令和6年短答式刑法解説

まだ、発売されていないようなので、作りました。
どうぞ。

短答式試験問題集[刑法]
[刑法]
〔第1問〕(配点:3)
業務妨害罪に関する次の1から5までの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものを2個選びなさい。(解答欄は、[No.1]、[No.2]順不同)
1.業務妨害罪における「業務」は、適法なものであることを要するから、行政上の許可を受けていない営業行為や行政取締法規に違反する営業行為は、同罪で保護されることはない。
2.業務妨害罪における「業務」は、職業その他継続して従事する事務又は事業をいい、営利を目的とするものであることを要する。
3.甲は、利用客のキャッシュカードの暗証番号等を盗撮する目的で、2台の現金自動預払機が設置されている銀行の無人出張所において、一方の現金自動預払機にビデオカメラを設置し、同現金自動預払機に客を誘導する意図で、一般の利用客を装い、もう一方の現金自動預払機を2時間にわたり占拠した。この場合、甲に偽計業務妨害罪が成立する。
4.以前A高校に勤務していた甲は、同校卒業式の開式直前に、式典会場である体育館において、予定された式典の進行を止めさせる目的で、参列の保護者らに対して大声で騒ぎ立て、これを制止しようとした教頭に怒号するなどして同会場を喧騒状態に陥れた。この場合、甲に威力業務妨害罪が成立する。
5.甲は、弁護士Aの弁護士としての活動を困難にする目的で、Aが携行していた弁護士業務にとって重要な書類が在中するかばんを奪い取って自宅に隠匿した。この場合、甲に偽計業務妨害罪が成立する。

正解 3、4

1 × 誤っている
業務妨害罪の保護法益は人の社会活動の自由であり、「業務」は刑法上の保護に値するもの、すなわち、事実上平穏に行われている限り、違法であっても、業務妨害罪の客体に含まれるとされる。
2 × 誤っている
業務妨害罪(233条以下)における「業務」は、業務上過失致死罪(211条)に言う「業務」と異なり、公務を除くほか精神的なると経済的なるとを問わず、広く職業その他継続して従事することを要すべき事務または事業を総称する。本罪は人の社会的活動の自由を保護法益とすることから、対象となる「業務」は社会生活上の活動であることを用紙、必ずしも営利的活動に限られない。
3 ○ 正しい
偽計業務妨害罪(233条後段)の「偽計を用い」とは人の業務を妨害するため他人の不知又は錯誤を利用する意図を持って錯誤を生じさせる手段を施すことを言う。判例(最判平19.7.2)は、本肢と同様の事例で、「盗撮用ビデオカメラを設置した現金自動預払機に客を誘導する意図であるのに、その情を秘し、あたかも入出金や振込等を行う一般の利用客のように装い、適当な操作を繰り返しながら、1時間30分間以上、あるいは約1時間50分間にわたって、受信機等の入った紙袋を置いた現金自動預払機を占拠し続け、他の客が利用できないようにしたものであって、その行為は、偽計を用いて銀行が同現金自動預払機を客の利用に教師て入手金や振込等をさせる業務を妨害するものとして、偽計業務妨害罪に当たる」とする。
4 ○ 正しい
判例(最判平23.7.7)は、本肢と同様の事例で、「卒業式の開式直前に,式典会場である体育館において,主催者に無断で,保護者らに対して,国歌斉唱のときには着席してほしいなどと大声で呼び掛けを行い,これを制止した教頭らに対して怒号するなどし,その場を喧噪状態に陥れるなどして,卒業式の円滑な遂行に支障を生じさせた行為をもって,刑法234条の罪に問うことは,憲法21条1項に違反しない」とした。
5 × 誤っている
判例(最判昭59.3.23)は、本肢と同様の事例で、「弁護士業務にとつて重要な書類が在中する鞄を奪取し隠匿する行為は、被害者の意思を制圧するに足りる勢力を用いたものと言うことができるから、刑法234条に言う「威力を用い」た場合にあたり、被告人の本件所為につき、威力業務妨害罪が成立する」とした。そのため、偽計業務妨害罪が成立するとする点で誤り。

〔第2問〕(配点:2)
次のアからオまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合、正しいものの組合せは、後記
1から5までのうちどれか。(解答欄は、[No.3])
ア.甲は、真冬の深夜、甲から暴行を受けて衰弱したAを河川堤防上に連れて行き、未必の殺意をもって、Aを脅迫して護岸際まで追い詰め、さらに、Aに対して殴りかかる態度を示したため、逃げ場を失ったAが足を滑らせて堤防から3メートル下の川に転落して溺死した。この場合、甲に殺人罪は成立しない。
イ.非科学的な力による難病治療を標ぼうしていた甲は、小児Aがインスリンを定期的に摂取しなければ死亡する現実的な危険性がある重度の糖尿病患者であることを認識しながら、甲を信頼するAの母親Bに対し、Aへのインスリンの不投与を執ようかつ強度に働き掛けた。Bは、Aを完治させるためには甲の指導に従う以外に方法はないといちずに考え、Aへのインスリンの投与という期待された作為に出ることができない精神状態に陥り、甲から言われるがままAへのインスリン投与を中止したため、Aはその後間もなく死亡した。この場合、甲に殺人罪が成立する。
ウ.甲は、Aの殺害を企て、致死量の毒物を混入した砂糖を、情を知らない郵便配達員を介して、贈答品を装ってAに郵送し、Aがこれを受領したが、Aは、毒物の混入に気付いたため、同砂糖を食用に供することはなかった。この場合、甲に殺人未遂罪が成立する。
エ.甲は、Aに成り済ましてAの管理する資材置場に保管されていたA所有の建設機械を自己の所有物であるかのように装って中古機械業者Bに売却し、甲をAと思い込んでいたBが甲との約定に基づき同建設機械を同置場から搬出した。この場合、甲にAに対する窃盗罪は成立しない。
オ.医師ではない甲は、妊婦であるAから依頼を受けてAの堕胎手術を開始したが、医術により胎児を排出しなければAの生命に危険を及ぼすおそれが生じたため、医師であるBに胎児の排出を求めた。Bは、Aの生命に対する危険を避けるため胎児をAの母体外に排出させた。Bに緊急避難が成立する場合、甲に同意堕胎罪は成立しない。
1.ア イ 2.ア オ 3.イ ウ 4.ウ エ 5.エ オ

正解 3
ア × 誤っている
判例(最決昭59.3.27)は本肢と同種の事案において、「厳寒の深夜、銘酊しかつ暴行を受けて衰弱している被害者を河川堤防上に連行し、未必の殺意をもつて、その上衣、ズボンを脱がせたうえ、脅迫的言動を用いて同人を護岸際まで追いつめ、逃げ場を失つた同人を川に転落するのやむなきに至らしめて溺死させた行為(判文参照)は、殺人罪にあたる」としている。
イ ○ 正しい
判例(最決令2.8.24)は本肢と同種の事案において、「生命維持のためにインスリンの投与が必要な1型糖尿病にり患している幼年の被害者の治療をその両親から依頼された被告人が,インスリンを投与しなければ被害者が死亡する現実的な危険性があることを認識しながら,自身を信頼して指示に従っている母親に対し,インスリンは毒であるなどとして被害者にインスリンを投与しないよう執ようかつ強度の働きかけを行い,母親をして,被害者の生命を救うためには被告人の指導に従う以外にないなどと一途に考えるなどして被害者へのインスリンの投与という期待された作為に出ることができない精神状態に陥らせ,被告人の治療法に半信半疑の状態であった父親に対しても母親を介してインスリンの不投与を指示し,両親をして,被害者へのインスリンの投与をさせず,その結果,被害者が死亡したなどの本件事実関係の下では,被告人には,母親を道具として利用するとともに不保護の故意のある父親と共謀した未必の殺意に基づく殺人罪が成立する」としている。
ウ ○ 正しい
判例(大判大7.11.16)は、甲が毒薬を混入した砂糖をA宅に郵送した事例につき、郵送時ではなくAが受領したときに実行の着手を認めている。実行の着手は気水結果発生の具体的危険が生じた時点で認められるところ、上記事例の場合、受領に至って初めてかかる危険が認められると考えられるからである。本事案において、Aは毒物入りの砂糖を食用に供することはしていないものの、A宅には届いている以上、殺人未遂罪が成立する。
エ × 誤っている
判例(最決昭31.7.3)は、他人の所有管理にかかる物件をあたかも自己の所有物の如く装って第三者に売却搬出せしめた行為に、窃盗罪の間接正犯が成立するとする。したがって、甲には窃盗罪の間接正犯が成立する。
オ × 誤っている
判例(大判大10.5.7)は、妊婦の嘱託を受け堕胎手術を施したが妊婦の生命が危険となったため、医師に胎児を排出してもらった者は、医師の正当業務行為を利用して堕胎を遂行させた者であるから堕胎罪の間接正犯であるとする。したがって、Bに緊急避難が成立するとしても、甲には同意堕胎罪が成立する。

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