失敗だらけの路上怪談をやった話
きっかけは東京の怪談師おてもとさんのポストでした。
路上怪談!?その発想はなかった!!
と度肝を抜かれます。先日怪談語りデビューをして活動を続けていきたいと決めたものの、どうやるか考えあぐねていたところにこのポスト。
「チャンスは待っていても巡ってこない、自分から動かねば」と奮い立って真似させていただくことに。もちろん、おてもとさんへその意向を伝え快く励ましの言葉をいただきました。
配信などでしか怪談を語った事がなかった私が初めて人前で怪談を語ります!と、いよいよ実践したわけですが。まあ失敗の数々。すみませんと謝りたいぐらい。本当にすみません。
そんな失敗談を備忘録として。またこれから路上怪談をやってみたい方への踏み台として。包み隠さず残したいと思います。
決戦は金曜日
台風がどこか遠くで発生していた2023年8月25日。
鹿児島在住のイソノは人と会う予定があり福岡まで新幹線で移動していました。その車内で製作したものがコチラ。
「路上怪談をやるなら福岡の方がいい」と思い、ひとまずフリップを用意。初回のため何が正解かは分からないのですが「怪談」を主張しました。
▽一組目
博多駅に着いたのが21時頃。その足ですぐ裏の通りに出て立つことに。金曜の夜であるため仕事帰りらしきスーツ姿の人がたくさんいます。客引きの人に変な目で見られながら程なくして、私のところに足を止めてくれる人が現れました!
どうやら会社の飲み会帰りらしい男女10名程。その中の男性4.5名が話しかけてくれます。
「怪談って怖いはなし?」そう声をかけていただき簡単な自己紹介から怪談語りを披露させていただこうとしたところ…。私をフル無視の状態で皆さん怖い話を繰り広げます。恐らくかなり酔っていらっしゃる!そしてお連れだった他の女性たちは男性陣を置いて帰ろうとしている!私の声はほぼ通らないぐらい盛り上がっている!
正直これはまずい…と思いました。路上怪談が出来ないという事に加えて通行人の妨げになってる!時間も限られているので失礼する旨お伝えし、場所を変えることに。
▽二組目
ヨドバシカメラ近くの公園まで行きました。先ほどの通りからすぐの場所。会社員勤め時代よく通っていた公園なので落ち着きます。
ここに移ったのは喫煙場所があるため。よく人が留まっているのを目にしていたのでそこを狙いにきました。
しかし想像以上に人がいません。やはりまだまだ暑さが厳しいのも理由でしょうか。絡まれそうな酔っ払いの方はいないものの人通りもほぼ無し。
だけど諦めて帰れない…。やるって決めたし言ったから成果が欲しい…。
その一心で私は決めます。
「路上ナンパ怪談をしよう!」人が寄ってこないなら自分からナンパして聞いてもらおう!
「またやればいい、次がある」って思うと諦めていたかもしれませんが、鹿児島から福岡まで来ているという理由が背中を押した気もします。簡単にここで次もやる機会は無いですからね。
そうして手始めにおひとりでタバコを吸っている男性に声をかけました。
「すみません、少しお時間ありますか?」
「ああ…、もうすぐ行かないといけないんで…」男性は引きつった顔でこう答えます。私はこの感覚を知っている。そう、この答えは””特に急ぎの用事はないけど怪しいもしくは面倒だから断るやつ!!!””だってきっと私が逆の立場でもそう断りますもん。
「ああ、すみません…」そう言い引き返しかけたところでもう一度声をかけます。「ひとつだけいいですか?!私怪談を語り始めたばかりのものでアンケート取ってるんですけど、あなたが一番怖いものってなんですか?!」そう伝えながらフリップを見せます。
一瞬で切り替えられた私凄いな〜って自画自賛しちゃいます。←
その時すぐに気づけたんです。「声をかけた目的と自身が何者かを伝えてないから不安にさせた」という事実に。
そしてこれは私の持論ですが「人はアンケートに弱い」。その辺を改善した口説き文句を一気に畳み掛けたんです。
すると男性の表情は一変して和らぎました。恐らく何か変な人だとは思われていますが不審さが消えた様子。
「怖いのは……やっぱり幽霊ですかね」そう答えてくれたんです。心の中でガッツポーズし、そのまま少しお話させてもらいました。手持ちの怪談を超ショートにした話を聞いてもらい、男性自身に不思議な体験がないかもお聞きします。
そうして丁重にお礼を伝えその場を去りました。ひとまず行動を起こした事に拍手!と自分で自分を褒めたたえます。でもこれじゃ帰れない。
▽3組目
やっと対話はできたものの、怪談を披露したとは言えない状況。きちんと「路上怪談をした」という成果が欲しいと思いまた声をかける事に。
続いては先ほどの男性から150m程離れた場所に座っていた男女2人組。
ここに至るまで、公園内をぐるぐると何週か歩いていました。その様子をこのお2人には見られていたので既に変な人だと思われていた気がします。心を決めて近づきなるべく明るいトーンで挨拶!
「すみません!駆け出しの怪談師なんですが、少しだけお話聞いていただけますか?」そう伝えながらフリップを見せました。
すると女性の方が笑いながら「ぎゃ、逆…」と指さします。はい、フリップが上下逆でした。これが掴みになったのかお時間をもらえることに!
そうしてまずは怪談を語ります。
ここでやってみて感じた難しさが距離感。今回私からナンパしたので物理的な距離を詰める事ができません。お客さんを待ち、相手が自ら選んで聞きに来てくれたなら距離は詰めやすいのですが今回は私が「聞いてください」とお願いして始めたもの。お客さんの本心は分からないけれどマイナスイメージスタートである確率の方が高いんです。
一応コロナ対策としてマスクもしていましたし、周囲では車やバイクも通ります。これらが妨げとなって聞き返されたり上手く伝わっていなさそうな部分が発生…。怪談としての雰囲気作りは失敗です。
ひとまず語り終え「一番怖いものは何ですか」というアンケートも取りました。女性は「虫」で男性は「ケガ」。不思議な体験が何かないかもお伺いします。
そうして約15分程の対話を終え最後に写真撮影をお願いすることに。後から考えたらなんだか変ですが、私のソロ写真です。
ここまでで約1時間が経過しています。こうして路上怪談初日を終えました。
リベンジ土曜日
翌日は友人と会う予定があり、時間があればもう一度路上怪談に出ようと考えていました。と言うのも、福岡で路上パフォーマンスと言えば天神の警固公園のためそちらに出向きたかったんです。普段から露天や音楽ライブが路上で頻繁に行われています。
友人にも怪談を始めた事を伝え一緒に警固公園に向かうことに。この時点で21:30過ぎだったと思います。夜の警固公園に行くのは久しぶりでした。少し前に昼間通った時は路上ライブをしているアイドルっぽい方々を目にしていたのでそういったイメージを持ったまま到着。
▽時間帯選びの失敗
警固公園に着いたところその異様な雰囲気に驚きました。10代~20代前半の若い方々がそこら中で路上飲みをしていたんです。
人が多い事は嬉しいものの、雰囲気は路上ライブに適していると言えません。あちこちで奇声のような騒ぎ声が聞こえ警察の集団が見回りのためかずっと練り歩いているんです。
そして路上ライブなどは一切行われていませんでした。「これは時間帯選びを失敗した」と悟ります。恐らく、周囲のショッピングビルが開いている時間帯であれば客層が変わり普段の治安の良い雰囲気があったのだと思います。
後から調べたのですが、最近では警固界隈と呼ばれる社会問題にもなっているようで夜は路上パフォーマンスに適していないようでした。
「今日は、もう辞めよう…」早めにそう切り上げ公園を出ようとしたところ、公園出口のすぐそばに目がいきました。
綺麗に揃えて置かれた1足の可愛らしい黒いショートブーツ。
何故かそのブーツが持ち主不在でちょこんと佇んでいたんです。周りの喧騒とのギャップもあり何とも言えない不気味さを感じました。
これからの課題
今回初めて路上怪談をやってみて感じた課題はこちらになります。
場所と時間帯を吟味する
ナンパする際は声のかけ方に気を配る
諦めない折れない心を持ち続ける
怪談に興味がない人の温度感を上げる方法を考える
失敗しかない路上怪談になりましたが、やらないと分からないことだらけでした。20代前半にバンドでの路上ライブをやっていた時期がありますが、意識せずとも通行人の耳に入る楽器演奏とは違い路上怪談はこちらの存在に気づいてもらう必要があります。だからと言って大勢に向けて発声するのが今の私のベストな路上怪談方法ではない気がする…。ここら辺も今後のやり方をどうするか考えなくてはなりません。特に場所と時間帯選びは自身のモチベーションにも直結するので良いところを見つけ出したいです。
感想
一番の感想は楽しかった!やって良かった!というものです。知らない人の反応や温度感に触れられるのは想像以上の刺激があります。特に怪談に聞きなれていない人の感触はありがたい程素直なため、振り返った時の反省点になるんです。
今回その感触が直に伝わって思ったのは、私自身の怪談に対する誠意と真剣さが足りなかったということです。「路上怪談をやるという成果」にだけこだわり怪談の内容に対する感情表現が粗雑になってしまいました。
それが聞いてくださった人にも伝わり怖さや面白さが半減されていたと思います。反応が怖くて率直な感想を聞かなかったのも大きな反省点です…。
叙情系怪談が好きで「叙情系ガレージ怪談を語る」と名乗っているのにそれが出来ていなかったなんて恥ずかしいです本当に。
やらなくてもいい事を勇気を出してやる事は緊張するし、正直しんどさもついてきます。だけどこの「やらなくてもいいけどやりたい事のために行動する」という少々面倒くさい選択をしたからこそまた私は生きる道を繋いでいけます。
すぐに小さく死にそうになるので、これらは自分を強く生かそうとするための方法なのかもしれません。そして何より体験してみた事をこうやって文章にして感想を言葉に出すのが楽しくて好きなんですよね。
感想文にすると体験内容もその時の感情も鮮やかに刻みつけられて心のクッションになります。このクッションが次の私を動かす土台になるんです。
そんなよく分からない事を答えもないまま無限に考えまたやりたい事を思い浮かべながらこれから過ごして生きたいと思います。
この路上怪談で出会ってくださった方々、本当にありがとうございます。また路上怪談もやりながらもっと精進していくので是非これからも聞いてください。
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