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短編小説 「エルフの通貨」


東の腎臓の窓から日が差しこんで来た。待ちに待ちに待った日が来た!ネズミ毛布を蹴り上げ、尻尾枕を頭上に放り投げた。ベットから飛び出してパジャマを破り脱いで、旅の歌を歌った。

「さ〜あ出かけよう、トロールのく〜にへ。ト〜カゲの皮に着替え、ネ〜ズミの頭のキャリーバッグを引いて僕は旅に行くよ。心臓のドアを蹴り開け出かけよう。留守番はコバエのジュンに任せて、エルフの僕は行くよ。エールは空港の外貨両替所でドュールに、ボ〜ブはげ〜ん〜き〜か〜な〜あ〜」

「はいボブ!元気!」ボブはいつものように仏頂面で両替カウンターに座っていた。君の黄色肌を見るとジャパニーズを思い出すよ。

一重瞼の目に住んでいたクロンボが懐かしい。ガタガタの歯並びにシャくれた小さな顎も懐かしい。君らジャパニーズの街はどこでもキムチの香りがしている。それに、綺麗な女性はみんな顔が同じでクローンなのかと疑ってしまった。

「アルフォ、君の歌を聴くまでは元気だったさ」嫌味もいつもと同じ。君のその嫌味が好きだから、一パーセント高く手数料を払っているのさ。

「十万エールをドュールに両替を頼むよ」一ヶ月分の給料の十万エールをポケットから取り出してカウンターにドンと置いた。

「四九〇ドュールだ」とボブはレジスターの表示を僕に向けた。薄ぼけた緑の光が数字を表示している。あぁそんなバカな。

「どゆこと!」両手でカウンターを叩いてしまった。半減してるじゃないか。「ボブ、手数料を上げたのか!半分に減ってるんだ」

ボブはため息を吐いてスマホをいじりだした。

「ニュース見たか。今朝、今年一番のエール安になった。手数料が上がってたらここで働いてない」そう言いながらスマホのニュースを見せてくれた。エールが暴落だなんて旅行はどうなるんだよ!お金ないよ!

「どうする隣に行くか。それともエール高になるまで待つか」

「いいよ両替してくれ。昨日、両替しとけばよかったぁ。たった一晩で国力が落ちたのか」もうダメや。この国は終わりだ。もうダメやアホォフォンも買えない。なんで国力落ちるんや!!

「警備員呼ぶぞ」とボブが言った。空港の入り口に立っている警備員が僕を見ていた。

「ボブ、この国はどうなるんだよ。国力が落ちて国が滅びるかもしれないよ。それに僕の旅行はどうなるんだよ」うつむくとカウンターに小さな水たまりができていた。なんなんじゃこりゃ。

「なに言ってるんだ。国力なんか落ちてねぇよ。それに行き帰りの飛行機と宿泊費は暴落する前のレートで決済されてるだろ。困るのは現地での現金支払いだけだろ」ボブは落ち着いた声で僕を慰めてくれて、ティッシュ箱を差し出してくれた。だけど、半分になっちゃうんだよ!

「そうなの国力落ちてないの」おぉボブよ僕を助けてくれ。

「よく考えろ。一晩で国力が落ちるわけないだろ。それじゃあ、明日の朝エール高になったら国力が戻るのか?たった一晩で国力が変わるわけないだろ。せいぜい変わるのは海外旅行する奴の気分だろ」そうなのかボブ、僕を安心させようとしてるだけじゃないのか。

「でも、テレビや新聞は『国力が』『通貨安が』とか言ってるよ。それに『大企業は海外進出して工場も現地だから通貨安はけしからん』と言ってるよ」

ボブが大きなため息を吐いてチラリと僕を見て姿勢を正した。

「テレビや新聞がそう言ってるのは知らん。ただ、最後のに答えるならこうだ『海外進出して工場も現地で我が国にはメリットがない。だが、使っている通貨はドュールだ。今日、その通貨をエールに両替すれば為替差益がでる』まあ、通貨安が続けばいずれ海外進出した企業も国内回帰するだろう」

「なに言ってるかさっぱりだよ」ボブの頭がおかしくなってしまった。「ボブ!大丈夫か!僕だよアルフォだよ!なにを言ってるんだ」ボブお願いだいつもの嫌味を言うボブに戻ってよ。そんな学者みたいなことを言うボブはボブじゃないよ。

「おかしくなってるのは君だろ。君はいつも通りだな。早く保安検査に向かいなよ」

「行くよボブ。帰ってくる頃には君はさらにおかしくなっているかもしれない。だから君に愛の歌を歌うよ。がぁ、がぁ〜、痰壺をちょうだい」ペッ!

「ボ〜ブゥ君は両替所のしがない中年だよ。僕は君のとも〜だち。僕は君のいや〜みが好き〜なぁ〜んだ。賢いことを言う〜のは君らしくない。君は高卒。僕は博士ご〜うを持っているのさ。君と僕はちがう〜のさ。ここは君にふさわしい。君のちせ〜いは誰ものぞん〜でない。さらば。ボブ。僕は旅に〜出かけるよ」

またねボブ!




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