【新人経理向け】実務では "しいくりくりしい" は使わない。~売上原価の話~
こんにちは、きくちきよみと申します。
税理士です。
先日、経理職が初めてというお客様に「学習簿記と実務経理で違うことはありますか?」というご質問を受けました。
自分が経理を始めたときに「簿記の勉強中に知っていたら良かったのに」と思ったことはいろいろありましたが、その中のひとつが「売上原価の仕訳」でした。今日は「売上原価の仕訳と在庫棚卸について、新人経理さんによく聞かれる質問」について書きます。
学習簿記の「しいくりくりしい」は、実務では一生使わない。
簿記3級・2級の学習上、商品の売上原価(商品が売れた分の商品コスト)の計算方法として、「しいくりくりしい」と習うことが多いと思います。
このときの①と③の仕訳が「仕入・繰越商品」「繰越商品・仕入」、となるので、その語呂で「しいくりくりしい」と覚えるやり方です。
ただ、経理実務ではこの①と③の仕訳の勘定科目は異なります。実際には、下記のような仕訳になります。
経理が記帳する会計ソフトは、そのまま決算書作成まで連動しているのが普通です。「しいくりくりしい」では売上原価の金額は正しいのですが、当期の商品仕入高が変わってしまいます。
また、「しいくりくりしい」で仕訳をすると消費税の計算も間違えてしまいますので、結果的に「しいくりくりしい」は一生使わないということになります。
毎月仕訳する場合は、勘定科目に注意。
上記の例は、年1回の仕訳の例です。
毎月仕訳する時は、少し仕訳が変わります。
2か月め以降の①は「期首商品棚卸高」ではなく、「期末商品棚卸高」になります。「期首商品棚卸高」にすると、決算書を作成したときにPL期首商品棚卸高と前期末のBS商品、PL期末商品棚卸高と当期末のBS商品の金額が不一致になってしまいます。
決算書を1回作成すれば簡単に気づくことなのですが、知らないとつまづきやすいです。商品を取り扱う企業経理の方は知っておいて損はないと思います。
本当に、商品在庫を数えます。
今まで商品の取扱いがなく、初めて商品販売を始めるときに、中小企業の方からよくあるご相談があります。
「本当に、定期的に商品在庫を数えるんですか?面倒なので、できればやりたくないです」「帳簿上の在庫管理はやるので、実際には数えないで良いですよね?」というような内容です。
今までやったことがないことなので面倒だと思われるのはよくわかりますが、商品・製品を取り扱う企業では、定期的に棚卸在庫を数えて記録することは、必須です。
前項・前々項の通り、売上原価(商品が売れた分の商品コスト)は、各期末の在庫金額が判明しなくては、正確に算定することができません。帳簿上だけで在庫を管理していても、思わぬ理由から、帳簿上の在庫と実際の在庫の金額が異なることは、よくあることだからです。
<帳簿と実地の差異理由>
・在庫システム上での登録遅れ、登録誤り
・納品書の未着
・商品の破損や紛失
・窃盗や横領などの不正の可能性
・カウント単位ミス(束や箱で数えるか、実際個数で数えるか、など)
売上原価が正しく算定されない場合、本業で儲かっているのか儲かっていないのか、儲かっていてもどれくらい儲かっているのかがわかりません。正しい売上原価の算定は、商品販売をする企業経営の中では避けられないものです。
もちろん、人が数える作業は大変で間違えも起きやすいです。専用機器の導入も含め、各人の負担感がなく、かつ、正確に数えられる仕組みの検討は必要でしょう。
また、数え間違いが少なくなるようなストック棚の整理の方法や数え方の工夫などもありますので、事前に充分に検討してから在庫管理をすべきだと思います。
在庫関連の不正は、特に起きやすい。
商品・製品在庫ですが、あらゆる不正が起きやすいので、管理に注意が必要です。
例えば、実地棚卸を一人で実施するようなルールにしてしまうと、担当者が商品を持ち出して転売したりすることができてしまいます。「POSで商品管理しているから大丈夫」と思っていても、POSで読み込むバーコード付きの商品タグを商品から切り離し、その商品を持ち出せてしまえば関係ありません。また、減ったことがわかりにくい商品などは、商品を少しずつ持ち出してしまえば、特に商品持出しの不正には気づかないかもしれません。
また、全く不正に関与していない従業員であっても、棚卸のルールが緩いことにより、「不正をしたのではないか?」と疑われてしまう可能性があります。
不正がしにくいルールで、かつ、不正をしていない従業員を守れるルールづくりが必要でしょう。(とは言え、未だにこの在庫関連の不正はなくならないので、永遠のテーマかもしれません。よく言われる「二人一組で数える」方法だけでは、その二人が結託すれば不正が行われてしまいます。)
さらに、実際はない在庫金額を計上すれば、決算書上の利益を増やすことも可能になります。銀行から融資を受けるために、在庫を水増しして利益を増やすような粉飾決算もあります。(実際の在庫は会社にしかわからないことを利用した不正ですが、銀行の融資担当の方は業種原価率や実際の店舗の状況からでおおよその在庫金額を把握できる技を持っています。実際と乖離した金額で在庫計上すると見つかりやすい不正かもしれません。)
是非、在庫管理を工夫して、円滑な月次決算に取り組んでみてはいかがでしょうか。
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ここまでお読み頂きまして、ありがとうございました。