【歌詞和訳】Elliott Smith『Say Yes』 -早逝の天才が遺したリアルで切実なラブソング
◆Elliott Smith と Say Yes
アメリカを代表するシンガーソングライターの一人、エリオット・スミス。34歳というあまりの若さでこの世を去った早逝の天才は、その短い人生の中で、素朴でありながら奇抜でもあり、初めて聴くような曲なのに心にストンと収まる、唯一無二のメロディの数々を残してくれた。
職人気質で目立つことのなかった彼が一躍脚光を浴びたのは、映画「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」の主題歌として提供した "Miss Misery" がアカデミー歌曲賞にノミネートされたときだ。若きマット・デイモンとベン・アフレックが主演・助演・脚本を務め、アカデミー脚本賞と助演男優賞(ロビン・ウィリアムズ)を獲得したこの映画に、彼は主題歌だけではなく複数の劇中歌も提供していた。今回歌詞を和訳した "Say Yes" もその一つで、主人公ウィル(マット・デイモン)とヒロインのスカイラー(ミニー・ドライヴァー)のデートシーンで流れる曲である。
"Say Yes" について、エリオット・スミス本人は下記のように語っている。
実際に歌詞を見ると、エリオット・スミスらしい散文的で非断定的な歌詞の運びながら、そこに切実な感情が見える内容になっている。別れた彼女への諦めきれない感情が、等身大の言葉で、静かで優しいメロディに乗せて歌われるのを聴くと、当時のエリオットの感傷が目の前に迫ってくるようで、こちらまで胸がじんわりと震えてしまう。
◆歌詞和訳
I'm in love with the world through the eyes of a girl
僕は彼女の瞳を通して世界に恋をする
Who's still around the morning after
朝を迎えてもまだ隣にいる彼女の
We broke up a month ago and I grew up
僕たちは1ヶ月前に破局して、僕は大人になった
I didn't know I'd be around the morning after
朝になってもまだ隣にいるなんて僕はわかっていなかった
It's always been wait and see
いつもただ成り行きを静観していた
A happy day and then you pay
幸せな日もあれば、そのつけを払う日もあり、
And feel like shit the morning after
そういう時はクソみたいな気分で朝を迎えていたよね
But now I feel changed around and instead falling down
だけど今朝は少し違う気分なんだ、落ちていくんじゃなく
I'm standing up the morning after
立ち上がろうって思えている
Situations get fucked up and turned around sooner or later
参ってしまうような状況も、遅かれ早かれ好転するもの
And I could be another fool or an exception to the rule
僕が数多いる愚か者の一人になるのか、それともルールの例外になれるのかは
You tell me the morning after
朝が来れば君が教えてくれる
Crooked spin can't come to rest
歪んでしまった回転はもう止まってはくれない
I'm damaged bad at best
最大限うまく行ったところで僕は傷つくんだろう
She'll decide what she wants
彼女は自分が何を望んでいるか決断するはずで
I'll probably be the last to know
きっと僕にその答えを知る術はない
No one says until it shows, see how it is
答えが明らかにされるまでは、誰も教えてはくれない
They want you or they don't
自分が望まれているのか、それともそうじゃないのか
Say yes
「イエス」と言って
I'm in love with the world through the eyes of a girl
僕は彼女の瞳を通して世界に恋をする
Who's still around the morning after
朝を迎えてもまだ隣にいる彼女の
◆まとめ
以上、エリオット・スミスの "Say Yes" の歌詞を和訳した。彼の曲全般に言えることだが、文章が短く区切られていながら、しかしそれらが意味の上では繋がっていることが多く、自然な日本語に直すにあたりそこで苦労することが多いように感じる。
このフレーズが非常に美しく、ここだけでこの曲を愛するに十分値する歌詞だと思う。エリオットはアルコールやドラッグについて問題を抱えており、精神的にうまくいかない時間が長く、実際にその最期も自殺であった。原因にドラッグがある部分について肯定することは個人的にはできないが、そんな彼が、愛する人の瞳を通して見る世界に恋をしたと歌っているのには、胸を打たれずにはいられない。人を愛するということは、それによって世界までも愛することができてしまうような、本当に尊いことなのだなと感動してしまう。
この曲の物語の結末については、歌詞に "No one says" とあるように、誰かが教えてくれることはない。それ故に一層、”Say yes" という願いの言葉が切実な響きで胸に残る。誰かを本気で愛して、そしてそれを失いかけた時の感情が、切ないほどリアルに描かれた、究極のラブソングの一つだと思う。