【特別公開】≪いよいよ旅立ちだ! 4≫ 「隠された父の発見」
次代のプロ作家を育てるオンラインサロン"「私」物語化計画"の本編。サブタイトルは「隠された父の発見」。映画「スター・ウォーズ」の主人公ルーク・スカイウォーカーを皮切りに(特別公開ではギリギリ切れている部分だが)、さまざまな小説にある「隠された父の発見」を論じている。
いくつかの通過儀礼を経て、主人公はついに助言者と出会う。助言者はそれまで知らなかった人物の場合も、身近にいた人物の場合もある。とにかく、主人公も読者も想定できなかった意外な人に、物語の最大の秘密を聞かされるのだ。それが「隠された父の発見」だ。
いよいよ旅立ちだ! 4 「隠された父の発見」 山川健一
Webサイト上にテキストの冒頭部分が特別公開されている。以下、山川健一さんによる講義の概要動画とWebサイトのリンクを貼った。まずは、この2つをチェックした上で、わたしの感想を読んでいただければと思う。
わたしの感想
物語としての「スター・ウォーズ」、それに父とくれば、あれしかない。ギリシア神話に登場するオイディプースの逸話だ。フロイトが提唱した概念、エディプスコンプレックスの元になっている。
エディプスコンプレックスとは、コトバンクによれば「父親に嫉妬する無意識の葛藤感情」と説明されており、まあ、単純にいえば、父親を殺して自らを解放しようぜ、という感じだ。
エディプスコンプレックスは数多くの小説や映画などに潜在している。例を挙げれば、もうキリがないくらいの数だ。で、ひとり、エディプスコンプレックスと聞いて、思い浮かぶ人がいる。それは萩尾望都。少女漫画の神様だとか形容されることもあるけれど、そんな狭い世界では語り尽くせない作家だ。
「ここではない★どこか」
萩尾望都の作品で、ずばり、オイディプースを扱ったものがある。連作短編シリーズ「ここではない★どこか」に収録されている「オイディプス―メッセージ3」だ。これまでにも神話をモチーフにした作品はあったが、わずか16ページ(あの超傑作「半神」と同じ枚数!)に収めるあたりはスゴイとしか言いようがない。
「メッシュ」
もっとも、エディプスコンプレックスが顕著な作品といえば「メッシュ」だろう。幼い頃に母親が駆け落ち、本当の子どもか疑った父は主人公メッシュを寄宿学校へ。コミックス1巻で、萩尾望都が「エディプスの神話の話なぞを…」という後書きを書いている。最終話「シュールな愛のリアルな死」のラストが秀逸。美しすぎる。
「残酷な神が支配する」
コミックス全17巻、白泉社の文庫版全10巻。長い。しかも、文字が多い。そして、性的虐待、近親相姦、DV、同性愛、ドラッグなど、さまざまな問題が提起されている。エディプスコンプレックスもそのひとつである。いや、ひとつにしかすぎない。これを心理サスペンスという形に昇華した萩尾望都は天才。漫画で描ける領域を超えた漫画だ。
エディプスコンプレックスという括りで、3つの作品を挙げてみた。萩尾望都の代表作は?と聞かれたら、ものすごく困ってしまう。これ以外にも数多くの傑作がある。あえて、よく名前が出てくる作品(「ポーの一族」「トーマの心臓」あたり)を除くとすれば、一角獣シリーズの「4/4カトルカース」、「金曜の夜の集会」かな、レイ・ブラッドベリ原作ものもいいし、「スター・レッド」も捨てがたい……。
萩尾望都をどのように表記したらいいのか、少し迷った。なんでもかんでも先生と付けるのは好きではない。あれ、ある意味、小バカにしてるよね。さん付け。これもしっくりこない。それなら何も付けないほうがいい。萩尾望都。それはまるで記号のようだ。幾多もの優れた作品を生み続けているアンドロイドみたいに。ここではあえて、呼び捨てにさせてもらった。
Text:Atsushi Yoshikawa
(注)感想はあくまでも、わたし個人の感想です。決して、"「私」物語化計画"の講義に対する正答や正解ではありません。