広報プロジェクトを進めるのは誰か? メンバーの選び方と役割分担を考える
連載「広報の現場から」
PR会社にいると「広報部を立ち上げたい」「広報人材を育ててほしい」という相談をいただくことがあります。外部のPR企業と契約するまでではないものの、広報部門の必要性を感じて社内で人材を育てたいと考える企業も少なくありません。それでは、どういう人が広報に向いているのでしょうか。本連載では、広報を必要とする企業や、これから広報の仕事をしてみたい人に向けて、広報現場で求められるスキルをStory Design houseの森が探っていきます。これまでの連載記事はこちらからお読みいただけます。
広報ではさまざまな「プロジェクト」にかかわることになります。どんなプロジェクトにおいても重要なのは、関わる人の選び方と、関わってもらうタイミングです。
──メンバーのアサインさえしっかりできれば、どんな仕事でもたいていうまくいく。そこで今回は、広報プロジェクトにどのような人材をアサインすべきかを考えてみたいと思います。
森 祥子(もり・さちこ)
Story Design house株式会社 Senior PR Consultant。ベンチャー企業から大企業まで、新たな事業開発に取り組む会社の成長戦略をコミュニケーションから描く。1000人クラスの大規模イベントや、演出にこだわったプレスイベントも得意。
プロジェクトは細かいタスクでできている
あるプロジェクトで「自社のサービスは10代からNo.1の支持を集めている」というフレーズを打ち出したいとします。この目的を達成するために、いくつのタスクが発生するでしょうか。
まずは「10代からNo.1の支持を集めている」ということが事実かどうか裏取りしないといけないですよね。もし不十分なデータしかなければ、アンケートやインタビューでさらにデータを集めたり、そのデータを分析したりする必要があります。それができたら、プレスリリースを送ったり、ランディングページを制作したりするでしょう。そのためにはテキストを書き、わかりやすく理解していただくために写真や図表も用意します。自社の取り組みをより広めるためにイベントを開催することもあるかもしれません。それなら企画書を作ってスケジュールを引き、関係各所と調整しなければ……。
──こうした膨大なタスクの数々をすべてうまくこなして、はじめて広報の仕事は回っていくのです。
「自分でやったほうが早い」という罠
ひとつひとつのタスクをきちんと割り振ることができれば、プロジェクトはスムーズに進みます。しかし実際には、それがいつもうまくいくわけではありません。
特にプロジェクトの始動時期には、担当者が何でも自分でやってしまいがちです。「人に頼むより、自分でやったほうが早い」という理由で、ついタスクを抱え込んでしまうのです。広報に限らず、プロジェクトを動かす人であれば、このような状況を経験したことのある方も多いかもしれません。
たしかに、プロジェクトのスタート段階ではまだタスクもそれほど多くないため、一人でもなんとかやっていけるように思えます。しかし、プロジェクトが進むにつれていつの間にかタスクがたまっていき、気づいたときには身動きが取れなくなっていた……というのは本当によくあることです。
こうした状況に陥らないために重要なのは、なるべく早い時期にメンバーをアサインしておくことです。
どんなに優秀な人でも、無理なタスクを抱えて締切に追われると、一つひとつのアウトプットの質が落ちます。いっぽう、早めにタスクを割り振っておけば、各メンバーが自分の担当分野について深く思考する余裕が生まれ、結果的にプロジェクト全体がクオリティの高いものとなるでしょう。
「考える人」と「手を動かす人」を分けよう
ただし、「適切なタイミングでメンバーをアサインする」というタスク自体、簡単なものではありません。自分も作業をこなしながら、メンバーを的確に選んで仕事を依頼し、常に全体の進捗を見ようとすると、それはそれでキャパオーバーになってしまいます。
そこで提案したいのが、「考える人」と「手を動かす人」を別にするという方法です。
「考える人」は、プロジェクト全体を見渡す人です。企画を立案し、適切なメンバーを必要なとき必要な場所にアサインして、組織を動かしながらアウトプットの質を維持します。それに対して、「手を動かす人」は、コンテンツ制作やメディアアプローチなど、プロジェクトを構成する具体的なタスクに専念する人です。
こうして役割を分けることで、自分が目指すべきことや取り組むべきことが明確になり、各々のメンバーが自分の持ち場でしっかりと力を発揮できます。そうすれば、プロジェクト全体が一貫性を持ちつつ、個別の重要ポイントを深く捉えたものになるはずです。
「手を動かす人」こそが重要な役割を果たす
さて、「考える人」と「手を動かす人」というと、「考える人」のほうが大切だと思われがちです。しかし、決してそんなことはありません。とりわけ広報プロジェクトでは「手を動かす人」こそがプロジェクトを動かしているのです。
これは、外部のPR会社に広報を依頼するときにも知っておきたいポイントです。初めて外部に広報業務のサポートを頼むとき、「ひとまずアドバイスをもらうところから始めよう」と考える企業もありますが、これはあまりうまくいきません。「考える人」だけを呼んできても、実際に「手を動かす人」がいなければ、結局何もできないのです。
「プレスリリースを書いては?」、「地元の新聞社に電話しては?」……そんなアドバイスを受けても、社内に経験を持つ人材がおらず、アドバイスを行動に移すことができなかったという事例をよく耳にします。
そうはいっても、「手を動かす人」を闇雲にアサインしてもうまくいきません。経験や知識がない状態からいきなり手を動かせるようになるわけではないからです。最初は社内外の経験豊富なメンバーといっしょに手を動かし、少しずつ経験を積んでいくことが大切です。
成果を出すための、PR会社との関わり方
これまで数々のクライアント企業の広報をサポートしてきましたが、うまくいった事例に共通するのは「手を動かす」部分に伴走させていただいたということです。ただアドバイスをさせていただくのではなく、ともに手を動かしながらプロジェクトを進める。それが成功の要因なのです。
たとえば、週に1度程度のペースで密に打ち合わせを重ね、メディアの担当者と会うときにも同行する。それを1-2年ほど続けると、初めて広報プロジェクトを実施するクライアントであっても、社内にノウハウが蓄積され、「手を動かす人」が現れます。ここまで来れば、アドバイスをするだけでプロジェクトがうまく回りはじめます。
そうはいっても、予算に限りがあるケースもあります。長期間にわたって伴走することが難しい場合には、3-4ヶ月と期限を区切って、その期間に密なやりとりを重ねます。最初の1-2ヵ月は密に1on1ミーティングやOJTのような取り組みをおこなって、「手を動かす人」へのレクチャーに専念。3ヵ月目からは外部メンバーの稼働日数を少しずつ減らしていき、必要なときにサポートする。外部に広報サポートを依頼する場合、このようにメリハリをつけて関わるほうが、月1回だけのミーティングを1年続けるより、よほど大きな効果を得られるはずです。
──「手を動かす人」を大切にする。それがうまくいく広報プロジェクトの秘訣です。今後、広報の一部を外部に委託しようと考えている方は、ぜひとも「まずは手を動かす部分をサポートしてもらう」ことを検討いただけたらと思います。