4つの思考は循環する
■4つの思考は循環する
以前お話したように、アート思考とデザイン思考、エンジニアリング思考、サイエンス思考の4つの思考にはそれぞれ特徴があります。常にどの思考が大事、というわけではなく、時代や状況に合わせて特に求められるものが違ったりするのですが、いずれも同時に必要となるものでもあります。そして、4つの思考の関係性を意識して活用することで良い流れへ循環していきます。
思考に関する私の経験をお話しましょう。
もともと、私はエンジニアとして長い間仕事をして、技術力を磨いて求められた課題を解決してきました。しかしモノを作ることで逆にユーザの手順が増えたりして使われなかったり喜ばれることもないこともあり、ただ言われたとおりにモノを作れば良いという仕事の仕方に徐々に違和感を感じていました。
そんな私がシステムを作るよう求められた時に一番最初にしたことはプログラミング言語習得よりも要件定義の手法を学ぶことでした。また同時に監査業務に興味を持ち、業務プロセスの設計やその適切性を知ることが自分に合った仕事だと、その方向へ仕事をシフトしていきました。その時に大事にしていたことは、
・人が何を考えてその行動をしているのか
・本当に実現したいことは何か
・一人の考えが他の人に適切に伝わっているか
でした。当時はまだ「デザイン思考」という言葉と出会ってなかったのですが、今思えばそれに近い考え方だったのだと思います。そしてこの当時運よくいくつかのデザインメソッドに出会い学ぶことで成長しました。
ビジネスにおいて、ユーザの要望を掘り下げて本当に実現したいことを叶えられれば嬉しいものです。しかしこの掘り下げがデザイン思考でもまだ足りないと感じるようになりました。
その後、今までの常識が通じない新しい環境で、思いつきを臆することなく表現することでうまくいくことが増えました。何故うまくいっているのかわからないままに、少しずつ経験と勘を積み上げている頃に「アート思考」という概念に出会ったのです。
私はこうして一歩ずつ前進しながらエンジニア思考→デザイン思考→アート思考に辿り着きました。これらをそれぞれの特徴を踏まえて4象限に分類してみたいな、と思った時に不足している領域があり自分にとって未知の領域であるサイエンス思考を思いつき、4象限が出来上がったのです。
■他の研究者による4象限の活用
自分で考えた4つの思考分類が有効なのかと調べていたところ、他にも同じ考えを持っている研究者の方がおられました。
現時点で確認している2つは、SEDAモデルとKrebs Cycle of Creativetyモデルです。
といっても前者は社会におけるモノの価値について、後者は材料合成についてですので活用方法は異なりますが、同じ4象限で世界観を伝えられていることは私に安心感を与えてくれました。
(1)SEDAモデル
一橋大学イノベーション研究センターの延岡 健太郎教授による経営学の視点で「Science/Engineering/Design/Art」からなるSEDAモデルを提唱されています。詳しくはこちらの日本政策金融公庫発行の「調査月報(2017年12月号、No.111)」をご覧ください。
「ものづくりが価値づくりに結びつかなくなった最大要因の一つは、イノベーションが目標とすべき顧客価値の基準が大きく変容した点にある(記事抜粋)」と唱え、意味的価値(アートとデザイン)だけでなく、機能的価値(サイエンスとエンジニアリング)も合わせた統合的価値こそが重要であると述べられています。
起業に必要なイノベーションのためにはアート的概念は必須ではあるけれど、顧客価値の高い商品を産み出すには他も合わせてバランスよく考える必要があるということですね。
(2)Krebs Cycle of Creativetyモデル
MIT Media Labの「Journal of Design and Science」に投稿されている、MITの教授であるNeri Oxman氏によるAge of Entanglementの記事も見つけました。「Age of Entaglement」とはArtとDesign、Engieering、Scienceの4つが絡み合った時代という意味ですが、どのように絡み合っているかはYouTubeで彼女のTEDトークで観て頂くのがベストです。分野は違っても素敵なトークなので是非ご覧ください。
■思考のエコシステム
エコシステムはもともとは自然界における生物とそれを取り巻く環境が相互作用しながら、生産→消費→分解し、バランスのとれたモデル全体を表現しています。
思考においても、一人で4つの思考をバランスよく持ってもいいし、仲間とお互い相互影響し合ってもいいと思います。大事なのは停滞することなく100年先も変化に適応した思考を維持することだと思います。