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懐旧と幻想と不穏さが同居する絵たち:ピーター・ドイグ展
SNSで東京国立近代美術館のピーター・ドイグ展の広告を見つけた時、行かねばと強く吸い寄せられた。
それまでピーター・ドイグなる画家も知らなければ、東京近代美術館がどこにあるのかも知らなかった。
けれど、彼の個展の「表紙」に使用されたいたその絵を見た瞬間に、目が離せなくなった。
絵画に関して、とりわけ興味があって知識があるわけでもない。
なんなら「絵画」のジャンルは、故人が描いたものがメインだという印象を強く持っているくらいだった。
だから、ピーター・ドイグがまだ齢61歳で、現役の画家という事を知り、少し面食らったのを覚えている。
足を運んだのは展覧会終了間際の10月3日。
やっぱり週末は、人が多い。
まず感動したのが、展示作品の撮影が全て可能な事。
アメリカ留学中に、さんざんNational Mallの美術館やメトロポリタンなど見漁ったが、どこも写真が撮れた。
それとは真逆に、日本の美術館は基本的に撮影不可である。
なぜそんなに違うのか気になるところだけれど。
ゴーギャン、ゴッホ、マティスやムンクといった画家の影響を受けいるピーター・ドイグの作品は、はっきりした輪郭を残しつつも、どこかぼやけていて、眺めていて面白かった。
「天の川」という作品は、ぱっと見ただけだと、星々と川に映ってる風景が素敵、と思って終わってしまう。
けれど、作品脇に貼られていた少し長い説明分を読んでいくうち、はっとさせられた。
川と地を境に、どちらが鏡像(虚像)なのかわからなくなる不穏さ。
曖昧になってくるその境目を、音もなく揺蕩う小舟が印象的だった。
写真は撮り忘れてしまったのだけれど、「エコー湖」という作品も凄く素敵だった。
大きなキャンパスのど真ん中にカヌーのような小舟が浮かんでいた。
物憂げに傾いだ頭を小舟の縁から覗かせている(恐らく)女の顔は、どことなく不穏だった。
静かに揺蕩っていきそうなその小舟と湖の色味が絶妙で、ずっと眺めていられそうだった。
絵画脇の説明文を読んでいて、なるほどなと思った事もたくさんあった。
アトリエか何かを描いた作品の脇に無造作に貼られていた説明書きに、
自分が何をしているのか意識できない状況になった時、
最良のアイデアが浮かぶ
とピーター・ドイグが語っていた事が載っていた。
なんだか絵の印象から、ムンクも同じことを言いそうだ。
また先へ進むと、水着を着た男の絵が2枚並んで展示されている場所があった。
それはトリニダード・トバゴへ拠点を移してから描いたものだそう。
構図は全く同じ絵だったにもかかわらず、片方は安定して綺麗に描かれていたが、もう片方は何か物足りなさを感じた。
過去の作品を繰り返して描くのは、不満があるからではない。
新たな発見や探すべき、試すべきものがあると思うから
というような内容が説明書きに紛れていた。
なるほど、そういう調理の仕方もあるのか、と妙に腑に落ちた。
完成したものはそれで満足する。
けれど、それと同じ構図で、また別のことをしたらどうなるのか。
同じ窓でも、見方を変えれば様々な可能性を秘めているということなのかもしれない。
一番印象的で一番見たかった「ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ」という「青」たちが美しい作品は、生で見ても美しかった。
ピーター・ドイグはメディアから得た視覚情報を、コラージュのように自身の中で組み合わせて絵を描くそう。
だから「ガストホーフ・ツァ・ムルデンタールシュペレ」も、ドイツのダム湖と、自身と友人が写っていた写真などを組み合わせて描かれているらしい。
脳内コラージュをキャンバスへ描き出すって、なんだか実験的でとってもわくわくするような描き方だと思う。
わたしがただただ惹かれる絵は、美しい「青色」たちを使ったもの、または木立や水面、船の縁から不穏さを漂わせている雰囲気の絵だった。
きっとカナダの大自然とトリニダード・トバゴの海と空の美しさが、あの「青色」の美しさを生んだんだろうと思った。
そしてぱっと見は、なんだか懐旧や既視感をもたらすような絵の後ろに漂う不気味さは、さんざん説明されていた「13日の金曜日」からの影響なのだろう。
デジタルで様々なものを表現する昨今。
そういったSNSやメディアから得た視覚情報をコラージュして、アナログなキャンバスで構成していくあたりが、きっと絵画たちを独特の存在にしているのだと思う。
個人の表現の仕方はきっと無限にあるのだろうけれど、それを見つけ出して、自分が想像するものを描き出すことは難しい。
それを見つけるには、トライ&エラーの繰り返しと、内省、そしてそこからのメッセージに気付けるか、という事なのかもしれない。
他者を通して内省できる美術館へ行くのが好きだ。
おしまい
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