翼がひらくとき⑪ 最終回

私は女

 夕方、洗濯物を取り込もうと二階のバルコニーに出た。空がピンク色に染まっていた。
「ねえ、満っちゃん、ちょっとお手伝いして」
と呼びつける。一人ではバルコニーに出させて貰えない満は、「待ってました」、とばかりに小走りできた。
「ほら、サンダル履いて。はい、この端っこしっかり持ってね」
 と握らせる。クィーンサイズ用のシーツは大きいので、四つ折りしてアイロン掛けるのだが、畳むだけでも一苦労だ。だからといって身体も小さい満はあまり役に立たないのだが、手伝いの習慣だけでもつけさせたい。
「はい、じゃパタパタして埃を飛ばすよ」
 と声掛けしてからシーツを上下に振る。だが、握力が弱い満の手からシーツが逃げてしまった。満の小さな手をすり抜けた白いシーツは、夕方の風に吹かれ、ピンクの空に向かって舞い上がろうとしているように見えた。思わず目で追った。ほんの一瞬のことだ。
「きれい」
 と満が喜ぶ。
「ふふ、羽衣みたいだったね。でも、はい、もう一度、ちゃんと持って」
 と両方の手にシーツの隅を握らせる。
「きれいはママ、ママ、きれい」
 と満が言う。何言ってるの、と笑って返そうと思ったが、
「ーーありがと。あのね、女の人ってきれいなのよ」
 と答えた。そして、心の中で続ける。だってね、女の中にはきれいな花があるの。きれいな鳥もいてね、きれいな空が広がっていて、きれいな海を抱いているの。
 いつか、満にも教えてあげよう。いつかきっと。

終(最後まで読んで下さりメルシーです!)

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