【経理】「カード請求明細があれば、領収書は不要?」を改めて考える。
こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。
税理士としてよく受ける質問の一つに「法人の経費をクレジットカード決済にしたら、その分の領収書やレシートは要りませんよね?」というものがあります。
誤解をする方が多いのでなぜだろうと思っていましたが、先日、インターネットで製品動画広告を見ていたところ「知らない人が見たら、確かに間違えそうだな」というような説明のされ方がありました。今日は「カード決済の場合の領収書等の保存義務」について、思うことを書きたいと思います。
注:税法解説記事ではなく、自分の思うことを書いた投稿です。正確な取扱いについては、法律や国税庁の案内をご参照頂きますようお願いします。
カード決済でも、領収書・レシートの保存義務は変わらない。
最初に結論を書きますが、カード決済であっても、どのような決済手段であっても、領収書・レシートの保存義務に変わりはありません。公共交通機関特例や少額特例などで消費税法上は保存しなくても良い場合もありますが、「カード決済だから不要」ということはありません。
経費精算ソフトや会計ソフトの広告を見て「カード決済にすれば、紙の領収書がなくなるので整理作業が不要!」という勘違いをしてしまうこともあるようですが、そのようなことはありません。確かに、カード決済にすればソフトの連携機能で経費精算や会計記帳が簡単になることもありますが、領収書・レシートの保存義務があることに変わりはありません。
飲食店であればその場で領収書・レシートを発行してもらいますが、インターネット上でサービス・物品を購入した場合は、原則として、それぞれの購入先に発行依頼をすることになります。受領した領収書・レシートは、紙受領であればそのまま紙保存 or スキャナ保存、電子受領であれば電子取引として電子保存しなくてはなりません。
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誤解されやすい原因は、、、
製品広告の中では、短い時間内でメリットを伝えようとするので、わざわざデメリットに触れることはないでしょう。
自分が見た製品広告では、次のようなロジックでした。(いちどその動画広告を見ただけなので、細かい部分は違うかもしれません。)
家計管理ツールとしてなら「③領収書整理が要らない!便利!」は非常によくわかります。ただ、「経費精算・会計記帳」に触れているので、リソースが足りない個人事業主・小規模法人を想定対象としたツールであるはずです。事業者の運用を考慮し、税法に沿った説明をすべきなのではと自分は思います。
経費精算・会計記帳で領収書が要らなくても、最終的に保存の義務があるのならば領収書整理は必要で、劇的に手数が減るわけではありません。後になって「スキャナ保存(一定のルールに沿って領収書等を画像保存するため、保存後は紙の領収書は廃棄可能)」を前提としているのかなとも考えました。ただ、「写真を撮る」「スキャンする」などの画像も差し込まれていなかったので、これは完全にミスリーディングに見えました。
大手のクラウドソフト広告ではこのような雑な説明は見ないのですが、雑多なインターネット広告ではまだまだ説明不足のものが多いかと思われます。
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カード請求明細は、領収書代わりにならない?
それでは、カードの請求明細は領収書代わりにならないのでしょうか。
この問いについては、国税庁の質疑応答事例で「クレジットカード会社からの請求明細書は、消費税法上の請求書等(領収書・レシート等を含む)には該当しない」旨が明記されています。
法人税法上の取扱いは明記されていませんが、この消費税法上の取扱いが準用されるものと考えるべきでしょう。
結果として「現在の税法上、カード請求明細があっても領収書・レシート等の保存は必要」ということになります。
お客様からは「カード決済にしても法律上は領収書を揃えなくてはいけないの?手数が減りませんよね?」と言われることも多いです。私もそう思います。
税法上の取扱いは当面変わらないようなので、後はそれぞれの会社として「どこまでを自社のルールとするか(法律に対する自社の対応をどうするか)」という判断をすることになるでしょう。
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カード請求明細が領収書代わりになれば良いのに。
簡単にはいかないかもしれませんが、クレジットカード会社の請求明細書内の明細ごとに「税率」「購入内容」「支払先のインボイス登録番号」「支払先の法人名」など、領収書等の記載事項が明記されるようになれば、領収書代わりになるのではないでしょうか。法整備も併せて進めていくことは必要になりますが、クレジット決済にして決済の手数を減らしたはずなのに、わざわざ領収書・レシートを集めることに手数をかけなければいけない現状を放置することは、非常にもったいないのではないでしょうか。
システム的に難しいのか、情報管理上問題があるのか、カード業界に詳しくないのでよくわかりません。ただ、領収書の記載事項を満たすようなカード請求明細になれば、間違いなく法整備も追いついていくように思います。
最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。
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