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Episode 074 「2000ドルでどうだ」
私が車の免許を取得したのは、絶賛アデレードハイスクール(Episode066)に通っていた2001年で、学年でいうと11年生(高校2年)の時だった。もう、かれこれ23年前。以下の話は、「少なくとも、私が免許を取得(2001年)してから2010年に日本に来るまでの、約10年間における話、という事となる。
尚、オーストラリアの車事情は日本のそれとは様々な理由で大いに異なった。例えば、駐車場。黒いシミがほぼ全ての駐車場のアスファルトの表面に見られた。これはオイル漏れによるものである。日本ではお馴染みの車検というシステムがオーストラリアでは存在しない。そう、人間に例えると、定期的な健康診断が存在しないのと同様である。もちろん、日本の様に健康診断を毎年受ける国の方が、或いは少なかったりするのかもしれない。(主観ですが)
その結果、駐車場に停まる車からオイルがポタポタと垂れ、年月をかけて黒いシミとなって残るのである。この車検というシステムが存在しないというのは、何を意味するのかというと、つまり物理的に車が動かなくなるまで乗り続けるという事をする人が出てくるという事である。
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それこそ、例えば走行距離が20万キロ以上(日本では、10~15万キロがエンジンの寿命と言われていたりするらしい)の車が普通に走っているのだ。つまり、人間に例えると、「健康診断?知らねーよ、そんなもん!」と、健康診断を今までに一度も受けた事のない(意気込む)老人が、どう考えても健康が万全でない状態で身体を酷使しながら(身体に)負荷の掛かる作業をしているようなものである。
そんな私も、昔、一度車を乗りつぶしたことがある。父親が日本から輸入した80年代の車だと思われる日産Cedricと言う車だ。この車は、角ばったデザインで見た目もかっこよく、また年季の入った車でありながら実にスムーズな走りをした。まるで、よく履きこなされたスニーカーの様に。
この車が、とあるタイミングで調子が悪くなり、排気口から白い煙を吹くようになってしまうという事態が起きた。この煙だが、最初の内は、晴天の日に空に浮かぶ薄い白の色をした巻雲程度だった煙だったのだが、日に日にその煙の色の濃さは増していき、遂にはもくもくと空に浮かぶ、真っ白の積雲の如く白い煙となり、さすがにまずいと思い修理の車屋さんに車を持って行ったのだった。
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尚、その修理屋さんに行く途中、運転している私自身が(控えめに言っても相当)焦るくらい、真っ白な(そして有害な)煙がもくもくと出てしまい、運転席からバックミラー越しに見る車の背後は、霧の中にいるかの様に、煙に包まれていた。そう、雲に頭がすっぽりとハマってしまったみたいに。
こういった状態で車を走らせていると、案の定、警察に止められたのだった。「すごい煙だな、どうなってるんだ」と警察。「知ってます。修理に持って行く途中なんです」と私。尚、細かい原因は何であったかは憶えていないのだが、もちろんエンジンの故障であろう。
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この故障が起こる少し前に、何となく予兆の様なものはあったのだ。高速道路にて、上り坂を走っている時、アクセルを踏んでもスピードが出ず、おかしいな、と思ったことがあったのだ。まるでアクセルのペダルがエンジンへの伝達をサボっているみたいに、車の進み具合が悪かった。しかしながら高速道都であった為、スピードを落として道の端に一時的に車を停める、という事ができず、そのまま引き続き走り続けてしまった。
尚、丘の上を目指して高速道路を運転していた為、行きは上り坂だったのだが帰りは下り坂となり、車の調子も悪くなかった(つまりエンジンへの負荷が減った為)ので、そのまま修理に持って行かずのままになっていたのである。おそらくこの時にエンジンをダメにしてしまたのだろうと、後々気づくことになった。
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結局、修理に持って行ったのだが直る見込みは無い、と言われたのだった。もしそうであるならば、引き取ってくれ、とお願いしたところ、修理屋のおじさんに「いくら欲しいんだ」と訊かれたので、「2000ドル(当時の日本円で約16~17万円)でどうだ」と答えたところ、彼に笑われてしまった。何をいってるんだこの小僧は、という表情と共に。
結局、いくらで売り渡したのかは憶えていないのだが、この様にして車を乗りつぶし、売却してしまった。おそらくだが、2003年〜2005年あたりの事と記憶する。
今考えると、本当は2000ドルなんて安すぎたのかもしれない。本来は、5000ドルくらいの価値があったのかもしれない。そして、まんまと騙されたのかもしれない。または、実際のところ、(騙されたのではなく、本当に)2000ドルにもならない状態になっていたのかもしれない。今となっては、確認のしようもない。
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Nissan Cedricとはこんな車だった。
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オーストラリアでは、よく赤信号で一時停止をし、信号が青に変わったもののエンストを起こしてしまい、車を発進させる事ができない、という車をよく目撃した。日本において、この様な状況は今までに(一度として)みた事がないし、また、おそらく今後も見る事はないと思われる。
しかし、オーストラリアでは、(この光景は)そんなに珍しいという事でもなかった。多分、車検という制度がないのも何らかの影響はあると思われる。尚、そのようなトラブルが起こった際には、どこからともなく大人の男性がぞろぞろと現れ、(エンストを起こしてしまった)車の背後に回り、道路の横まで(力を合わせて。そう、普段は(控えめに言っても)団結力の無い、オーストラリア人が)車を押してあげるのである。その光景は実に見ていて気持ちの良いものである。特に何か躊躇するわけでもなく、自然と人が集まってきて、助け合うのである。「助けたいけど、恥ずかしい…」といった感情はおそらく全くないと思われる。そう、まるで消防士が(出動の)知らせを受け一秒を争うが如く準備をし消火車に飛び乗る様に。
実際に私もエンストしてしまった車を目撃した際に(その車を)押した事があるし、また、当時自分が運転していた三菱パジェロがエンジンのオーバーヒートを起こしてしまい、正に信号で止まってしまった事もあった。自らの身にこの様な事が起こると、なかなか動揺するものである。
当時、ハイスクールまたは大学生の時(2002年〜2006年あたり)の出来事と記憶する。暑い、真夏のとある日であった。確か、チャイナタウンの近くを運転していた際に、起こったアクシデントだった。エンジンを止め、ギアをニュートラルに入れ、みんなに押してもらう中、私は運転席に座ったまま(道の脇に停車させる為に)ハンドルを切ろうとしたのだがハンドルがロックされ回らなくなって焦っていたところ、「キーを挿して少し(キーを)回転させてごらん」ととある(車を押してくれていた男性の一人)人に言われた事をなぜか鮮明に憶えている。
尚、駐車場にはオイル漏れの跡がくっきり残っている、などの話は、あくまでもこれらは私が免許を取り立ての頃の話なので、かれこれ(2024年の時点で)20数年以上前の話である。現状(のオーストラリアの車事情)は変わっているかもしれない。当時の様に、20万キロも走った車を乗っている人は今はもうあまり居ないのかもしれない。ただ、確実に言えるのは日本と比較すると、まだまだ車事情に関しては遅れている。たぶん。
とか言いつつ、2024年だし、今はそうでもないのかなぁ。むしろ電気自動車の普及率は日本より高い、なんていう現象が起こっているのかもしれない 。