【楽園の噂話】 Vol.8 「長い買い物」(No.0056)


 人の身体はだいたい20歳前に完成され、あとは老いて少しずつ壊れていくものです。

老化と成長が同一であるという考えの心理学もあるようですが、いずれにせよ人の人生は止まることなく進み、約100年を目処に終わりを迎えます。

肉体が20年程度で成長拡大に終止符が打たれ下降線に入りますが、それに抗うように肉体の増強や改変に向きになる人々が男女問わず増えています。

確かに健康維持には運動が必要ですし、楽しみとしてスポーツに励むのは結構ですが、もはや日常生活に支障をきたすレベルで行う人もおります。
莫大な借金をして整形手術を受ける人も同様です。

「筋肉が全てを解決する」なんて少年マンガ以下の幼稚な文句に血道を上げる人達は、果てない努力を続けます。
彼らは努力や気合いなどの抽象的な精神論で頑張り、結果得られるものが下降に向かう壊れやすい物質である肉体です。

日々止まること無く過ぎていく人生は肉体の崩壊と共に進みます。

お金はその肉体と時間の両方を使うことで得られるものですが、そのお金で時間も肉体も買うことは出来ません。
人生は不可逆ですから、「大切な時間を無駄に過ごしてしまった」、「あの経験は無駄だった」と嘆いて返して欲しいと叫んだところで返品はされないのです。

肉体改造に勤しむ人達も真に得たいものは、その周りよりも立派に整った肉体を持つことによる優越感やプライド、安心感だと思います。

物質に固執する人達ですら、結局は目に見えないものを最も大切に考え、そのために苦痛に耐え鍛え続けているのです。
しかし肉体を酷使して得られる目に見えないものは、結局は肉体の崩壊で失われるのです。
物質の肉体が地盤であることが条件なので当然です。

つまり肉体という物質を使って得たものが、結局物質であるということです。
ですから時間と共に両方を確実に失います。

ですが肉体を使って、物質としての肉体に依存しない目に見えないものが手に入った時は、事情が変わります。

肉体が老いて行ったとしても、そこで得た目に見えないものは滅んではいきません。

いつまでも自分の財産になるのです。

先ほど、お金は肉体と時間を使って得られると書きましたが、時間も肉体も止まること無く減り続けている以上、穴の空いたお財布から小銭がこぼれ続けているような状態なのです。

人生を一歩一歩進みながらお買い物をしているのです。


現在、幼稚なウイルス騒ぎでヤクザの転売行為に身を売った身なりの良くない老人たちが、マスクや消毒液を買い占めて小遣い稼ぎをする為に、毎朝薬局の前に早くからたむろしています。

彼らはかなり長いこと小銭を落とし続けてきたように見えますが、その道中で一体どんなものを買って来たのでしょうか?

目に見えるものでしょうか?

目に見えないものでしょうか?


【楽園の噂話】Vol.8

「長い買い物」(No.0056)

おわり


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?