小林賢太郎 POTSUNEN



POTSUNEN

ポツネンという言葉には不思議な響きがある
そこに寂しく佇むという雰囲気がたった4文字で表されている
ポツネンと同じような言葉にぽつりという言葉がある
ぽつりと雨が落ちる
ぽつぽつと雨が降っている
ぽつりという単語ひとつで雨が降っている様子に風景が描写される
ぽつぽつという単語が雨を修飾することでそれほど激しくない雨であることが想像できる
英語で表すなら”Rain”で終わってしまうところをぽつぽつ、ぽつりで目に浮かぶ
ぽつねん、ぽつり、ぽつぽつには独特の寂しさが漂う

このポツネンという単語をもとにした小林賢太郎の一人コント集が「POTSUNEN」だ
私は「POTSUNEN」をYouTubeでサジェストされて以降ずっと見ずにいた
「POTSUNEN」が上演された2005年当時は小林賢太郎が片桐仁とラーメンズとして活動していた頃だ
ラーメンズの活動を追うので精一杯で(まだその当時はYouTubeもなかった)小林賢太郎のソロ演劇作品があることも知らなかった
しかし「うるう」を見て他の作品も見たくなった
これは一気見するしかないと思い、他の作品も辿ることにした

「POTSUNEN」は説明の難しいものだ
ラーメンズのコントとはまた違う
一人芝居とも違う
小林賢太郎ワールドとしかいいようがない作品だ
違いがあるとすれば小道具だ
ラーメンズのコントではキューブ型の椅子のみのシンプルなコントであるが、「POTSUNEN」は小道具をギミックとしている
ポツネンと佇む小林賢太郎には面白さ、コミカルさも感じるが全作品を最後まで見ると寂しさにも似た感情が自分の中に浮かぶ

「POTSUNEN」は9章の短編で構成されている

第1章 ジョンと私

「ジョン」を山に棄てようとする男の話だ
舞台上に現れるのは犬を引くのに使われるリードと小林賢太郎演ずる男だけだ
ジョンは最後まで姿を現さない
「ジョンは犬と思われるもの」と思って見始めるとどうやら違うことが分かる
観客は予想外の展開に飲み込まれることになる
ジョンは最後まで正体不明
一体ジョンとは何なのか
最後まで不明である

第2章 Opening

幕間となるオープニング映像
幾何学模様が美しい

第3章 先生の電話

「先生」に電話をかけるコント
先生が何者かも分からないし電話をかける小林賢太郎演じる男の正体不明だ
少なくとも先生より格下の書生のような人物であることは分かる
電話を書けながら先生のものを頂こうとする

第4章 アナグラムの穴

アナグラムとは言葉や単語の文字を並び替えることによって別の意味を持つ言葉や単語に置き換えることである
例えば「うそ、かわいい!」という単語があれば並び変えると「かわいそう!」となる
「アナグラムの穴」も小林賢太郎が舞台上で、言葉が1文字ずつ書かれたカードを取り出し言葉の順番を入れ替えていく作品だ
「万国博覧会」「踊る大捜査線」といった言葉を再構成する
アナグラムはラーメンズがコント「日本語学校」で演じていた世界観の再現である
言葉を脱構築し再構成する小林賢太郎ワールドの真骨頂といえる世界観だ

第5章 男のゲーム

「POTSUNEN」の中でも最も難解な作品だ
小林賢太郎のマイムとサウンドエフェクトだけで構成されている
どうやら男気溢れる試合をしていると思われる
観客役(と思われるもの)、審判役(と思われるもの)、選手役(と思われるもの)を小林賢太郎が一人で演じ分けている
国歌独唱(と思われるもの)から始まり、ボクシング(と思われるもの)と投擲(と思われるもの)と相撲(と思われるもの)を混合したスポーツをしている
全てそれぞれの形式を逸脱した動きをしている
とにかく男臭い何かをしている、ということしか分からない
何度も見るとヘルメット(らしきもの)とゴーグル(らしきもの)を着用していることが分かる
分かる人だけ分かればいいという小林の気合いを感じる

第6章 Hand Mime

ピアノの伴奏に合わせて手だけで人の動きを表す作品
額縁に飾られたイラストに合わせて手が動いていく
手が感情を持っているように見えてくるから不思議だ

第7章 悪魔のキャベツら

1年だけ人間の姿になることを許されたキャベツ、卵と小麦粉、かつお節、ソース、青のり
小麦粉の話し方は立川談志がモデルだろうか

第8章 アナグラムの穴②

「アナグラムの穴」の続編である
「アナグラムの穴」で小林賢太郎が右手小指に指輪をしていることに気付いただろうか
これが最大のギミックとなっている

第9章 タングラムの壁

タングラムをご存知だろうか

タングラムは、問題として提示された形を作るシルエットパズルの中で非常に有名なものの一つで、正方形をいくつかに切りわけたものを使うパズルである。

wikipedia

真っ暗な空間の中から小林賢太郎は語りかける
「います。暗闇は多くの情報を奪います。水平が見えないから垂直が分からない。」
という一人語りから始まり徐々に空間が明るくなっていく
最後にタングラムを駆使し羽が生えたかのように見える小林賢太郎
手には炎を持っている
画面が一瞬真っ暗になるが残像が目に浮かぶのが面白いところだ

「タングラムの壁」、この作品が「POTSUNEN」を総括していると私は考える
人間は言葉以外にも音声情報、身体感覚全てを通して対象物を理解する
情報が欠けていると理解できない
9章のコントで小林賢太郎は情報の伝達について見せてみせたのだ

小林賢太郎、奥が深い
そして恐ろしい


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