つながる力で社会を変える──シビックテックから地域DXまで、ボトムアップ型の成功事例
今年の3月11日で、東日本大震災から13年となりました。この悲劇は多くの人々に深い傷を残しましたが、同時に、日本全国の市民が一丸となって支援活動に参加するきっかけともなりました。
震災時には現地に赴くことができない市民がITスキルを活かし、情報提供やツール開発を行うことで、遠隔から支援に参加しました。日本では、現在ほど「シビックテック」という言葉が広まる以前から、市民によるテクノロジー活用型の社会課題解決が行われていたのです。
このようなボトムアップ型のアプローチにより、人々の「つながり」を生みながら課題解決を実現している事例は、被災地支援のほかにも数多くあります。本記事では、その一部を紹介します。
「issues」や「PoliPoli」に見る、市民×政治の新しい形
「シビックテック(CivicTech)」とは、「市民(Civic)」と「テクノロジー(Technology)」をかけ合わせた造語です。市民がテクノロジーの力を活用して社会課題解決に取り組む動きとして、近年注目されています。
日本では「issues」や「PoliPoli」のように、シビックテックを促進するプラットフォーム型サービスがあります。これらのサービスは、市民と政策決定者の間のコミュニケーションを促進することで、従来の枠組みを超えた問題解決のアプローチを提供するものです。
たとえば「issues」では、地域住民が直面する「小学校の欠席届をオンラインで出せるようにすべきか」という日常的で重要な課題を取り上げ、地域の議員との直接的な対話を通じて、実現可能な解決策を探求しています。この取り組みによって地域コミュニティ内での議論が盛り上がり、教育現場のデジタル化をより良い形で進める一助となっています。
一方「PoliPoli」のサービスを通して、小規模事業者のビジネス環境も改善しています。特定商取引法の解釈変更により、個人事業者が名前や連絡先などの個人情報を開示せずに取引できるようになったのです。このルール変更は、サービスを利用する議員と関連企業の代表による勉強会を通して実現しました。
このような取り組みによって、市民と行政のあいだに新たなコミュニケーション手段が生まれると、従来は見過ごされがちだった課題が視覚化され、その解決アイデアも見えてきます。シビックテックという概念やそれを支援するプラットフォームは、社会を構成するさまざまな人々が「つながり」の中で未来を創造するための架け橋ともいえそうです。
「ひぐまっぷ」で守られる、地域の安全と生物多様性
ヒグマの出没情報を地図上で共有できるWebサービス「ひぐまっぷ」をご存知でしょうか。オープンデータハッカソンをきっかけに、民間技術者の手で生み出されたツールです。
住民から寄せられたヒグマ出没情報をクラウド上に収集してマッピングする「ひぐまっぷ」は、北海道内でいくつもの自治体に導入され、自治体ホームページで住民への情報共有に活用されています。
さらにヒグマの生態を研究する研究者にとっても有用なデータソースとなっており、ヒグマと人との共存に向けた調査研究の進展にも貢献しています。
インタビューによると、「ひぐまっぷ」の開発はあえてトップダウンではなく、自治体の現場で働く担当者ベースで進めていったそうです。北海道立総合研究機構の研究者から知見を得つつ、自治体職員が実際にツールを使用しながら、機能をブラッシュアップしていきました。今では「ひぐまっぷがない世界は考えられない」という声もあるとのこと。
「行政オープンデータ×ボトムアップ型の開発」のコンビネーションで誕生した「ひぐまっぷ」は、住民のニーズに応えながら、野生動物との共存という持続可能な環境にも貢献しています。市民と行政がテクノロジーでつながりながら地域社会の課題解決を目指す、新しい形の公民連携(PPP/パブリック・プライベート・パートナーシップ)の好例の一つです。
技術と情熱を持ち寄って。Code for Japanの支援プログラム
ボトムアップ型で開発されるサービスには、「ひぐまっぷ」のように行政が提供するオープンデータを活用したものが多く見られます。こうしたサービスは、オープンデータ・オープンソースをテーマとしたハッカソンやアイデアソンなどの開発支援イベントから生まれることがよくあります。
このように、オープンデータ・オープンソースを活用した市民と行政の橋渡しに取り組んでいる非営利団体の一つが「Code for Japan」です。同団体は、東京都公式の新型コロナウイルス感染症対策サイト開発でも話題を集めました。
Code for Japanが主催するコンテストや支援プログラムからは、社会課題の解決につながるさまざまな事例が生まれています。たとえば学生向けのシビックテック開発コンテスト「Civictech Challenge Cup U-22」では、吃音症患者向けの音声編集ツール「べあてっく」、ゴミ収集ロボット「トラカム」、子どもの安全マップ「Safe Navi」など、クリエイティブな解決策がいくつも誕生しました。
このようなイベントやプログラムの盛り上がりからは、「テクノロジーで社会にポジティブな変化をもたらしたい」と熱意を抱く市民たちの姿が見えてきます。
Code for Japanでは、「Civictech Accelerator Program」第3期で「データ連携基盤」と「オープンデータ」に関連するプロジェクトの支援を強化するとのこと。これからどのようなアイデアが実装され、どのようなコミュニケーションの中でより良い社会が育まれていくのか、非常に楽しみですね。