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スパイクの評価について

 これまでの分析では、セリエAにおける日本人選手の位置づけをスパイクの成績から見てきました。

 このデータからはリーグ全体の中から注目する選手の位置づけがわかって便利なのですが、今回はそもそもスパイクの良し悪しを評価する上で、現行のスタッツでは足りていない要素について考えてみたいと思います。

スパイクのスタッツには“状況”が足りない

  足りない要素というのは“状況”です。スパイクというのはいつも同じ状況で打つわけではありません。決めるのが容易な状況もあれば、難しい状況もあります。こうした状況を同じスパイクの1打と考えてよいのでしょうか?
 
 多くの打数を積み上げることで、どの選手も大体同じくらいの状況になるという可能性も考えられますが、必ずそうなるとはいえません。
 
 したがって、私たちが目にしているスパイクの決定率や失点率には、容易な状況で多くの得点をあげて過大評価されている選手や、逆に過小評価されている選手がいるかもしれません。

他競技より:状況の評価

  他の競技に目をやると、状況を評価する方法はいくつかあります。まずは野球の得点期待値を紹介します。 

 野球における得点期待値は、打席に立った時のアウトカウントと走者の状況から、その打席の平均得点の値を表したものです。リンクの期待値を抜粋すると以下の表1のようになります。

 これは日本のプロ野球の2013年から2015年のデータを元に算出したものですが、シーズンや環境によって微妙に値は変化します。ただし、状況間の大小関係が覆るようなことはありません。
 
 他にも、サッカーにはゴール期待値なるものがあります。 ゴール期待値は、“シュートチャンスが得点に結びつく確率”とのことで、「チャンスの質」を測る指標と考えられています。
 
 このように、状況を評価に加えるというのは他の競技では既に実現しています。

バレーボールへの導入を考える

 バレーボールへの導入を考えてみたいと思います。
 
 野球の得点期待値では、アウトカウント×走者状況の計24場面に集約されていますが(これより細かくストライクやボールカウントも反映させることは可能)、バレーボールのスパイクの状況を同じように集約できるだろうか?状況としてはもっと多くなって収集が付かなくなる可能性が考えられます。
 
 また、一度のプレーで最大4点が入る野球に対し、バレーボールでは1点しか動かない点も相性が少し悪いです。
 
 サッカーのゴール期待値の、「チャンスの質」を測るというコンセプトはスパイクの状況を評価するという目的と合致します。一方で、サッカーでのシュートの場面とバレーボールのスパイクでは失点までの距離が異なります。
 
 サッカーにおいて、シュートミスからボールを奪われ、そこを起点に失点するというケースもありますが、ミスから失点までに何度かのプレーが挟まるため、シュートミス=失点という関係には単純にはなりません。
 
 バレーボールの場合、スパイクのミスは即ち失点となるので、サッカーのように得点になるかどうかという確率だけ考えれば良いというわけではありません。
 
 この得点と失点の関係の考え方ですが、2通りの案があります。1つめは下図に示すように得点と失点をプラスとマイナスで対称に考えるものです。

 2つめは、下図のように得点確率と失点確率を別々求め、スパイクを2次元で求める方法です。

 何が違うかというと、算出のための計算過程が異なります。これは理論的にどちらが正しいかというよりは、実際に使ってみてどちらが有用か確認すべきことです。いずれにせよ、バレーボールにおいても状況を加味したスパイクの評価は可能ではないかと思います。

導入にあたっての注意事項

  以下、得点期待値の導入にあたっての注意事項をあげたいと思います。
 
1.サンプルは十分に確保すること
  第一に、少ないサンプルを元に得点期待値を求めないことがあります。例えば、普通では得点が入りそうもない難しい状況なのにスーパープレーで得点になった場合、サンプルが少ない場合、この難しい状況での得点確率が高く算出されるというリスクがあります。サンプルが増えることで、こうした特別なケースというのは次第に埋もれていきますので、十分な量のサンプルが必要なわけです。
 
 野球の例では、2013年から2015年の全試合と複数のシーズンを跨いで算出していましたが、最低リーグ戦、もしくは1大会の全試合を1シーズン分、できれば複数シーズン分くらいのデータは欲しいところです。
 
2.最初はシンプルな算出方法から
  改めて考えるのに、スパイクの得点するかどうかに影響する要素とは何があるでしょうか?セッターの位置、セットの軌道とスピード、スパイクする位置、同時に攻撃参加しているスパイカーの数、相手のブロックの態勢、ディガーの配置、色々とあると思います。
 
 得点期待値を算出する際に注意したいのは、いきなりこうした要素を全て盛り込もうとしないことです。なぜかというと、要素が増えると単純に算出が複雑になって大変だからです。そして、何かしらの不具合や問題が生じた場合、どこが悪いのかを特定するのも難しくなります。
 
 こういうことがあるので、最初は本当に必要そうな要素だけを用いてシンプルな方法で算出するのがベターです。当然、パーフェクトなものとはいえませんが、そこで生じる問題や、手の届かない所というのが明らかになってきますので、そこを修正する形で少しずつ要素を追加するのが良いやり方だと考えます。

導入案

  最後に、上記の内容を踏まえて、バレーボールにおける得点期待値の算出案を出してみたいと思います。最初はなるべくシンプルに!ということで、以下の3点の要素からの算出を提案します。
 
・セットをあげたのはセッターか他の選手か?
・セットをあげた位置
・スパイクの位置
 
 これを下図のように、コートを1m四方に分割し、セットの位置とスパイクの位置から得点になる確率を求め期待値とします。

 図中の矢印がセットの位置→スパイクの位置という関係です。これなら目視で記録して集計することも可能ではないかというレベルで提案しました。
 
 とりあえずこれくらいで算出して、できた期待値の使い勝手や、この期待値ではわからないことがあれば、それを修正するためにより精度の高い位置情報や、他の要素も追加していけば良いのではないかと思います。

まとめ

 以上、スパイクの“状況“を定量的に評価するための案を出してみました。残念ながらこれを実現するためのデータを自分は持ち合わせていないので、提案どまりになってしまいますが、現行のデータの収集法でもできそうなところでの提案ですので、もしデータを持っている人がいれば、チャレンジしてみてもらえるとありがたいです。
 
タイトル画像:いらすとや

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