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ブロックチェーンは何も解決しない。

はじめて、ブロックチェーンを知った時は興奮したものです。なぜかと言うと、「分散化した環境下で、合意形成が取れる」と謳っていたからです。

「これは民主的だな、色々な問題が解決する」と夢中になりました。

「ブロックチェーン」という言葉が、どうも一人歩きしていると感じたのは、ビットコインやイーサリアムを、よく理解してからでした。

よくよく考えれば、「分散化した環境下で合意形成」と言うのは、ビットコインのことだったのです。「ブロックチェーン」は、ビットコインや他の暗号通貨を実現するための、一要素にすぎません。

今回もJimmySong氏の論考を訳してみました。

以下、本文。

ブロックチェーン技術は真新しいものであり、十分な時間を投資すれば誰かが、通貨以外に役立つものを作るということを、ビジネス界隈では多くの人が信じています。これこそ私が「ビットコインではなく、ブロックチェーンを」症候群と呼んでいるもので、この記事では、ブロックチェーンさえ導入すれば、革命的な分散技術が実現するという神話を一掃します。

「ビットコインではなく、ブロックチェーンを」と言われてすでに5年。

企業のブロックチェーンへのこだわりは、ビットコインが世間で公になった直後の、2014年に始まりました。Bitcoinという革命的で革新的、分散化された、希少性がある、デジタルな通貨に注目する代わりに、彼らはBitcoinから「ブロックチェーン」だけを取り出しました。

ブロックチェーンを中心に、市場を開こうとしている、HyperledgerやR3のような複数の業界団体や、Digital Asset Holdingsのような会社が、この時期に現れています。

彼らに共通していたのは、あらゆる種類の産業における問題の万能薬として「ブロックチェーン」という単語を、使用したことでした。いかにも企業らしく、典型的なのは、彼らは「ブロックチェーン」という言葉を取り、あらゆる問題の解決策として、自分たちに都合の良い意味で使用したことです。

無知が誇大広告と出会う時


「ブロックチェーン」という言葉が、2015年頃に通った道筋は信じられないものでした。技術者ではない多くの人々、特にBitcoinがどのように機能するか、漠然とした感覚しか持たない人たちは、「私はブロックチェーンというテクノロジーを信じていますが、Bitcoinを信じていません」と言ったことです。これは明らかに、テクノロジーに関して、最先端にいるように思われたい、ビジネスマンの典型的な回答でした。

2011年から2015年頃まで、ある程度は今日まで、Bitcoinの評判が悪かった2つの理由があります。第一にBitcoinは、麻薬の売買、裏ページの広告の支払い、あるいはリバタリアンなどの活動と、関連してたからです。第二に、Bitcoinの技術を理解することは、一般の人たちにとって難しすぎて、効果的な問いを立てることに対して、難易度があまりにも高かったからです。

言い換えれば、「ビットコインではなく、ブロックチェーンを」を支持することは、当時のBitcoinに関連する、すべての不快な意味合を排除し、ブロックチェーン技術の、専門知識を持っているという印象を、多くの企業に与えられたからです。この行動から明らかなことは、彼らは、結局ブロックチェーンの本質を理解できず、無知である種をまいたことです。

技術に対する無知は、インセンティブ設計、ゲーム理論、さらには公開鍵暗号化さえ、ほとんど理解されないまま、ブロックチェーン技術者と名乗る、二流のエンジニアを生み出しました。これらのいわゆる「専門家」は、ある業界の問題はブロックチェーンさえを用いれば、少ない開発者、資金で解決きると信じさせたのです。しかも、「ビットコインではなく、ブロックチェーンを」症候群が発火する以前にも、誇大広告という形の大量の燃料が注がれたのです。

ブロックチェーン:全ての病気の万能薬

見せかけの知識は「The Blockchain Revolution」のような本に至ります。経済のほとんど、すべての分野の問題を解決すると謳い、同時に、技術的概念を曖昧に表現したため、多くの経営幹部は、「ブロックチェーン技術」に乗り遅れまいとしました。

多くの人が、ブロックチェーンこそ、業界が抱える問題の解決策になると約束されました。医療業界では、「ブロックチェーン」が、どういうわけか、患者のプライバシーを侵害することなく、患者の履歴を適切なタイミングで、提供者に利用可能と言われました。法律に関しては、「ブロックチェーン」はどういうわけか、高価な弁護士を必要とせずに、完全に公正な契約を作成できると言われました。サプライチェーンでは、「ブロックチェーン」はどういうわけか、一部の部品が規格外であること、または十分な部品が納入されていないことが、誰の原因であるか、証明できると言われました。芸術、音楽、そしてテレビでは、「ブロックチェーン」は、どういうわけか、著作権侵害を解決し、仲介者を排除することによって、作者に報いると言われました。オンライン広告の場合、「ブロックチェーン」はどういうわけか、ユーザーの正確な追跡をし、詐欺を減らし、利益の大部分を搾取する、仲介者を排除すると言われました。このように「ブロックチェーン」が、おそらく解決してくれるであろう、困難な問題は、いくらでも出てきます。

これらの解決策が、各業界の問題に対応しているのは、偶然ではありません。ブロックチェーンは空白のキャンバスになり、その上で、問題が解決可能なものとしていくらでも描けます。文字通り何百もの新興企業や、業界コンソーシアム、ICOを実施している企業は、「ブロックチェーン」を使用して、あらゆる業界で非効率性を、解決すると約束しました。

スタートアップの多くは、唯一の足りない部分は、ブロックチェーン専門の開発者であると考えました。彼らは、ブロックチェーンの専門家を集めさえすれば、業界をもっと良くして、彼らのために、途方もない利益を生み出せると考えました。

ブロックチェーンの現実


きっと、ブロックチェーン専門の開発者が、業界が望んでいたことを実現さえできれば、全てがうまくいていたはずです。ゼロ知識証明を、相互監視するオラクルを使用して、数テラバイトのスマートコントラクトを、迅速かつ効率的に実行でき、完璧で監査可能な、分散化された、暗号化データベースを作成するのはきっと簡単です。Solidityの数行のコードで、スケーラブルで、矛盾のない、保守可能なシステムを作り出せ、業界Xの最大の問題点を解決できたはずです。いやいや、無理でしょう。。

ブロックチェーンは、「業界Xで最大の課題を解決する」という謎の専門用語を使用して、課題が解決されることを、人々に納得させるというバズワードとなりました。ところが、現実はまったく違いました。スタートアップが発見したのは、ブロックチェーンは、万能薬ではないということです。彼らが直面したのは、長い間知られていた問題でした。オラクル問題、コンセンサス問題、チューリング完全コントラクトの分析可能性、フリーライダー問題など。また、ブロックチェーンであることは、少なくとも名目上は分散化している必要があるために、実際にこれらのソリューションを解決する際、万能薬どころか妨げになります。

さらに悪いことに、ブロックチェーンの開発者は、ユーザーおよびノー​​ドのインセンティブ、また敵対的な環境化での、悪用の可能性については、まったく無知でした。

完全な失敗


残念ながら、この病の結果は予測可能です。ごくわずかな人しか理解できないテクノロジーに対して、二流の技術で解決できると約束しても、成果を上げることはできません。結局、努力の結果、何も生み出していません。実証実験が生み出した、数少ない製品は、本格的な製品へと発展していません。発表された数少ない製品は、非常に小さな牽引力しか持っていません(1日当たり、2000アクティブユーザー未満のアプリやウェブサイトは、完全な失敗と見なされます)。

それにもかかわらず、業界X用の分散型ブロックチェーン、Yを最適化するための企業向けブロックチェーンの取り組み、および一部のサービスZ向けのパブリックブロックチェーンでさえも、今も注目を集めています。約束と結果の矛盾が指摘されると、ようやくいくつかの議論が起こります。

なぜブロックチェーンテクノロジーから、Bitcoin以外何も出てこないとを言い切れるのですか?

確かに、ブロックチェーンは、sound moneyのためだけに有用である、という私の論考に対して反証するのに、1つの反例を使うだけで事足りるのは事実です。ブロックチェーンという言葉を貶めることなく、ブロックチェーンが提供する価値の本質を言えば、分散型で、それ自体に価値があり、データを変更するには高コストであることです。これらの要素は、まさにBitcoinのようなsound moneyのために、誰もが望むものです。

規制され、変化し、成長している業界向けのソフトウェアであることを考えると、貨幣以外のプロジェクトが、一般的に必要とするものは、集中管理でき、アップグレード可能で、拡張可能なシステムです。残念ながら、ブロックチェーンとの組み合わせを考えると、このニーズは非常に難しくなります。言い換えれば、ブロックチェーンは、企業には不適切な道具です。

奇跡的に、人気のあるアプリが、ブロックチェーン上で作成されたとしても、ブロックチェーンなしの集中型のシステムは、「分散型」ブロックチェーン- yバージョンとまったく同じ、単一障害点を持ちながら、より安く、より速く、より信頼でき、より保守可能になります。 別の言い方をすれば、一般的なdAppの設計は、コスト、スピード、機能、規模の面で、集中アーキテクチャの競合他社に負けます。

非常に多くの人々がブロックチェーンに取り組んでいます!何かが誕生するの違いありません。

何かに取り組んでいる人がたくさんいるからと言って、欲望が魔法のように、現実に変わるわけではありません(参照:錬金術、常温核融合、空飛ぶ車など)。

それは言い過ぎとして。空飛ぶ車は少なくとも可能です。一方で、ブロックチェーン・プロジェクトが取り組もうとしているのは、「四角い丸」の作成、または永久機関です。集中管理で分散サービスを実現したい、つまり論理的に不可能ということです。

「ジミーは実験や、起業家精神、新しい挑戦をすることに反対しているんだ!」私によく届く批評の声です。これは典型的な「釣り」で、問題を見誤っています。実験を始めるのは、何の問題もありません。しかし、失敗した実験により多くのお金を注ぐことは、お金の使い方として間違っています。「ブロックチェーン」実験は無駄であるという歴史を持ち、実際には、ほとんどが一般社会で役に立っていません。資本と人的努力の無駄であり、いかなる有用な商品やサービスにも導きません。ペテン師が、自分の都合がいいように、利益誘導しているだけです。

これまでたくさんのお金が投資されました!誰かが何かを思い付くはずです!

技術的課題の解決は、単に資金調達の問題ではなく、技術革新の問題です。さらに悪いことに、ブロックチェーンのような、特に厄介で高コストなテクノロジーを、使用するために会社がコミットした場合は、何かが誕生する可能性は少なくなります。これは解決策が先にあって、後で問題を探している典型的な例です。お金を投じたからと言って、魔法のように、ブロックチェーンが最適な解決策であることにはなりません。

結論

「Bitcoinではなくブロックチェーンを」は新しい考えではありません。過去5年間は、このいわゆる「ブロックチェーン」技術では何も生み出されていません。今後5年間でも、進展を見ることはまずないでしょう。ブロックチェーンが得意であると思われる唯一のことは、問題を解決すると約束しながら、何の成果物もなく、途方もない資本を消費することです。

ブロックチェーンは、解決策が問題を探している状態です。あまりにも多くの人々が “ブロックチェーン"という言葉によって取り込まれ、裸の王様が服を来ている振りをしています。架空の服は、業界の最大の問題に対する、完璧な解決策のように思えるかもしれません。残念ながら、希望的観測をしたからと言って、それは「現実」ではありません。

悪い知らせで申し訳ありませんが、王様は服を来ていません。ビットコインなしのブロックチェーンは、何もないハンバーガーです。

「AI」と「ブロックチェーン」は、言葉だけが一人歩きしている典型的な例です。テクノロジーをよく理解せず、単純化してしまった悪例です。

ビットコインのブロックチェーンが実現する、もっとも魅力的なところは、企業がもっとも避けたい、「分散環境下での合意形成」。つまり自らの存在を解体するということです。

ビットコインを構成する要素、ブロックチェーン、公開鍵暗号、P2P、マイニング、そしてコンセンサス・アルゴリズム。これらの要素は、寸分の狂いもなく調和し、10分間隔で鼓動を刻んでいるのです。

決定的なのは、ビットコインを完成させた最後の1ピース、「Satoshiの不在です」。

「ブロックチェーン」だけ取り上げて、同じことができると考えるのは愚かです。

ビットコインはコピーできないのです。




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