ムダなものに本質がある。白神ももこ(モモンガ・コンプレックス)インタビュー
ダンスパフォーマンス “的” グループ
リョウゴ:まずはモモンガ・コンプレックスの紹介をお願いします。
白神:モモンガ・コンプレックスのことをダンスパフォーマンス “的” グループと呼んでいます。なぜかというと、大学を卒業してすぐに立ち上げた頃はダンスって限定したくなかったんでしょうね。「ダンスじゃなくてもいいんじゃないか」とか「ダンスを用いた何かカタチの定まらない、モヤモヤっとしたものでいいんじゃないか」と思っていて。
自分たちの生活の中で思っていることや、感じていることとかを取り入れて作品を作ろうみたいなことが発端だったので、例えばお金がない時には「フリーターコンプレックス」っていう作品にしたり。
リョウゴ:フリーターコンプレックス(笑)
白神:みんな、バイトの格好して「いらっしゃいませ!」なんていうパフォーマンスでした(笑)
絵が好きだったり、保育士をやっていたり、私の知らないファッションの世界を知っていたり、自分が持っていないフィールドを持っている人に興味がすごいあったんです。最初はそういう感じでモモンガ・コンプレックスを立ち上げました。
リョウゴ:モモンガ・コンプレックスのウェブサイトの絵、すごくかわいいですよね。
白神:ありがとうございます。その絵を描いてる子が今回のストレンジシードにもダンサーとして出演する北川結さんなんです。
リョウゴ:そうなんですね。めっちゃいいですよね、これ。すげえテンションあがりますもんね。
白神:それ、本人に言っときます。
社会のムダな存在になりたい
リョウゴ:ダンスのジャンルとしては「コンテンポラリーダンス」なんですよね。
白神:そうですね、ジャンルでいうとそうなります。
リョウゴ:ごめんなさい、僕、何もわからないんで聞きますけど、コンテンポラリーダンスって何ですか?(笑)
作品をいくつか見させていただいたんですが、見たら見ただけわからなくなってしまいました。
白神:(笑)モモンガ・コンプレックスを見て「コンテンポラリーダンスとは」って考えちゃうと、迷子になるかもしれないですね。
リョウゴ:なんで、コンテンポラリーダンスをやろうと思ったんですか?
白神:多分、若い時カッコつけてたと思うんですけど、社会のムダな存在になりたいみたいなことを言ってる時期があったんです。必要とされないものにすごく興味があって。例えば、ムダなものってゴミとかですけど、なんていうか、本質をついてるっていうか、本質だなって思っていて。
リョウゴ:ムダなものこそってことですね。
白神:そうです。この話、あんまりいらないと思うんですけど…(笑)
(思い直して)そうです、そうなんです。ちょっといい機会ですね、「ムダ」の話。ゴミって生活の本質が見えるじゃないですか。その人が何を食べて、何が好きで、どんな金銭感覚で、ということもゴミから見えますよね。
リョウゴ:生活が全部わかるって意味ですね。
白神:はい。その頃は、ダンスってムダだなって思ってたんですよ。いや、今は必要だって言いきれますけど。ダンスって歩いて普通に行けばいいところを回ったり跳んだりしますよね。例えば、コンビニに行って入口で回転してる人を見たら、なんか愉快な気持ちになるっていうか、ちょっとざわついたり、時空がゆがんだりすると思うんです。そういう経験ってすごい豊かだなって。
リョウゴ:自分の中に何かしら残ることになりますよね。
白神:そうですそうです。そういう経験があるだけで、自分の身の回りで変なことが起きて「そういうもんだ」って思えるし、変な人がいても「まあ、いるよね」って思えるのが、今大事だなって思っています。
3人の餃子?
リョウゴ:今回の『穴あき谷の○○○。』という作品は、どのようなコンセプトですか?
白神:私が、「キラリ☆ふじみ」という埼玉県にある公共ホールで芸術監督をしていまして、コロナ禍になってすぐの2020年にオンラインで子ども向けのフェスみたいなことをしたんです。『穴あき谷の○○○。』はその時に作った作品で、本編自体は子ども向けとして作ってはいるんですけど、モモンガ・コンプレックスの中ではシュールすぎる作品になってると思います。子ども達から絵を募集して、その絵をもとに踊りを作ったり、音楽を作って送ってくれる人もいたりして、それらを元にして作った作品でもあるので。
リョウゴ:この衣裳はどのようなコンセプトなんですか?
白神:ちょっと、よくわからないですね。
リョウゴ:そうなんですね(笑)
白神:私は「穴を覗き込んでいる不思議な生物たち」くらいのニュアンスだったんです。それで衣裳と出演両方を兼ねていたメンバーの臼井梨恵がこのデザインを持ってきて、多分オンライン上演ということもあって、「人じゃない存在でやろう」という感じになったんだと思います。
リョウゴ:じゃあ妖精みたいな宇宙人みたいな感じってことですか?
白神:そうですね。みんなには餃子って言われましたけど。
リョウゴ:餃子ではないんですね。
白神:餃子でもなくはないっていうか、餃子に見えてもいいんです。お客さんによっては、餃子が3つ動いてんなって思ってくださってもいいし。
椅子を投げたくなる衝動もダンスに
事務局:他のわたげ隊の方にも質問があればお聞きしましょうか。ハボさんはいかがですか?
ハボ:先ほどお話なさってた「ムダ」とかゴミにこそ本質が現れる話が、『ああ、ほんとだな』と思ってですね。どのようなきっかけでそういう発想が生まれてきたんですか?
白神:私、人の持ってる「ムダ」な部分がすごい好きだから、端っこばっかり見てる子だったんです。バレエを見ても、一糸乱れぬ中で誰かがハッとするような間違いをする瞬間に魅力を感じたり、歌舞伎を見ても主役じゃない人が寝てたりすれば、そちらに興味が湧いてしまうんです。
ハボ:一見、欠点と思えるようなものを、魅力的に感じることができるんですね。
白神:できるっていうか、好きなんです。
ハボ:プラスに考えられるってことですよね。それ、いいですね。
白神:学校では大変でした。みんなが給食を食べている姿をずっと見てしまって、自分は食べるのを忘れてしまうとか、そういう感じだったんです。
ハボ:じゃあ、白神さんに流れてる時間軸が他の人と違うんですね。
白神:そうですね。でもみんなそうじゃないですか? はみ出しちゃうところがその人の個性だったりして。
リョウゴ:僕もそうでしたね。小学校の時、僕はものすごい暴れてたんです。椅子とか机とかよく投げる子だったんで、今、同じことをしていたらダメだと思います。
白神:でも、その「物を投げる」っていう衝動が自分にあることは噓じゃないですよね。
リョウゴ:今でもその衝動はありますよ。大人だから投げないのであって、投げていいなら投げたいです。
白神:そうですよね。それって表現だなって思います。劇場とかパフォーマンスというのは、それができるんです。例えばリョウゴさんが私の作品に出演したら、何かものを投げる役割として出演するっていう事もありえると思います。
リョウゴ:マジですか? めっちゃ出たい。めっちゃ投げたいです!
白神:何が何でも投げてしまったらただの犯罪になってしまいますけど、作品として昇華するものがあるならば。あと誰かが何かを投げてるのを見て(観る人の)衝動がスッと発散される時ってある気がします。衝動があるというのは、表現の種になり得るのではないかなと思っています。
天野:その衝動のようなものを、白神さんは振付にどう昇華されるんですか?
白神:私の場合、ただの衝動をそのままやるっていうことでもないですね。抑えられてしまったがゆえに不意にチョロッと出ちゃったとか、そういう振付が多いかもしれません。それをどうにかして引き出せないかなっていつも思っているんですが、(モモンガ・コンプレックスの)メンバーは私の言ったことがそのままできるタイプっていうより、誤読してくれるタイプが多いので、その感じがモモンガ・コンプレックスだなって思ってます。
天野:正常にいかないズレみたいなところの面白さを白神さんが感じて、それをメンバーのみなさんにやってもらうっていうことですか? かっちりしない方が何が起こるかわからないっていう事でしょうか。
白神:そうですね、ズレてる方が予測ができない。
天野:面白いですね。
ただの通行人も作品の一部になる
事務局:ストレンジシードは、ストリートシアターフェスっていう冠がついてます。つまり「ストリート=まちが劇場になる」ということです。モモンガ・コンプレックスはこれまで劇場ではない場所でもパフォーマンスされてきましたが、こんなとこでやったのが面白かったなっていう場所ってありますか?
白神:モモンガ・コンプレックスの作品じゃないんですけど、商店街の駄菓子屋さんでダンスを作ったことがあって、それが一番面白かったです。(観客は)お店の中から外を見てる状態なんですけど、ダンスをやってる時に、下町だからお蕎麦屋さんが出前のおかもちを持って通ったりするんですよね。
事務局:ただの通行人でさえも作品の一部になってしまうっていうことですよね。
白神:劇場でやるとそういうことはありえないんですけど、野外だとそんな不意打ちがあるのが醍醐味だなと思いますね。
事務局:静岡とモモンガ・コンプレックスとの異化効果が楽しみですね。
白神:あ、“ストレンジ” シードって、そういうことなんですね。
事務局:お気づきになりましたか。
白神:『穴あき谷の○○○。』にはアナーキーという意味も含まれているので、アナーキーな企画に呼ばれて良かったな、と思ってます。
事務局:ありがとうございます。静岡でお会いできるのを楽しみにしてます!
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