第七幕「おじいちゃんといおばあちゃん」


 今日もパパとママはけんかをしていた。夜になるといつもだ。おじいちゃんもおばあちゃんももう知らんぷりしている。
「それがあの子のためだって言ってるんだ!」
「あの子はまだ十歳にもなってないのよ。早すぎる」
 何だかわたしのことでけんかしてるみたいなんだけど、何でかは聞かせてくれない。前にけんかをやめてもらおうとパパの背中にとびのって、わたしがどうかしたの、ときいてみたことがある。
「あっちに行ってなさい!」
 二人とも大きな声でわたしにそういった。わたしはびっくりして、こわくなって、おばあちゃんのところにかけこんだ。おばあちゃんはいつもにこにこしていて、あったかくて、わたしはだいすきだ。
「大丈夫だから。おばあちゃんがいるからね」
 そういってだきしめてくれた。
「お父さんもお母さんも、今は考えることがいっぱいあってその順番を決めてるところだから」
 ママはわたしが十歳じゃないから早すぎるっていってた。じゃあ、十歳になれば、ちょうどいいのかなあ。

 今日はおばあちゃんがこまった顔をして、ソファに座っていた。パパとママはこわい顔をしておばあちゃんの前に座っている。わたしはおけいこから帰ってきたばかりで、何があったのかわからない。
「お義母さん、それは話が違うじゃありませんか」
「俺は二人の分も申し込んだんだよ。今さら行きませんじゃないよ、全く」
「……前からそういってたのに」
 下を向いて小さくおばあちゃんがそういったのをきいて、何だかわたしはおばあちゃんがかわいそうになって、おばあちゃんにだきついた。
「何でおばあちゃんをいじめるの? おばあちゃん何にもわるくないよね。パパもママもいじめちゃダメ!」
 ぎゅっとおばあちゃんをだきしめて、おでこをおばあちゃんのおなかにこすりつけた。
「ダメダメダメなんだからぁ」
 目からなみだがこぼれて、おはなも出てきて、わたしは泣いた。おばあちゃんの手がわたしのあたまをなでてくれているのがわかったけど、わたしは泣きやまなかった。
「……違うんだ、いじめてないからさ」
「ただお話してただけなのよ」
 どこかの戸が開いた音がきこえた。ぐずぐずいうおはなをいっしょうけんめいすすって、わたしは顔を上げた。
「こんな小さな子供に心配させて泣かせる親がどこにおるかっ」
 いつもはあんまり口をきいてくれないおじいちゃんが、パパにおこっていた。わたしがプレゼントしたくまさんのパジャマを着ていた。
「違うって、親父。っていうか、そもそも親父たちがコロニーに行かないなんて、急に言い出すからだろう」
「却下したのを覚えとらんのか」
 おじいちゃんはおばあちゃんのとなりに座って、わたしのあたまに手をおいた。
「おばあちゃんを守ってくれたのか。ありがとうな」
「でもお義父さん、この人の仕事のこともあるし、その子の学校もより質の高い学校になるし。保険も向こうの方がいいサービスが始まってるんですよ」
「正直俺も何とか地上からアクセスできないものか、さんざんやり方考えたけど、社の意向もあるし、時間がかかって家族が顔をあわせにくくなるよりは、コロニーに移った方が現実的なんだ。上司には部署替えの話もしたけど、どうしても俺にってさ。期待かけてくれてるんだよ」
「……お前は何もわかってないな。本当にわしらの年齢でやっていけるとでも思っているのか」
 おじいちゃんの言葉。それきりだれも口をきかなくなった。わたしは顔を上げて、パパとママと、おじいちゃんとおばあちゃんの顔を見た。おばあちゃんだけ、わらってくれた。

「ただいまあ」
 学校からかえってきた。ミッちゃんとあそぶ約束をしていたのでカバンをおいてすぐに行こうと思っていたけど、おじいちゃんとおばあちゃんがえんがわでひなたぼっこしているのを見て、わたしもいっしょになって座った。
 おじいちゃんがわたしのほっぺたをなでてくれた。でも、何も言わなかった。わたしは気持ちよかったのでそのままでいた。
「……わがままにつきあわせて、済まんな」
「……いいえ」
 ゆのみをすすりながら、おじいちゃんはそういった。おばあちゃんも同じようにして、答えた。
「ミッちゃんと遊んでくるね」
「いいよ、いっておいで」
 おばあちゃんがにっこり笑ってそういった。ドアのところでふとふり返ってみた。おじいちゃんとおばあちゃんが、お日さまの方にやさしい顔を向けていた。でも、なんだかさみしそうだった。

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