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PRってなんだろう、年度末に考えたい広報の本質

連載「広報の現場から」
PR会社にいると「広報部を立ち上げたい」「広報人材を育ててほしい」という相談をいただくことがあります。外部のPR企業と契約するまでではないものの、広報部門の必要性を感じて社内で人材を育てたいと考える企業も少なくありません。それでは、どういう人が広報に向いているのでしょうか。本連載では、広報を必要とする企業や、これから広報の仕事をしてみたい人に向けて、広報現場で求められるスキルをStory Design houseの森が探っていきます。これまでの連載記事はこちらからお読みいただけます。

森 祥子(もり・さちこ)
Story Design house株式会社 Senior PR Consultant。ベンチャー企業から大企業まで、新たな事業開発に取り組む会社の成長戦略をコミュニケーションから描く。1000人クラスの大規模イベントや、演出にこだわったプレスイベントも得意。

多くの会社が年度末を迎えるこの時期、広報担当者は4月から始まる新年度に向けて戦略をつくっているのではないでしょうか。手を動かして施策を実行するというより、これまでの活動を振り返ってまとめたり、次の計画を練ったり、机に向かう時間が増えているところだと思います。

そんなタイミングですから、今回は現場ですぐに使えるTipsから少し離れて、広報という仕事の目的や本質について考えてみたいと思います。

なぜ広報活動をするのか

そもそも、なぜ企業は広報に取り組む必要があるのでしょうか。「多くの企業に広報部があるから」というのでは答えになりませんよね。他社がやっているからというだけでは、理由になっていません。よく耳にするのは、次のようなものでしょうか。

「自社の存在をもっと広めるため」(認知拡大)
「会社の価値を高めるため」(ブランディング)
「採用を強化するため」(採用広報)
「社員のモチベーションを高めるため」(インナーブランディング)

もちろん、こうした情報発信や認知拡大も大切です。しかし、これらが広報の本質かと言われると、私はそうではないと思います。情報発信だけなら、広告の出稿やマーケティングなど、ほかの手法でも実現できるでしょう。

では、広報の本質とはなにか。それは情報発信よりも手前にある「自社のどの部分を、どのように見せたいのか」「社会に伝えたいメッセージはなにか」を深く考えていくことだと私は考えています。

広報はコスパがいい?

なにを伝えたいか考えるということは、当然ながら自社のヴィジョンや経営の方向性とも直結します。そんな会社の根幹に触れる活動にもかかわらず、広報はどこか「コスパがいいもの」と思われている節があります。「広報は広告やマーケティングと比べて、少ない投資で大きなリターンを得られる」と言われることもしばしばです。本当にそうでしょうか?

少し例をあげてみましょう。広報の仕事のひとつに「企業の情報をプレスリリースとして発信し、メディア掲載を獲得する」というものがあります。たしかに、プレスリリースを出す「だけ」ならコストはかからないかもしれません。

しかし、施策を成功に導くためにはリリースの内容や表現、出し方について、細やかな工夫とそれにともなう工数が必要です。広告出稿のようにわかりやすく金額は見えなくとも、人的コストがかかるのです。そして、その人的コストのなかには、多かれ少なかれ「経営者の時間」という非常に重要なものも含まれています。

そう考えると、投資金額に対するリターンを明確に算出できる広告よりも、見えない人的コストがかかり、それ次第でパフォーマンスも変わってくる広報のほうが、難易度が高いとすら言えるかもしれません。このように考えると、「広報はコスパがいい」と安易に考えることはできないでしょう。

外部人材

広報の難しさを解決していくためには、遠回りに思えても、課題を徹底的に洗い出すことが大切です。

情報発信するためのネタがないのか、ネタはあってもメディアとのリレーションがないのか、すでに広報を進めているのに成果が追いついていないのか……まずは自社の広報を見直してみましょう。

課題が見えてくると、取りうる手法も増えます。社内だけではなく、外部のPR会社やPRパーソンの活用も期待できるでしょう。自社の課題を検討したうえで相談すれば、外部人材のパフォーマンスも高まります。

ただし、同じ「PR会社」でも、そのあり方は多種多様です。したがって、どのPR会社に相談するかが非常に大切です。必ずしも、大手に頼んでおけば安心というわけではありません。

重要なのは、「現時点での自社の課題に合ったPR会社かどうか」という視点です。したがって最初にやるべきことは、

自社の課題を明確にした上で相談してみると、それぞれのPR会社が出してくる提案も、より高い解像度で評価できるはずです。そして、記事の最初に述べた「何を伝えたいのか」をともに追求し、その実現のために様々な手法を提案できるPR会社と出会えると理想的です。

今の時代の「広報」は、マーケティング、イベント、オウンドメディア、SNS、広告、動画など、複数の分野を横断しながら検討することが重要です。「これだけやればOK」という場面はあまりなく、あらゆる施策の掛け合わせが、効果的なコミュニケーションを生み出していきます。

そういう意味では、一人の担当者が総合的に関われる、小さなPR会社に依頼するほうが適しているケースもあるでしょう。

広報は魔法じゃない

広報で打ち出す情報は、畑で採れた野菜に似ています。

例えば、あなたは自分の畑で大根を育てているとしましょう。手間ひまかけて大切に育てた大根のおいしさを、より多くの人に知ってもらいたいですね。

そのとき、採りたての土が付いた大根を出すのか、おでんのだしがしみ込んだ大根を出すのかで、受け手の印象は大きく変わります。

このように、元ある素材を最大限に活かし、ときには魅力が伝わる形に加工して、いかに興味を持ってもらい、手に取ってもらえる素材に変えるのかが、広報の力の見せどころです。

ただし、そもそも大根が収穫できなければ、大根のおいしさを伝えるのは難しいかもしれません。

広報という仕事には一定の柔軟性があるので、たとえ大根が不作の年があっても、工夫次第で何らかのメッセージを伝えられる可能性はあります。たとえば、「隣の畑の大根と何が違うのか」「なぜ大根を育てているのか」をしっかり表現できれば、なんとかなるかもしれません。

しかし、まったくの無から有を生み出すことは不可能です。広報は魔法ではありません。

広報活動に取り組むことで、成果が出ている企業もある。それはもちろん事実です。他社の社長がメディアに出たり、競合の取り組みが素敵な記事で紹介されていたりするのを見て、自社でやってみたいと思うことはもちろんあるでしょう。

そのときやるべきことは、いきなりプレスリリースを打つことではありません。まずは自社の商品や人材、あれこれを見直してみましょう。年度末の今は、このような洗い出しと計画に最適な時期なのではないでしょうか。

PR会社である私たちSDhが取り組むときにも、ヒアリングと戦略立案に2ヶ月ほどを費やすのが普通です。あらゆるコミュニケーションの土台となる「自社への理解」を、ぜひこの機会に進めてみてください。