ジェンダーギャップ解消、企業にできることは? 制服から事業承継、単身赴任まで
世界経済フォーラム(WEF)が毎年公表する「Global Gender Gap Report」(世界男女格差報告書)。2023年版では、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中125位と前年から9位ランクを落としました。これは主要先進国のなかで最下位の数字です。
出生時の性比や健康寿命等を問う健康分野(59位)、識字率や就学率等を問う教育分野(47位)では、男女平等に比較的近いスコアを出しているものの、国会議員や閣僚の男女比等を問う政治分野(138位)や、労働参加率の男女比や同一労働での男女賃金格差を問う経済分野(123位)では、ほとんどすべての項目に課題があります。
本記事では、特に企業の活動にフォーカスして、ジェンダーギャップの解消やD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の実現に向けた取り組みを紹介します。事例だけではなく、こうした社会課題の背景や、各社が取り組みに至った経緯も解説。自社の活動や発信にいかしていただけたら幸いです。
① 「企業の制服」もジェンダーレスへ
中学校や高等学校で「制服のジェンダーレス化」が進んでいるというニュースを耳にされたことのある方は多いのではないでしょうか。男女兼用できるユニセックスなデザインのアイテムがあったり、スカートやスラックスなど複数の選択肢から自由にアイテムを選んで組み合わせられたり、さまざまな工夫がなされています。
同様に企業のユニフォームにおいても、ジェンダーレス化が進んでいることをご存知でしょうか?
その一例が、東京ディズニーランドや東京ディズニーシーのキャストコスチュームです。パークの運営を担うオリエンタルランドは今年春、コスチュームに関する性別表記を撤廃。複数のアイテムからキャスト自身が好きなものを選んで着用できる「ユニセックス運用」を導入しました。メイクやヘアスタイルについても、性別ごとにルールを設けるのではなく、全キャスト共通の規定に統一されたとのことです。
身近なところでは、全国チェーンのハンバーグレストラン「びっくりドンキー」も2022年、制服のリニューアルを実施しています。新しい制服はジェンダーレスなデザインで、帽子3種類、シャツ6種類、ベスト1種類をラインナップ。すべてが男女兼用アイテムで、一人ひとりが自分に合ったスタイルを選択できる仕組みです。
歴史的にジェンダーバランスの偏りが大きかった航空業界でも、ジェンダーレス制服の導入が進んでいます。韓国のエアロK、アメリカのアラスカ航空、イギリスのヴァージン・アトランティック航空など世界各国の航空会社の取り組みに続き、日本でもANAホールディングスの新ブランド「エアージャパン」もジェンダーレス制服の導入を発表しました。
性別を問わず、一人ひとりが自分らしい姿で、個性を発揮しながら活躍できる。そんな場所が、これからも増えていくと思われます。
② 事業承継する女性に寄り添い、当事者をつなぐ
経営者の高齢化や後継者の不在といった「事業承継」は、日本の中小企業が抱える大きな課題です。次世代が現れないために、業績が悪くないにもかかわらず会社を畳むケースもあります。
こうした事業承継問題は、ジェンダーの観点でも重要です。帝国データバンクによる「全国「女性社長」分析調査」(2022年)では、女性が社長に就任する経緯として、同族承継は50.7%と半数以上にのぼります。
なお、男性の社長は40.0%であり、比較すると10%以上高い数字です。女性が事業承継しやすい環境をつくることは、中小企業の後継者不足問題にも寄与するかもしれません。
しかし、事業承継に焦点を当てたサービスや男性中心のコミュニティはよくみられるものの、女性にフォーカスしたものはほとんどありません。こうした状況のなかで、貴重な事例が「女性社長のココトモひろば」です。
これは先代の逝去により社長に就任した女性を対象とする、数少ないコミュニティサイトです。承継やその後の経営の不安を抱える女性同士がつながり、ともに考える場になっています。
同サイトは、中小企業とその経営者向けのサービスを展開するエヌエヌ生命保険株式会社と、女性の社長・個人事業主のネットワークづくりをおこなう株式会社コラボラボにより運営されています。また、両社は、女性の事業承継を専門的に扱う団体を紹介する「女性のための事業承継ステーション」も展開しています。
まだまだ認知度の低い女性による事業承継。こうした社会的な課題に取り組むためには、ここで紹介してきたようなコミュニティ活動や調査・提言が重要ではないでしょうか。
③ 転勤・単身赴任をなくしたい、働く場所の自由化でダイバーシティ推進
「転勤」は、日本型雇用の特徴の一つです。大企業を中心に多くの企業が、社員の転勤を前提として組織を設計してきました。終身雇用や年功序列賃金のもとで、望まない転勤を命じられても従うといった風潮もありました。さまざまな問題が指摘されてきた転勤制度ですが、働く上でのジェンダー平等を妨げる側面もあると言われています。
これまでのように専業主婦の存在を前提にする社会では「夫の転勤に妻がついていく」「夫が単身赴任する」などの解決が可能でしたが、共働きが一般化してきた現代では、同じやり方だと妻のキャリアが途絶えたり、家庭運営の負担が妻に偏ったりしてしまいます。
また、キャリアアップの条件として転勤を命じる企業も多いですが、もともと家事や育児の負担が女性に偏りがちである日本では、女性が転勤を伴うキャリア向上の機会を失いがちであるという問題もあります。
そこで近年、転勤制度を撤廃することで、これらの課題に対処する企業が出てきました。その一つが、世界に32万人もの社員を抱えるNTTグループです。同グループでは2022年7月から、リモートワークを働き方の基本とする「リモートスタンダード」制度を導入。住む場所の自由度を高め、全国どこでも働ける環境を整えることで、転勤や単身赴任の削減を進めています。
自身も転勤・単身赴任のつらさを経験したというNTT澤田社長は、転勤を是としてきた「東京中心のヒエラルキー」も変えるべきだとして、本社機能の地方分散も進めているとのこと。自分の働きたい場所で働ける環境は、ジェンダーを問わず活き活きと働きやすい環境だと言えます。NTTグループ内での制度浸透や、他社の動きに注目したいところです。
④ D&Iやジェンダーギャップの取り組みを、いかに発信するか
最後に、ジェンダー平等やD&Iに向けた活動の発信についてです。社会課題の解消に向けた取り組みは、それを広く届けることで、自社を超えたインパクトをもたらすことができます。しかし、社会課題やアイデンティティにかかわる以上、「いかに発信するか」がほかのトピック以上に難しい。そう考える方も多いのではないでしょうか。
ここでは参考事例として、サイボウズとその社長・青野慶久氏の発信をあげたいと思います。サイボウズは企業として働き方の多様性を謳い、また、青野氏は企業のダイバーシティはもちろん、個人としても選択的夫婦別姓や同性婚の実現に向けた活動をおこなってきました。
青野氏やサイボウズの発信で注目したいのは、自身や自社の過去の問題点や、そこからの変化を隠さず、率直に伝えるところです。たとえば、同社のオウンドメディア・サイボウズ式に掲載されている以下の記事。
これまで「100人100通り」という働き方の多様性を訴えてきたサイボウズですが、社内調査をしたところじつは働き方の男女格差があった──そんな反省を青野氏が語っています。
企業にとって、自分たちの弱い部分や過去の誤りを認める発信は簡単ではないでしょう。しかし、それによって、組織や社会の構造的な課題を浮き彫りにすることができます。先ほど紹介したNTT澤田社長のインタビューでも、これまでのNTTグループによる転勤制度の問題点が、自身の経験を通じて語られていました。
──本記事の冒頭でも示したように、日本企業は現実として、大きなジェンダーギャップを抱えています。これを解消していくための発信の方法論として、自分たちの変化を伝えることは有効なアプローチのひとつではないでしょうか。