きいな姫に捧げるBAIKA考〜歌詞から見るBAIKAの引力〜
去る8月24日深夜、ばってん少女隊メンバーの春乃きいなちゃんがSHOWROOMで「BATTEN音楽の日」の曲解説する配信の中、「BAIKA」の解説に入った途端にきいなちゃんが暴走。
曰く、BAIKAがすっっごく好きとのことで、万葉集からの引用の話やら各パートや振付への細かいコメントやらを話しまくり、きいなちゃんのBAIKAオタクな面がガッツリ見えた配信だった。
…その興奮した話っぷりとSRという距離感に、同じクラスで隣の席の女子の会話に混ざりたいけど混ざれなくて、でも心の中ではニマニマしながらうんうん分かる、と頷く男子高校生のような気持ちになった。ので、俺の日記を綴らんとす。
あんなの好きになっちゃうよ…。
何故「BAIKA」はこんなにも我々を惹きつけるのか?
まず「BAIKA」の作詞者に注目したい。
おかもとえみさんという方だが、この方はTEAM SHACHIの「わたしフィーバー」も手がけている。
「わたしフィーバー」は是非聴いてほしいが、捲し立てるような歌になっており、歌詞のワードチョイスも相まって女の子のメイクポーチのようなガチャガチャ感があるのだ。あと、最後のポケベル表現に置き換えた歌詞がとてもよい…。調べて思わず、あーーっ😩となる。
おそらく言葉遊びが上手い方なので、おかもとさんが作詞と知った瞬間にもうこの歌にすっかり「251232449…3!」なのだ。
歌詞の中の古語遊び
初めて歌を聞いたときから耳に残る、歌詞に散りばめられた古語たち。古語を用いた特徴は2種類に分類されるように思う。
①現代と違う意味を持つ言葉を敢えて使う
現代でも使われている言い回しを、古語としても使い多重の意味を持たせることで、聞き手に違和感を持たせ曲に解釈の幅が生まれるのではないだろうか。
②古語の言い回しに置き換える
①に分類した表現も含むが、「BAIKA」では敢えて古い表現を使っている箇所が散見される。聞き慣れない表現が混ざることで「今のはどういう意味だろう」という引っ掛かりが生まれているのではないだろうか。
*1 らむは推量の助動詞。「今ごろ〜だろう」の意。
*2 意味:波がしきりに寄せてくる
*3 意味:一面に照る、照りわたる(月によくかかる表現)
*4 意味:一心同体となる
(押し照るって言葉初めて知った…)
万葉集「梅花の歌」からの引用
きいなちゃんがSRでかなりの熱量で話していた部分である。
そもそも万葉集の「梅花の歌」とは、九州の大宰府の長官として赴任していた大伴旅人邸にて開かれた宴で詠まれた梅にまつわる32首である。
万葉集には序文がついており、現在の元号「令和」がその序文からとられたことで有名になったように思う。
「BAIKA」のフレーズで使われている「鶯」と「髪飾り」はこの32首にも頻繁に登場することから、「BAIKA」が「梅花の歌」を参考にしていることは想像に難くない。
また、BAIKAの歌詞冒頭は以下の歌と一致している。まさに本歌取りである!
▼鶯が登場する歌
鶯は梅の花を好み、梅と密接な関係であることがわかる
▼髪飾りが登場する歌
梅花の歌に登場する「髪飾り」は、梅の花を手折って髪に飾ることを指す。「かざす」は「飾る」の意。
▼おまけ:雪が登場する歌
「BAIKA」には雪は出てこないが、きいなちゃんが「梅と雪もね、多い組み合わせなのよ〜」と言ってたので記載。
雪の中に咲く梅を詠むのかと思いきや、梅が散る姿を雪が降る姿に見立てている歌が多い。
時間の流れの表現
①「今」を表現する言葉群
前述したような古語表現が多い一方、「BAIKA」の歌詞中には現代を表現する言葉も複数散りばめられている。
一例として以下を挙げる。
上記のような現代を表現する言葉たちを、古語の形容詞や動詞が覆い包むことで、過去と現在が混ざり合っているように感じる。
②過去と現在の対比
さらに視点をクロースすると、近接したフレーズで今昔の対比が用いられている場合もある。
「昔」や「移ろふ」という過去を思い立たせる言葉のすぐ後に「昨日」「未来」という現在を起点とした時間表現が続く。対極に位置する言葉を繋げることで、過去から現在という長い時間を横断しているような印象を受ける。
また、以下の2つのフレーズは、現代と過去の「明るく照らすもの」の対比にも読み取れる。
③悠久の時の表現
長時間・長期間を示す表現も散見されることで「今この瞬間」の歌というよりは、今も昔も含んだかなり長い時間を示している印象が強くなる。
「Happy」からの系譜
話の方向が変わるが、「BAIKA」を初めて聞いた際の第一印象は「なんだか「Happy」を思い出す」だった。
どちらも4分の4拍子(たぶん)のミドルテンポによる安定感と、歌詞から受け取った「人格者たれ」感に類似性を見ているのかもしれない。
「Happy」の時はコロナ禍真っ只中という時勢柄もあり、歌詞から諦念の気持ちを感じとってしまったことで聞くたびに反発する気持ちを持っていた。
そのような個人的心情もあり、世の中的にもコロナ以後と言える状況となってきたこのタイミングで披露された「BAIKA」は、かつての「Happy」の気持ちを焼き直す試みのように思えた。
というのと、自分自身がこういった歌詞に対して反抗心を持たなくなったというのもある。
まあ、人間の感情なんて長い時間の流れの中では無力だから…。
「BAIKA」は日本画である
前項で述べた「BAIKA」の古語表現や時間の流れといったものにより、「BAIKA」を聞いていると日本画を見ているような心地になる。
この感覚には恩田陸「蒲公英草紙」の中に登場する一説が思い出される。
これに対比するのは西洋画であり、西洋の絵は「この刹那、目に見える(中略)細かいところを正確に再現して」いると表現されている。
「BAIKA」の歌詞も瞬間を切り取るのではなく、前後の時間をも取り込まんとする意思を感じられる。
このような理由により、「BAIKA」の古く懐かしい感傷を持たせつつも、新鮮な気持ちになる曲調が作り上げられ、我々を惹きつけているのではないだろうか。
「BAIKA」は今と昔をミックスすることにより生まれた、リバイバル梅の宴であるのかもしれない。
尚、振付にまで言及したかったが解釈を掘り下げきれなかったため、歌詞に焦点をあてた解釈のみにて私のBAIKA考はおしまいとする。
SRのコメントで「次の曲の話にいってほしい」と言われたことに対して「ごめん!じゃあ最後にこれだけ」と言ってBAIKAの好きなところを3箇所くらい早口で言いたてるくらいBAIKA愛に溢れたきいな姫に捧げます。
参考
【4K60fps】ばってん少女隊『BAIKA』@お台場フェスティバル広場
ばってん少女隊「BAIKA」の歌詞 / 歌詞検索サービス「歌ネット」
https://www.uta-net.com/song/341923/
ばってん少女隊「Happy」の歌詞 / 歌詞検索サービス「歌ネット」
https://www.uta-net.com/song/292966/
TEAM SHACHI「わたしフィーバー」の歌詞 / 歌詞検索サービス「歌ネット」
https://www.uta-net.com/song/269394/
新元号「令和」の由来となった万葉集「梅花の歌」序と32首
http://small-life.com/archives/19/04/0120.php
Weblio古語辞典 https://kobun.weblio.jp/
コトバンク:本歌取り
https://kotobank.jp/word/%E6%9C%AC%E6%AD%8C%E5%8F%96%E3%82%8A-134987
「蒲公英草紙 遠野物語」恩田陸(集英社)
https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-746294-4
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?