【初投稿】【小説】夢は燃えるゴミへ
「…進路希望調査、かあ…」
学校からの帰り道、私は1人今日配布されたばかりの進路希望調査書を手にそう呟いた。
私の名前は、佐々木凜々。田舎の高校に通う高校二年生だ。
高校二年生と言えば、そろそろ進路を意識し始めないと不味い時期…でも、私はなかなか決めきれずにいた。
どの大学に行くか?どの学部にするか?
そんなの、たかが十数年しか生きていない私に決め切れるわけないじゃないか。
別に、なりたい物が無いわけじゃない。むしろ小さな頃からなりたくてなりたくて仕方がない職業があった。
医者のすぐ隣で治療や診察をサポートし、患者さんに寄り添い看護する…「看護師」。
病院なんて小さな物が1つあればいいほうなこんな田舎で、どうして目指すようになったのか。
昔…看護師に助けられたからだ。
私は、小さい頃に1度車に轢かれた事があった。
小さな道路に飛び出してしまって、そのまま…
運良く、命に別状はなかった。軽い捻挫程度だったけど、親が念の為にと家から1時間半程かかる大きい病院に連れて行ってくれた。
そこでは軽くいくつかの検査を受けた。で、それの結果を待っていた時に1度1人でトイレに行って、迷子になった事があったんだ。
「…おかあさん?おとうさ…どこ?」
母と父を呼びながら、無機質な白い廊下を暫くうろうろと歩いていた。きょろきょろ。辺りを見渡しても1面白ばかり。
体感では十数分歩いたあたりで、誰かの声が聞こえてきた。
「…から…で。…から……」
何かを話している、女性の声だった。当時の私はどうしても誰かに助けてもらいたくて、その声の方向に向かっていった。
「…では、私はこれで…」
ふと隣の部屋の扉が空いた。誰かがでてきた気配。ばっと隣を見ると、そこに居たのは薄い桃色の服を着た、綺麗な女性だった。
「あら…?子供?」
彼女は私を見て首を傾げそう言った。その声は正しく、先程まで聞いていた声だった。
「お、ねーさ…おかあさんと、おとうさんがいないの、」
気付けばぽろぽろと涙を流し、しゃくりあげながらそう言った。
「お父さんとお母さんか…うーん、君はどこから来たの?」
女性は優しい声で聞いてくる。ふわりと安心させるような笑みを浮かべ、頭を撫でてくれた。
「っ…ひぐっ…あっち、」
自分が来た方向を指さしながら、私は答えた。
それを聞いた女性はにこっと笑って、
「お姉さんがお父さんとお母さんの所、連れて行ってあげるからね、頑張ったね」
その後、色々なお話をしながらお母さんたちの所へと案内してくれた。
優しくて頼もしくて、かっこよかった。まだまだちっちゃい子供ながらに、『こんな大人になりたい』って思えた。
家に帰ってから、親に教えて貰って初めて看護師という職業を知った。人を助けるお仕事。とてもかっこいいお仕事だと思った。
その後、田舎者なりに必死に勉強した。図書館なんてなかったから、地元の書店に行って、少し遠い街の書店にも行って、看護師の仕事について調べた。調べれば調べるほどに、素敵で尊い職業だった。
だから、看護師になるために学校の勉強だって頑張った…でも。
親にはいえなかった。私は知ってしまったんだ。
看護師という夢を掴むには、多くのお金がかかる…そもそも、その辺の大学に行くのですらかなりのお金がかかるのに、看護学科がある大学なんて…一人暮らしは覚悟しないといけないであろう距離にしか無かった。
親にそんな負担はかけたくない。ただでさえ生活に余裕が無いのに、一人娘が一人暮らしする分もだなんて…言えない。
「…無理だよ…」
ぐしゃっと、手に持っていた紙を握り締め、涙を堪えながら家に帰った。
「ああ、凜々さぁ、進路希望調査書配られてたじゃん。もうどうするか決めたの?」
父と母と3人でご飯を食べている時、ふと突っ込まれる歯の爆弾発言。
「ん"ぐっ…けほっけほ…え?」
思わず食べていた味噌汁を吹き出しそうになった。危ない危ない…
「…な、なんでそれ知って…」
「あ〜ごめん、あんたの部屋の机に置いてたから勝手に見ちゃったのよ」
「進路希望調査か!懐かしいなぁ…」
父も会話に入ってくる。まさか、部屋に入られていたとは…
「…別に、まだ決まってない。適当な会社入って適当に稼ぐんじゃないの」
少し投げやりになってしまった。母はそれを気に止める様子もなく会話を続けようとする。
「やりたい仕事とか、ないの?」
「…ないよ。決まってないって言ったじゃん。」
「嘘だ〜、何かはあるんでしょ?」
「ないってば…」
「えぇ〜?1個くらい浮かんでるでしょ?」
「……さい、」
「え?なんて、」
「うるさい!ないって言ってんじゃん…!放っといてよ!」
母の言葉を遮り叫んだ後ではっと我に返った。目の前には呆然とした顔の父と母。
…やってしまった。どうしよう…
焦ってしまって、手に持っていた食器を机に置く。
「…も、いらないから、」
立ち上がって二階にある自室に逃げた。ドアを閉めて布団に飛び込む。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
あんなに強く当たる気はなかったのに…
1階からはなんの物音も聞こえない。それが返って私の不安を増幅させる。
…もう、嫌だよ……
何も決めれない意気地無しな自分が悪いだけなのに何故か涙が溢れる。
そうしていると、ふと昔集めた看護師についての本が目に入った。
「……こんなもの…」
それを手に取り壁に叩き付ける。
…もう、いい。もう嫌だ。
「こんな大変なら、看護師なんて…」
「目指すんじゃ、なかった…!」
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