新シリーズ 【カメオの共鳴】シリーズ 第0篇 「カメオの共鳴」 (No.0230)



・カメオ:浮き彫りを施した工芸品や美術品のこと



私は昔からカメオが好きだった
クリームのようになめらかなのに 触ると固くて不思議だった
いつか きれいなカメオを手に入れたいと思っていた


今、目の前にカメオがある
いつからあるのか わからない
暗闇の中で輝きを放っていた


叩いて 砕いて
削って 磨いて


美しく輝く


いつのまにか 出来ていた


叩いた記憶も 砕いた記憶も
削った記憶も 磨いた記憶も 全部あった


でも出来上がったことは知らなかった


未熟なカメオ
もっと削るべき
もっと磨くべき


きれいなカメオ


目を覚ますと 声が聞こえた
部屋を探すと 声が近づいた


声の主を探すのに 汚いビジネス書が邪魔をした
どかすと 声が大きくなった
その奥にあるホコリをかぶった教科書は もっともっと邪魔をした
思い切って放り投げると 声の主がいた


未熟なカメオ
私のカメオ


こんなところにあったなんて 知らなかった
いろんな声を聴かせてくれた


喜びの歌も
嘆きの詩も


それから毎日 磨いてあげた
毎日 毎日


輝きが増した
歌声はより強く より美しくなった
怒りも 嘆きも 苦しみも 
どんどん聞き取れるようになった わかるようになった

その声は何よりもまっすぐだった その歌には嘘が無かった
触れられないくらいに 素直な声だけが 響き続けた

その声色は知っているものだったけど 涙が出た 情けないくらい 
その声には心が動かされた


まっすぐな まっすぐな 気持ち
ただそれだけ ただそれだけの音色が響いた


大切にしていた
部屋にしまって大切にしていた


ある日、私は胸元に付けてみた


鏡に映してみる
似合っているのか不安だった
すぐに外した


それから毎日 付けては鏡に映すを繰り返した


やがて、部屋にいるときは 付けている時のほうが長くなった


そのうち、付けていないと落ち着かなくなっていった


ある日 そのまま外へ出た


最初にあった不安は もうとっくに無くなっていた
それどころか 私は誇らしくさえ思い始めていた


外には 私を敵視する者もいた
ハッキリした仲間はいなかった


それでもカメオは声を上げた

歌うことを止めなかった
その歌は響いた その詩は届いた 他のカメオに


その響きを喜ぶ人がいた
その響きで苦しむ人もいた


私は驚いた
今まで誰にも 私の声は響かなかったのに カメオの声は響いたから


耳を澄ますと 周りの人からも小さい声が聞こえてきた

その人たちが 胸元に抱えている新聞紙を破ってあげると 
そこには荒削りのカメオがあった


彼らのカメオは 私のカメオの声に合わせて小さく震えながら 歌っていた
カメオ同士が 共鳴していた


中には 頑なに新聞紙を破らせない人もいた 
カメオをマスクで塞ぐ人もいた
 
私のことを叩いてくる人もいた 
手に持った新聞紙で 教科書で 選挙のポスターで 


彼らの胸にあるカメオを見ると やっぱり震えていた 
私がそれを指摘すると 彼らはとても怯えていた


あなたのカメオの歌声を聞かせてほしい
そう言うと 彼らはこぞって 消えていった


苦しむものは暗闇へ逃れ、喜ぶものは手を取ってくれた


まだ未熟なカメオ
もっと磨いて
もっと明るい日差しを受けていけば
もっと輝くようになるはず


部屋に閉まったままなんて もう出来なかった


この響きを この詩を 

共鳴してくれるカメオに

届けなくては




新シリーズ 【カメオの共鳴】シリーズ 第0篇


「カメオの共鳴」



おわり


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