誰のせい
30代前半の夫婦、健二と美咲は、結婚して5年目を迎えていた。二人はお互いに愛を誓い合い、幸せな日々を送っていると思っていた。しかし、健二の心の中には、次第に不安が広がり始めていた。
美咲は仕事に忙しく、家事や育児に追われていた。一方、健二は都心の広告代理店で働いており、仕事のストレスが溜まっていた。二人のコミュニケーションは徐々に減り、週末に一緒に過ごす時間も少なくなった。健二は、美咲の笑顔を見ることが少なくなり、自分の心が孤独に感じられるようになった。
そんなある日、健二は同僚の玲子と飲みに行くことになった。最初はただの職場の飲み会だったが、玲子の明るい性格と気配りに、健二は次第に心を惹かれていった。彼女との会話は楽しく、いつの間にか心の隙間を埋めてくれる存在となった。
不倫は最初の一歩を踏み出すのが難しい。健二は自分の気持ちを押し殺そうとしたが、玲子との関係は深まっていく。彼女の笑顔と自分の心の満たされなさが交錯し、ついに一線を越えてしまった。
その一夜の後、健二は罪悪感に苛まれた。美咲のことを思うと胸が痛み、自分の行動を正当化する理由は見つからなかった。しかし、玲子との関係は彼にとって逃げ場のような存在となり、次第に彼の心は揺れ動いていった。
数週間後、美咲が健二の様子に気づく。いつもより遅く帰ることが多くなり、携帯電話を手放さなくなった彼。美咲は不安を抱えながらも、夫を信じようとした。しかし、彼女の心の中には疑念が渦巻いていた。
ある日、美咲は健二の携帯電話を偶然見ることになった。玲子とのメッセージが並んでいるのを見た瞬間、彼女の心は凍りついた。信じていた夫が裏切っていたという現実が、彼女の胸に突き刺さった。
その晩、美咲は健二に真実を問い詰めた。彼は自分の行動を認め、謝罪したが、美咲の心はもう彼を受け入れることができなかった。彼女の目には、愛情が消え去り、悲しみだけが残された。
「誰のせい?」美咲は涙を流しながら言った。「あなたが選んだ道なのに、どうして私がこうなってしまったの?」
健二は言葉を失った。彼の心の中では、責任の所在を探し続けていた。自分の選択がもたらした結果を受け入れることができず、ただ虚しさだけが残った。
結局、健二と美咲は別れることを決意した。お互いの愛が消えたわけではないが、失ったものは大きすぎた。誰のせいでもない、不倫という選択がもたらした痛みと後悔の中で、それぞれの新しい人生を歩み始めることにした。
最後に、美咲は健二に言った。「私たちの愛は、あなたの選択によって壊れてしまった。でも、これからは自分の幸せを見つけるために進んでいくわ。」
健二はただ頷くしかなかった。彼の心には、愛があったはずなのに、それが誰かを傷つける道を選んでしまったことを、深く悔いていた。