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黄昏の窓際



窓際のベッドに腰掛けているのは、30代の女性、名を美沙(みさ)と言った。外は夕暮れの光が柔らかく、橙色から紫色へと変わりゆく空が広がっている。彼女はその景色を眺めながら、若い頃の思い出に浸っていた。

十年前、美沙は大学を卒業したばかりで、未来が無限の可能性に満ちていると信じていた。友人たちと毎晩のように遊び、夢を語り合った。その頃の彼女は、何者かになれると確信していた。さまざまな挑戦を恐れず、未知の世界に飛び込んでいく情熱を持っていた。

しかし、現実は違った。社会に出てから、彼女は何度も挫折を味わった。就職活動の苦しさ、職場での人間関係の難しさ、そして自分の夢がどんどん遠ざかっていく感覚。少しずつ、彼女の心に暗い影が差し込んできた。友人たちもそれぞれの道を歩み始め、連絡が疎遠になっていった。彼女は、自分が望んでいた人生とはまったく違う現実に直面していた。

窓の外では、子どもたちの声が響いている。彼女はその声に耳を傾けながら、ふと自分の心の中にある小さな夢を思い出した。小さな頃から描いていた絵本のストーリー。夢見がちな少女が冒険を通じて成長し、最後には仲間たちと幸せを見つける物語。美沙はその夢を忘れかけていたが、心の奥底では今も燃えていた。

「もう一度、挑戦してみようか。」彼女は静かに呟いた。過去の自分に戻ることはできないが、未来を変えることはできるかもしれない。以前の情熱を取り戻し、新たな一歩を踏み出す勇気を持とうと決意した。

美沙は立ち上がり、机の上に散らばった古いノートを手に取った。そのノートには、彼女の夢やアイデアがぎっしりと詰まっている。恥ずかしさや不安を捨て、彼女は新たな物語を描き始めることにした。自分自身を信じて、もう一度立ち向かう勇気を取り戻すために。

窓の外、紫色の空に星が一つ、また一つと瞬き始める。美沙はその美しい光を見上げながら、心の中に新たな希望が芽生えていくのを感じた。黄昏の中で、彼女は再び自分の道を見つけるための一歩を踏み出したのだった。

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