【グッドプラン・フロム・イメージスペース】Episode.5 「今から数年後・・・」第10章 : 後編 Part.13 (No.0143)
後編 Part.12のつづき
傘やカッパの子供達を連れて教師は川へと向かいました。みんなして長靴だったりするので何時も以上に移動に時間がかかりました。しかし無事に到着すると、やはり予想通り川は雨で増水し、流れが強くなり泥で川底は見通せなくなり、河原も水浸しになっていました。この土手の上から遠巻きに見てもどうやらノートに書いた予定が満足に達成出来そうにはありませんでした。
到着して川を一望するなり、子供達の中にあった期待はどんよりとした諦めの気持ちに包まれ始めていましたが、教師は率先して河原へ向かいました。
子供達がそれぞれに抱いていた思いは、河原へ降りるなりいよいよ破られてしまい、釣りやら石探しやらスケッチやら図鑑を使った調べ物やらは、何もかもこの雨模様が打ち砕いてしまったのです。
なにか出来るのではないか?とそれでもめいめいが河原をウロウロと散策し、増水し流れも強まった川べりまで迫り出す子も少なくありませんでした。
教師はあえて何も言わず好きにさせていました。しかし教師は河原から目線を遠くに向け、橋の上や川下に先程協力要請した警察や消防、そして自衛隊の車両や隊員たちが既に監視と予測される事態に備え救助の準備までされている事を確認していました。
警察達も教師が自分達の存在に気づいていることを簡単な手の合図で知らせており、連絡は済んでいますから安全性は確保されました。
教師はその後ひとりひとりの子供に話をし、今日の計画について聞いてみました。その反応もかなり差があり、幼いながらも個性は既にあることが伺えました。
今日はプランを実行出来ない事を冷静に受け入れる子。
頑張ってまだやってみると踏ん張る子。
やった結果失敗してしまった子。
チャレンジして怖い思いをした子。
せっかくの楽しみを駄目にされ天気を恨む子。
がっかりして元気を失った子。
期待を折られ泣いてしまった子。
それを慰める子。
事前のプランをすぐに捨てて、現場で新しい事を見つける子。
何かを見つけようとして複数人で集まり話し合う子。
様々な反応を見せた子供達も、ひとりふたりと段々に活動を辞め、教師のいる木陰に集まりはじめました。
そして口々に今日は諦める、といった言葉を話したのでした。
大方が諦めたあとにも、まだ頑張る子供も僅かにいました。その子のためにみんなが帰れずに待ちぼうけとなりましたが、そんな時でも教師は無理やりに連れ帰ろうとせず、教師が話をしに行き、何をしたいのか?や、それは可能なのか?など、話し合いの中で納得して今日は辞めて後日に促しました。
そしてそんな中でも一人だけ、まだ頑張るといって一生懸命に河原の石をひっくり返している子がいました。
教師は木陰の子供達に、今日は家に帰るか、またはこのあと校舎に行って別の事をするかを聞きました。
3分の1くらいは校舎へ行くと言いましたので、子供達を選り分けてまとめました。
そして教師は警察に手で合図をし、3名の警察官を呼び寄せて彼らにこの子達を家と校舎へ連れて行ってもらうお願いをしました。
警察官は受け入れてくれました。周りに残っている警察や消防、自衛隊と無線でやり取りを行い、一人の子と教師を残して全ての子供達は河原から姿を消しました。
教師も校舎にいる他の教師たちに連絡をし、今から向かう子供達を迎え入れることをお願いしました。
こうしている間も、その一人の子は懸命に活動を続けていました。
勿論教師も、遠巻きで見守る消防も自衛隊も止めることはしませんでした。
途中に何度も休みを入れ、持参した弁当も食べつつ繰り返し活動を続けました。
結局、この子は1日中この雨の中を必死に石をひっくり返し虫を探し続けました。周囲が暗くなりいよいよ石の裏に小虫がいても見えないようになるまでこの子は諦めなかったのです。
教師も消防も自衛隊もみんなが彼を見守り続けました。
そしてこの子は、水と小石だけ入った虫入れを教師に見せました。
「先生今日は駄目だったよ。晴れていないと流れが強いせいか全然見つけられないんだ。水も濁っているし。」
と、笑って話しました。
この子は昼を過ぎたあたりから、怒りも滲ませて半ばヤケクソになっている時もありました。
泣いている時もありました。活動が鈍った時もありました。
この子はこの1日で大変な心の変動を経験したのですが、その最後は笑顔だったのです。
その子の疲れを浮かべた笑顔に、教師も思わず顔がほころびました。
「うん。でもまた別の日もあるさ。計画を練り直そう。」
その子も素直に頷きました。
教師は周りの警察たちに合図を行い、本日の協力に感謝を示しました。そしてみんなが河原から帰っていきました。
ここにいた子供達みんなが、川での事前の計画と天候による失敗を経験しました。
教師はこの子達に経験させてあげました。
これはもし過去の教育であったなら、現場になんて決して行かせませんでした。事前に解っているのですからその時点でストップし、子供達に諦めさせていたのです。これも頭ごなしに中止とされてしまうので子供達は大変不満が生まれるのですが、教師は無理は無理と言うだけで文句を言う子を叱ったりする事も当たり前にありました。
しかしこの教師はそれをせず現場にまで行かせ、子供達自身に納得するような形で現実を認めさせたのでした。
今までは、このような「現実」と子供達の間に教師などがいました。
しかしそれを辞めてみたのです。これは結構実験的な部分がありましたが、子供の真剣な眼差しにそれを試す必要性を感じたのです。
そして教師は実感をたしかに掴みました。
成長の実感を掴んだのです。
Part.14へつづく
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