fastball)のリリースポイントと近い位置から投げるようになったという可能性は考えられないでしょうか。
この可能性の検証のため、まずはBlue Jays所属時のスライダー(Slider)とストレート(4-Seam Fastball)のリリースポイントを以下の図3-1に示します。
図の見方は図2と同じです。スライダー(Slider)が赤い〇、ストレート(4-Seam Fastball)が黄色の○になります。
概ね近い位置から投げられてるのではないでしょうか。Astros移籍後のデータを以下の図3-2に示します。
それほど大きな変化はありません。一応確認ということなので、こんなものではないかと思います。ただ、ストレート(4-Seam Fastball)のリリースポイントがAstros移籍後は高くなっています。
スライダーの使い方
ここまで、スライダー(Slider)については、変化量もリリースポイントもそれほど変化は見られませんでした。それなら、使い方、投げる位置に違いがあるのではないかということで、全ての投球をまとめるとデータが多くなるので、2ストライクに追い込んでからの各球種の投球位置と結果について、移籍の前後で比較してみたいと思います。
まずはカウント0-2、対左打者への投球のデータを移籍前後で比較したものを以下の図4-1-1に示します。
2つの図が並んでいますが、左側がBlue Jays所属時、右側がAstros移籍後の投球のデータになります。
図中の破線がストライクゾーンになります。プロットが投球位置を表します。このプロットは捕手・審判目線になるので、ストライクゾーンの左側に右打者が、右側に左打者が立ちます。
プロットの色が球種を、形が投球の結果を示します。■◆●の塗りつぶしてあるプロットが2ストライクから三振を奪った投球になります。
カウント0-2で対左打者からの投球のケースは少ないですが、青いプロットのスライダー(Slider)が減ったことを確認できると思います。
同様の集計をカウント0-2、対右打者で行ったものを以下の図4-1-2に示します。
Astros移籍後は、カーブ(Curveball)だけではなく、チェンジアップ(Changeup)も少なくなっている印象です。また、ストライクゾーン内への投球も少なくなったでしょうか。
続いて、カウント1-2のデータを以下の図4-2-1(対左打者)と図4-2-2(対右打者)に示します。
図4-2-1の対左打者ではカーブ(Curveball)の減少が、図4-2-2の対右打者ではカーブ(Curveball)とチェンジアップ(Changeup)の減少を確認できます。また、図4-2-2ではストライクゾーン内への投球はストレート(4-Seam Fastball)がほとんどで、変化球が無いことも確認できます。
次に、カウント2-2のデータを以下の図4-3-1(対左打者)と図4-3-2(対右打者)に示します。
図4-3-1の対左打者ではカーブ(Curveball)の減少が確認できます。図4-3-2の対右打者ではストライクゾーン内、インコースへのストレート(4-Seam Fastball)が減っていることを確認できます。
最後に、カウント3-2のデータを以下の図4-4-1(対左打者)と図4-4-2(対右打者)に示します。
図4-4-1の対左打者サンプルが少なくて判定が難しいです。図4-4-2の対右打者では、Astros移籍後は投球がほぼほぼスライダー(Slider)となっています。
まとめ
以上、移籍前後の菊池選手のデータを比較しました。記事にあった8月終了時のデータとも少し違う結果が確認できたなど、集計した意義はあったのではないかと思います。
ところで、菊池選手の移籍にあたって、Astrosの分析官は改善の余地があると判断したという話があります。個人的に気になるのは、Blue Jays所属時の菊池選手のどこを見てその判断に至ったのかという所が気になります。この辺り、次回以降もう少し掘り下げてデータを見て行きたいと思います。
データ元
タイトル画像:いらすとや