ワルっ。#1
「Aちゃんって今何してるの?」
1組の前の廊下を湯本と談笑しながら通りすぎようとしたとき、かなこが教室から出てきて話かけてきた。
俺たちは顔を見合わせ、「何って、学校いるんじゃないの?本人に聞けば?」と返す。かなこは俺たちの反応を期待するように笑みを浮かべながら、どこか残念そうに「今日も休んでるよ」と言った。
かなこの話では、Aは月曜から無断欠席していて、Aの親もAとは連絡がとれず、どこにいるのかわからないとのこと。Aが欠席して5日目の今日、1組の朝の会で担任が「Aと連絡とれる人はいないか?」と尋ねたらしい。
「あいつ今週いなかったの?」
「ぜんっぜん気づかなかったw」
笑いながら言い合う俺たちに疑いの目を向けるのは、かなこ1人だけじゃなかった。いつの間にかいた1組担任の吉川が、俺の隣にいた湯本に詰め寄るよう立ち何かつぶやく。
「何こいつ?チューすんの?」
湯本との間に無理やり入られた俺は少し苛立ちながら吉川目掛けて声をだす。
「本当に知らないですよw」とヘラヘラ笑いながら湯本が言うと、吉川は何か言いたげに俺の方を見たが、すぐに湯本に視線を戻し、コソコソとつぶやきながら立ち去った。
「吉川なんて?」
「Aが俺の家にいるんだろ、って。あいつ最後に『全部分かってるんだからな』だってさ。」
「なwにwをw知ってんだよあいつはwww」
俺たちは何か面白いことがあるのではないかと内心期待を膨らませていた。
「本当に何も知らないの?」
かなこの問いに、俺たちは全力で頷いた。
嘘は言っていない。この時は、本当に何も知らなかった。