俺とバイクと奥の細道その2
東ティモールから日本に帰って来ると大学病院の事務で働き始めたのだが、交通の便を考えてバイク通勤にした。バイクは最初はスズキのDjebel(ジェベル)にした。これもオフロードをツーリング用に改良したもので、どこにでもどこまでも行けそうな感じのするバイクだ。特に大型タンクにビッグライト、そしてゆとりのある荷台はまさに遠出用のスタイルでアーミー感満載だった。実際にモスグリーンや迷彩に塗り替えるオーナーもいた。しかし独特のビビリアンライトブルーに白という色合いは、後に出てくるBMWのモタードにも似ていて、ヨーロピアンな雰囲気も漂わせていた。
次にカワサキの黒のDトラッカーに乗り換えた。これもオフロードのKLXにオンロードのタイヤを履かせたトラッカーであるが、パワーがものすごく、いきなり吹き上がり宙に浮きそうな勢いで弾丸スタートを切る。まるでイナズマのようだった。もしかしたら誰かに246のイナズマと噂されていたかもしれない。ある時、目の前で大型トラックが映画さながらのジャックナイフでハンドルを切って道を遮ってきた時は、バイクを横倒し気味に滑らせながら減速し、カウンターを当てて、けつを逆にふって立て直し、トラックを横目にすり抜けて行った。まさにジグザグのイナズマのようだった。それを見ていたバスの客が「まるでイナズマのようだ」と言っているのが聞こえて来るようだった。
そして今回は KTMのDuke だ。さらにヘルメットを買いに行くと、オレンジと黒のジェットヘルが待ち構えていた。まさにオレンジと黒のDukeにはマリアージュな色合いだった。こういう派手なバイクに乗ると、なぜかナルシスの霊が降りて来る。バイクに跨っている姿をビルの鏡に映してうっとりしたくなる。そこでバイクとバイクに乗った自分の姿を思う存分堪能するために、東京のビル群をすり抜けて東北に旅に出ることにした。
新しい相棒、自分の昔の仇名Duke、コードネームゴルゴ13と多摩川を超え、六本木を回り込み青山を抜け、皇居をなぞって日本橋を横目に、三越を折れると4号線に入る。春日部を過ぎると空と緑が広がって福島の文字が目に入ってくる。それまでの間、何度もビルの大きな窓に映る自分とDukeの姿を確認してはほくそ笑んだ。