フルタイムワーカーがサブスリーを達成するためのトレーニングに関するアイデア
フルマラソンレースに参加し始め、完走経験が増え記録が伸びるにつれて多くのランナーが頭に思い描くようになるのが「サブスリー」ではないでしょうか。
私はロングトライアスロンレース出場に向けてのラントレーニングの一環ととしてフルマラソンレースに初めて参加したのですが、初マラソンレースの完走タイムが3時間16分、その約9ヶ月後に参加した2度目のフルマラソンレースの完走タイムが3時間9分と、僅かばかりタイムが向上したのを機に「サブスリー」を意識するようになり、2度目のフルマラソンレースから約3ヶ月後に参加を予定していたフルマラソンレースで「サブスリーを達成しよう」という具体的な目標を掲げました。
そして、様々な工夫を重ねながらトレーニングを実施し3度目のフルマラソンでサブスリーを達成!(2時間59分56秒!)
その後、トライアスロン競技をやめるまでロングトライアスロン競技のランニングトレーニングの一環として年に2度のペースで参加していたフルマラソンレースではコンスタントにサブスリーで完走するレベルにまでに至りました。
私の場合、フルマラソンレースはあくまでロングトライアスロン競技のランニングトレーニングの一環という位置付け(ロングトライアスロン競技のラン=フルマラソンを2時間50分台で走るためのトレーニング)であったので、サブスリーといっても2時間50分台のタイムをウロウロしていただけでしたが、フルマラソンを確実に3時間以内で走るというノウハウは十分に蓄積出来たのではないかと考えています。
そこで、今回はフルタイムで働く市民ランナーがサブスリーを達成するためのトレーニングのアイデアについて自身の経験を踏まえて解説致します。
1.長距離走競技パフォーマンスを構成する要素
まず、フルマラソンを始めとする長距離走競技のパフォーマンスを向上させるために必要な体力要素は何であるのかについて整理してみます。
これまでの先行研究から長距離走競技パフォーマンスは、最大能力(最大酸素摂取量、最高走速度、等)、最大下有気的能力(LT:乳酸性作業閾値、OBLA:血中乳酸蓄積開始点、等)、その他の要因・要素(ランニング効率、筋力、パワー、等)の3つの要素で構成されることがしられています。
長距離走競技パフォーマンスに関する研究が盛んになり始めた頃は、最大酸素摂取量の高さに注目が集まっていましたが、その後、様々な研究が行われるにつれて、LTやOBLAといった最大下能力が注目されるようになり、その後は特にランニングエコノミーが注目されるようになってきたのではないかと考えます。
いずれにしても、長距離走競技パフォーマンスを向上させるためには、上述した3つの要素を向上させるべくトレーニングを実施していくことが重要になりますが、この世に万能なトレーニングというべきものは存在する訳もなく、ましてやランニングを続けていれば、それぞれの要素が勝手に向上していくということはありません(もちろん、初心者ランナーにおいては単にランニングを続けているだけで、ある一定のレベルまではパフォーマンスが向上するといえますが、いずれ頭打ちになるといっても過言ではありません)。
上記の3要素を向上させるためにはそれぞれに特異的なトレーニングを積み重ねていく必要性があるといっても過言ではないのです。
ただし、フルマラソンという競技特性を考えた時、上記の3要素において特にフォーカスすべき要素があるのも事実であり、フルマラソン競技の場合、最大酸素摂取量の高さよりもLTやOBLA等の最大下能力の高さの方が競技パフォーマンスとの間に密接な相関関係があることが報告されていることから、LTやOBLA等の最大下能力を高めることにフォーカスしたトレーニングを優先させることが重要になると考えます。
ましてやフルタイムで働く市民ランナーがフルマラソンでサブスリーを達成するということに着目すれば、さらに優先すべきトレーニングは絞られるのではないかと私は考えています。
2.フルタイムで働く市民ランナーがフルマラソンでサブスリーを達成するために必要とすべき要素とは?
では、フルタイムで働く市民ランナーがフルマラソンでサブスリーを達成するために必要な要素は具体的に何であるのか?、その要素を向上させるために必要なトレーニングは何であるのか?について考察してみます。
まず、フルタイムで働く市民ランナーがフルマラソンでサブスリーを達成するために必要な要素を検討する前に、市民ランナーがフルマラソンを完走するために必要とすべき、要素・能力について考えてみます。
私は市民ランナーがフルマラソンを完走するために必要な要素はズバリ筋力(下肢の筋力)であると考えています。
その理由を以下に示します。
はじめに、最大酸素摂取量からフルマラソンの完走タイムを推定するFosterとDanielsの式【マラソンのタイム(分)=387.3-3.45×最大酸素摂取量(ml/kg/min)】を用いて市民ランナーがフルマラソンを完走するために必要とすべき持久力(最大酸素摂取量)を推定してみると、下図が示す通り、それほど高いレベルの最大酸素摂取量を必要としないことが分かります。
そして、フルマラソンの完走タイムと最大酸素摂取量との間には相関関係がるものの完走タイムがほぼ同一である市民ランナーにおいて最大酸素摂取量にばらつきが生じている事実も存在します(下図参照)。
このばらつきが生じる理由は様々であると考えられますが、下図の通り市民ランナーに限らずフルマラソンレースではレース後半(特に、30km以降)にランニング速度(ペース)の低下が顕著となり、日本国内のレースを調査した研究ではレース参加者の90%以上はレース後半にペースが落ちていることが報告されていることから、このレース後半のペースダウンの度合いが上述したばらつきの原因であることが推察されます。
このフルマラソンレース後半にみられるペースダウンの原因も様々であると考えられますが、以下の記事で記述している通り恐らく筋力不足が大きな原因であると考えられます。
*フルマラソンレース後半にみられるペースダウンと筋力の関係については以下の記事を参照下さい。
これらを踏まえて、多くの市民ランナーがフルマラソンを完走し、なおかつ3時間を切ってゴールするために何より重要になるのは下肢の筋力であり、多くの市民ランナーには、まずしっかりと下肢筋力を高めるべく筋力トレーニングに努めて頂きたいと私は考えています。
ちなみに、これは私の経験ですが私はトライアスロン競技を始める1年前に某フォットネスクラブで週3回みっちりと筋力トレーニングを実施していました。
当時、私が取り組んでいた筋力トレーニングはマシーントレーニングだけではありましたが、某フィットネスクラブのシステムの特性上、各種マシーンを使って筋力をしっかりと向上させるプログラムが提供されていたので、1年間に及ぶ筋力トレーニングによって私の下肢筋力は向上し、さらには筋力トレーニングが日常的に習慣付けられたことも大きな収穫となりました。
こうした筋力トレーニング経験が何より自身がフルマラソンでサブスリーを達成出来たことに大きく貢献しているものと考えており、まずは筋力を向上させることに注力することがサブスリーへの第一歩であるという考え方に結びついています。
今、社会情勢が日々変化する中で多くのレースが中止や延期を余儀なくされ、思うようにレースに参加出来ない状況にある市民ランナーも多いのではないかと考えますが、サブスリーを目指している市民ランナーや、記録の伸び悩みを感じている市民ランナーの皆さんは、今の状況を能力向上のチャンスと捉えて筋力トレーニングに取り組んでみては如何でしょうか。
尚、筋力トレーニングに取り組むに際してはトレーニング指導の専門家の下で適切な筋力トレーニングを実施することをお勧め致します。
3.最大下能力(特にOBLA)を向上させるのがサブスリー達成の最短ルート!?
フルタイムで働く市民ランナーがサブスリーを達成するために必要な要素として筋力の次に重要になると考えているのが、LTやOBLAといった最大下能力です。
上述の通り、市民ランナーに限らずフルマラソン競技パフォーマンスとLTやOBLAといった最大下能力との間には相関関係がみられることが多くの先行研究によって示唆され、特に市民ランナーのフルマラソンのレースペースはLTに相当するペースであることがしられています。
従って、市民ランナーがサブスリーを達成するためには何よりLTを向上させるべくトレーニングすることが重要になるといえる訳ですが…
私が大学院時代に自身の修士論文のために実施した実験において、実際にフルマラソンレース中に測定した私の心拍数データから私のフルマラソンレース中の平均心拍数と、自身の実験で得られたOBLAに相当する強度(走速度)における心拍数が同程度であったこと(これは私個人の特性であるのも否めませんが…)から、市民ランナーにおいてもフルマラソンレース中にはLTに相当するペースを超えるペースで走るケースも多いのではないかと推察しています。
なぜなら、市民ランナーのフルマラソンレースの場合、スタート後から5km程度まではランナーが密集した状態であり思うように自分のペースで走れないためイーブンペースでサブスリーを達成する上ではディスアドバンテージになるケースが多く、サブスリーを達成するためにビルドアップ的にペースを上げざるを得ないケースが多いと言えるからです。
従って、市民ランナーがサブスリーを達成するためにはLTを超えるペースで走る能力の高さも重要ではないかと個人的には考えています。(この件については、機会を改めて考察させて頂きます。)
以上を踏まえ、市民ランナーがサブスリーを達成するためには、LTからOBLAに至るまでの領域の最大下能力を高めるべく、いい換えればOBLAを向上させるべくトレーニングを実施することが重要であると私は考えます。
ちなみに、LTもOBLAも同じ最大下能力を表す指標ですのでLTの向上がOBLAの向上に結びつくのではないかと考えられるかもしれませんが、以下の記事にも記載してある通り最大酸素摂取量とLTが同一レベルにある選手においてもOBLAに差が見られるケースもありLTとOBLAは異なる最大下能力であることが推察されます。
*LT,OBLAに関しては以下の記事も参照下さい。
これらのことから、私は市民ランナーがサブスリーを達成するためにはOBLAを向上させることを目的とするトレーニングに的を絞ることが重要ではないかと考えています。
また、OBLAの向上とともに長距離走の耐性を高めることも何より重要です。
先行研究によると、フルマラソンレース中には走動作によって繰り返される接地において伸張-短縮サイクルの連続よる筋損傷が生じることが報告され(Sanchez LDら,2006)、筋損傷がランニングエコノミーを低下させること(Braun WA, Dutto DJ,2003)が報告されていることから考えると、フルマラソンレース中に生じる筋損傷はレース後半におけるランニングスピードの低下や筋や関節組織の痛みを引き起こす可能性があると考えられます。
サブスリーを目標にするしないに関わらず、多くの市民ランナーがフルマラソンレースの後半で下半身の筋肉や関節に著しい痛みを感じランニングスピードを落とさざるを得なかったという経験を有しているのではないかと推察され(もちろん、私も経験しています)、それがサブスリーへの障壁であると考えている市民ランナーも多いのではないでしょうか。
従って、市民ランナーがサブスリーを達成するためにはフルマラソンレース中に生じる筋損傷を(極力)防ぐことであるといっても過言ではない訳ですが、先行研究によれば、フルマラソン経験が豊かなランナーにおいてはフルマラソンレース後の筋損傷が少ないことが報告されており(Karstoft Kら,2013)、また、「繰り返し効果」と呼ばれる筋損傷の抑制効果が存在し、事前に同様の運動をすることによって筋損傷が抑制されることが報告されている(McHugh MPら,1999)ことから考えれば、フルマラソンレース前に筋損傷の抑制に関係する「繰り返し効果」を得ること、すなわち、長距離走の耐性を高めるべくトレーニングすることが重要であると考えます。
*長距離走の耐性を高めることの重要性については以下の記事も参照下さい。
以上を踏まえて、市民ランナーがサブスリーを達成するためには、OBLAを向上させるためのランニングトレーニングと、長距離走の耐性を高めるためのランニングトレーニングを優先・重視すべきであるといえるでしょう。
4.OBLAを高めるためのトレーニングと長距離走の耐性を高めるためのトレーニングの具体例
市民ランナーがサブスリーを達成するために必要なOBLAを向上させるためのトレーニングと長距離走の耐性を高めるためのトレーニングとは実際どのようなトレーニングなのか?を私の経験を基に以下に示します。
4-1:OBLAを向上させるためのインターバルトレーニング
OBLAを向上させるためには、極論をいえばOBLAに相当する強度で運動すれば良いということになるのですが、上述した通りOBLAは5kレースからハーフマラソンレースのレースペースに相当する強度であり、一言でいえば「きつい」運動といえることから、(基本的に)その強度を保ち、ある一定時間の運動を継続することは難しいといっても過言ではありません。
すなわち、ペース走などの持続的運動はOBLAを向上させるために必要とすべきトレーニング刺激を身体に与える上で効率的ではないということです。
フルタイムで働く市民ランナーにおいては、充分なトレーニング時間を確保出来ない状況下でトレーニングをしなければならない訳ですから、サブスリーという目標を達成するためには効率的な努力を重ねていかねばなりません。
そこで、必要な運動強度を保ちながら必要とすべき運動時間を確保するという観点からOBLAを向上させるためのトレーニングとして最も有効であると考えるのがインターバルトレーニングです。
インターバルトレーニングとは簡単にいえば高強度運動と低強度運動を交互に繰り返すトレーニングですが、OBLAを向上させるためのインターバルトレーニングの場合、OBLAあるいはOBLAを若干超える強度のランニングとレストに相当する低強度運動(jog)を交互に繰り返すトレーニングであると考えて頂いて構いません。
そして、OBLAは上述した通り5kレースからハーフマラソンまでのレースペースに相当することから考えれば、OBLAを向上させるためインターバルトレーニングにおけるOBLAに相当する強度のランニングは、その合計タイムが20分(5kレースと同等)以上になるよう設定します。
また、レストに相当するjogの設定タイムはOBLA強度のランニング時間と同等(例えば、OBLA強度のランニングタイムが4分であればjogの設定タイムも4分)を基本にすると良いでしょう。
このOBLAを向上させるためのインターバルトレーニングの基本的な考え方は、OBLA強度(あるいは、それ以上)のトレーニング刺激を必要とすべき時間(5kレースからハーフマラソン程度の運動時間)、身体に与えることであるといっても過言ではないため、OBLA強度でのランニングペースを維持することを優先した上でjogタイムを設定することが望ましいと考えています。(恐らく、このOBLAを向上させるためのインターバルトレーニングを始めた当初は少し長めのjogが必要になってくるのではないかと考えます。)
この考え方に基づいて、サブスリーの達成を目指す市民ランナー向けのOBLAを向上させるためのインターバルトレーニング例を以下に示します。
上記は、実際に私が取り組んでいたOBLAを向上させるためのインターバルトレーニング内容ですが、私の場合は普段走っていたランニングコース上に遊歩道のある公園があったため、その公園の遊歩道を活用し、このインターバルトレーニングを実施していました。
なお、OBLA強度でのランニングの設定タイムは10kレースのレースペース(3:45)を基準に3:40に設定(10kレースペースより少し速く設定)し、jogタイム(レストタイム)の設定はOBLAペースランが設定本数しっかりと維持出来ることを優先し4:00としました。
インターバルセット(本数)は、OBLA強度でのランニングの合計タイムが20分以上になることを基本に、まずは5本(合計18:20)から始めトレーニングを重ねるにつれて本数を増やしていき、8本(合計29:20)を基本としていました。
このOBLAを向上させるためのインターバルトレーニングを実施したことによってサブスリーが達成出来たことはもちろん、10kレースの記録も向上(37:30→35:10)しました。
4-2:長距離走の耐性を高めるためのロング走(3時間走)
上述した通り、フルマラソン経験が豊かなランナーにおいてはフルマラソンレース後の筋損傷が少ないことが報告されており(Karstoft Kら,2013)、また「繰り返し効果」によって事前に同様の運動をすると筋損傷が抑制されることが報告されている(McHugh MPら,1999)ことから、フルマラソンレース前に長時間走を実施することによってフルマラソンレースによって生じる筋損傷を軽減出来るのではないかと考えられます。
フルマラソンレースによって生じる筋損傷を軽減することが出来れば、フルマラソンレース後半のランニングペースの低下を防ぐことが可能となり、サブスリーを達成する可能性が高くなるといえます。
これらを踏まえて私は筋損傷抑制効果を得るため、いい換えれば長距離走の耐性を高めるためにロング走(3時間走)を実施していました。
私はロング走を距離ではなく時間で設定していましたが、ロング走として3時間という運動時間を設定した明確な根拠はありません。しかし、自身の実感としては2時間を超える辺りから身体状態の明らかな違い、筋のダメージ具合に大きな違いを感じたことから、あくまでもフルマラソンレース前にランニングによって筋損傷を生じさせておくことで筋損傷抑制効果を得るという点にフォーカスし3時間という時間設定によるロング走を実施していました。
*長距離走の耐性を高めるためのロング走に関しては以下の記事も参照下さい。
5.フルタイムワーカーは『バック to バック:back-to-back hard days』という考え方を取り入れる!
上述した通り、市民ランナーがサブスリーを達成するために必要な要素および、その要素を向上させるためのトレーニングのアイデアをご紹介させて頂きましたが、ここでは実際にそれらのトレーニングを如何に実施していくか、すなわち、どのようなトレーニングプログラム(練習計画)を構築していくか?ついて考えてみます。
フルタイムで働く市民ランナーがサブスリーを達成するためのトレーニングプログラムについて考える前に、まずは持久系競技者のトレーニングプログラム(練習計画)に対する基本的な考え方について整理しておきます。
大まかに持久系競技者のトレーニングプログラム(練習計画)を考える時には、「最大能力(最大酸素摂取量、最高走速度、等)を高めるためのトレーニング」「最大下能力(LT、OBLA、等)を高めるためのトレーニング」「回復を促すためのトレーニング」の3つを効率的に組み合わせて構成することが重要であると考えられ、最大能力を高めるトレーニングと最大下能力を高めるトレーニングは更にそれぞれ細分化された上で具体的なトレーニング内容としてトレーニングプログラムに落とし込んでいくのが基本的な考え方です。
そして、「最大能力を高めるためのトレーニング(細分化されたトレーニングも含む)」と「最大下能力を高めるトレーニング(細分化されたトレーニングも含む)」を古今東西いわゆる「ポイント練習」と位置づけ、1週間の中で2回の「ポイント練習」と、それ以外は「回復を促すためのトレーニング」で構成されるトレーニングプログラムが基本的なトレーニングプログラムであるといえます。
ちなみに、トライアスロンの著名なレースであるIronmanが主宰するIronman Universityでも、3種目(スイム・バイク・ラン)それぞれに週2回のポイント練習(Ironman Universityの場合は『key session』と称しています)を組み込むトレーニングプログラムを推奨しています。
*Ironman Universityが推奨するトレーニングプログラムに関しては以下の記事も参照下さい。
また、今や多くの市民ランナーが活用しているのではないかと思われるNINEのランニングアプリ「Nike Run Club:NRC」でも「スピードラン」「ロングラン」と称される2つのポイント練習と「リカバリーラン」と称される回復を促すためのレーニングで構成されるトレーニングプログラムを提供しています。
いずれにしても、週内2回のポイント練習によって身体に適切なトレーニング刺激を与えることが持久系競技パフォーマンスを向上させる上で重要になると考えられている訳ですが、上述した「OBLAを向上させるためのインターバルトレーニング」と「長距離走の耐性を高めるためのロング走」は、市民ランナーがサブスリーを達成するためのトレーニングプログラムにおける2つのポイント練習であるということになります。
そして、そのポイント練習の効果を最大限に引き出すには如何に身体を回復させるか、すなわち「回復を促すためのトレーニング」をどのように組み込んでいくか?も重要なポイントになると考えられます。
身体能力の向上にはトレーニング刺激に対して身体を回復させることが不可欠であるといっても過言ではありません。
トレーニング刺激に対して身体が回復していく過程には様々な因子(遺伝的因子、性差、年齢、走歴および走レベル、ライフスタイル、等)が関係していることからトレーニング後に必要な回復時間を明確に示す科学的根拠は極めて乏しい状況ですが、多くのランナーやコーチの経験等を踏まえた1つのガイドラインを以下に示します。
このガイドラインに基づけばポイント練習後には概ね4日から5日の回復時間(回復日数)を設ける必要があるといえますが、ポイント練習の内容によっては、例えば、それぞれのポイント練習で主として刺激するエネルギー供給機構が異なる場合は身体に対するトレーニング刺激がそれぞれ異なるため、必ずしも上述した回復日数を必要としなくても良い場合があります。
*エネルギー供給機構に関しては以下の記事も参照下さい。
以上を踏まえ、ポイント練習後に2日間程度の回復期間を設け、次のポイント練習を行うというものが多くのトレーニングプログラムでみられる一般例(以下参照)であり、このような「ポイント練習」と「回復を促すためのトレーニング」を組み合わせる考え方は「ハード&イージーの原則」としてしられています。
いずれにしても、トレーニング後の回復時間には個人差があり、個々の特性に合わせたトレーニングプログラムを構築することが重要になるといえるでしょう。
最近は、スマートウォッチ、スポーツウォッチの進化によって、心拍数を活用し身体の回復促進をサポートする機能が搭載されているものも販売されていますので、必要に応じてこれらのデバイス等を活用し自身の回復過程、回復度合いをモニタリングしながらトレーニングを行うこともお勧めです。
*疲労回復サポート機能搭載スポーツウォッチに関しては以下の記事も参照下さい。
以上が持久系競技者のトレーニングプログラム(練習計画)の基本的な考え方ですが、フルタイムで働く市民ランナーの多くは平日はトレーニング時間を十分に確保出来ず週末にまとめてトレーニングをしているケースが多いのではないかと推察されることから、この基本的なトレーニングプログラムの考え方から外れて、ポイント練習を実施していない、あるいは週末に1回のポイント練習に留めているというケースも少なくないのではないかと考えます。
しかしながら、このような状況下にあるからといって能力向上に必要とすべきトレーニング刺激を充分に身体に与えていない、すなわちポイント練習が出来ない or 不十分なポイント練習、でトレーニングを進めていくのは目標を達成する上で弊害になる可能性もあります。
そこで、多くの市民ランナーに取り入れて欲しいのが、2日間連続で「ハードなトレーニング=ポイント練習」を行うトレーニングプログラムパターンを意味する「バック to バック」という考え方です。
この「バック to バック」という考え方=トレーニングプログラムパターンに基づけば、多くの市民ランナーにとって有益なトレーニングプログラムが構築出来るのではないかと考えます。
平日は充分なトレーニング時間を確保出来ず、週末にしかポイント練習が出来ない市民ランナーにとっては、週末のポイント練習に向けて平日は回復を促すためのトレーニングに専念出来るという点で非常に理にかなったトレーニングプログラムになる筈です。
私の場合、土曜日にポイント練習1としてOBLAを向上させるためのインターバルトレーニング、日曜日にポイント練習2として長距離走の耐性を高めるためのロング走を行い、平日は回復を促すためのトレーニングに専念すべくトレーニングプログラムを構成していました。
土曜日にOBLAを向上させるためのインターバルトレーニングを行なっていた理由は、このインターバルトレーニングはロング走に比べ強度の高いトレーニングであり、OBLA強度でのランニングペースを保ちトレーニングを完遂するためには身体がフレッシュな状態であることが重要であると考えられるからです。
また、日曜日に長距離走の耐性を高めるためのロング走を行なっていた理由は、このロング走は長距離走の耐性を高めることが最大の目的であり、運動強度(ランニングペース)よりも運動時間を優先していたことからインターバルトレーニング後(翌日)でも充分、目的に合ったトレーニングが実施出来ると考えたからです。
そして、上述した通り長距離走の耐性を高める、すなわち、フルマラソンレース前に筋損傷の抑制に関係する「繰り返し効果」を得るという点で身体がフレッシュな状態でフルマラソンレースのシミュレーション的なロング走を実施することも重要であると考え、4週間に1度の頻度で土曜日のインターバルトレーニングを実施せず(その場合は、土曜日も回復を促すためのトレーニングを実施)ロング走のみをポイント練習として捉える週を設けていました。
この場合は、自身の設定するフルマラソンのレースペースよりも少し速いペースでのランニングとjogを自由に繰り返すスピードプレイという形式のロング走を実施していました。このロング走は、運動時間よりも強度(ランニングペース)を重視し通常のロング走(3時間)よりは短い運動時間(2時間30分程度)で行なっていました。
ロング走のみをポイント練習として捉える週を4週間に1度にしていたのは、Tabataらの報告(1989)によって高強度のトレーニング刺激に対するコルチゾル(ストレスホルモン)の血中濃度(血清濃度)が4週間でピークを示すことが明らかにされていることに起因します。
この知見を踏まえ、ストレスレベルが過剰になり血清コルチゾル濃度がピークに至る前に(すなわち4週目に)をトレーニング量を減らしロング走の質を高めるようにしていました。
このようなアイデアが全ての市民ランナーに当てはまる訳ではないといえますが、週末主体のトレーニングを余儀なくされている市民ランナーには参考になるアイデアではないかと考えます。
6.平日に「回復を促すためのトレーニング」に専念するためのアイデア
上述した通り、フルタイムで働く市民ランナーがサブスリーを達成するために週末に2回のポイント練習を実施し平日は回復を促すためのトレーニングに専念するというアイデアを提案させて頂きましたが、回復を促すためのトレーニングを実施する上での注意点やアイデアを幾つかご紹介させて頂きます。
既述の通り、身体能力を向上させるためには適切なトレーニング刺激を身体に与え、そのトレーニング刺激からの回復を促すことが不可欠になるといっても過言ではありませんが、意外に多くの市民ランナーが陥りやすいのが回復を促すためのトレーニングである「回復走(jog)」なのに走り過ぎてしまうことではないかと考えます。
回復走なのに必要以上に長い時間走ってしまう、あるいは、必要以上に速いペースで走ってしまう、という具合に、ついつい中途半端なトレーニングを実施してしまうケースが多いのではないでしょうか。
その結果として、充分な回復が促されず週末のポイント練習においても必要とされる運動強度(ランニングペース)を保てない、あるいは、必要とされる走距離(走時間)を保てない、という負の連鎖が始まり、いずれ、ただ単調なペースで一定時間ランニングするだけ…という単調なトレーニングになってしまっているケースを多々みかけます。
基本的にコーチのいない市民ランナーにとっては、トレーニングを計画するのも管理するのも自分自身です。
ある程度の走歴を重ねると様々なトレーニング内容を見聞しトレーニングを計画する(トレーニングプログラムを構築する)のは1人で行えるものですが、実際にトレーニングを実施する際に、ペースを上げる・保つ・抑えることやランニング時間を調整すること等のトレーニングを管理すること、特に自制することは何とも難しいことであるといっても過言ではありません。
ましてや、フルタイムで働く市民ランナーは仕事上のストレス等で体調、コンディションを保つのが難しかったりするので、尚更、トレーニングを管理、コントロールするのが難しい状況にあるといえます。
その結果、適切なトレーニングプログラムを構築しても、いつしか自然と単調なトレーニングを実施してしまい、その単調なトレーニングを続けてしまう傾向にあるのではないかと考えます。
そのような単調なトレーニングプログラムは能力向上が期待出来ないばかりか、場合によってはオーバートレーニングを引き起こす可能性があることも示唆されていることから、上述したような負の連鎖に陥らないよう注意することが何より重要なのです。
*単調なトレーニングが身体に及ぼす影響については以下の記事も参照下さい。
その負の連鎖に陥らないようにするため、あるいは、その負の連鎖を断ち切る上で重要になるのがポイント練習と回復を促すためのトレーニングのメリハリをつけることであり、状況によっては平日はランニング以外の運動で回復を促すことに専念するということも1つのアイデアであると私は考えています。
なぜなら、ランナーの性格上!?ゆっくりとjogしようとしていても、いざ走り始めると、つい走り過ぎてしまうことも少なくないと考えるからです。
従って、ランニングの代わりに固定バイク(エアロバイク)やスイムで回復を促すという選択肢を設けることも重要であるといえるでしょう。
私の場合は上述した通り1年間の筋力トレーニング経験によって日常的に筋力トレーニングに取り組む習慣が身に付いていたので、オフィスにトレーニングルームがあったことも幸いし平日は回復を促すためのトレーニングとして週1、2回の筋力トレーニングを行う期間も設けていました。
このように週末のポイント練習をしっかり実施するために平日は回復を促すことに努めて敢えてランニング以外の運動を取り入れるという選択も視野に入れてトレーニングプログラムを構築することが重要です。
*フルマラソンに挑戦する市民ランナーのためのトレーニングに関しては以下の記事も参照下さい。
以上、フルタイムで働く市民ランナーがサブスリーを達成するためのトレーニングのアイデアをご紹介させて頂きました。多くの市民ランナーのお役に立てたら幸いです。
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