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sam gendel & sam wilkes を京都METROで聴いた
京都metroでのsam gendel & sam wilkesに妻と行く。彼ら界隈ではこの二人をsam×samと呼ぶらしい。なるほど。
妻は僕に誘われるままに来たので曲すらまったく知らず、事前に聴いておきたいとのことで車の中で予習する。
16:30開始で22:00終了と長丁場になり、出演はsam×samとpauli、もうひとり京都在住のDJが出るらしい。本当に6時間近くもやるんか?と思いながら会場へ向かう。
車は近くのコインパーキングに停める。入口にはすでに行列ができていて、予約順に呼ばれるらしい。「180番の人!」とか言ってたけど、今回僕は速攻で予約したせいか、18・19番だったためすぐに入れた。フロアには以前のジム・オルークの時と違って椅子なども用意されていない。でも備え付けのベンチがあるのでそのひとつに妻と座る。チケットは完売だったらしく、とにかく人が多い。みんな前の方に陣取っている。座っている僕たちは行き交う人たちにがんがん足を踏まれる。blue noteみたいなところでゆったり聴きたかったなあとちょっと思う。
もうすでに誰か演奏していて、たぶんこれが京都のDJっぽい。座ったままとりあえず聴く。もちろん演奏は見えないんだけど、この人目当てじゃないのでまあいいかと思いつつも、でもそんなに悪くなくてけっこうちゃんと聴いてしまう。
この人は1時間かそこらやって、お待ちかねのsam×samは唐突に始まる。お馴染みのgendelのサックスが聴こえてくる。見なきゃ!と思い、行儀が悪いんだけど僕は座っていたベンチの上に立つ。僕の隣に座っていた人も同じようにベンチの上に立ち上がる。いちおうベンチは壁に接しているので、幸い僕らが立つことで誰かが見えなくなるということはないけど、フロアに立っている人と比べると視界が良いのは事実。ごめんなさい。
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個人的な感じ方になるけど、彼らの曲は2種類に分かれていた。身体反応系と脳味噌反応系。前者は、音全般がとにかく気持ち良くて、自然と身体が動いてしまう。意識はゆったりまどろむような感じになり、どこかに流されていくような、たゆたうような感じになる。僕は目を閉じて、流れていく穏やかなうねりに身を任せるだけになる。これが続いていくとシャーマンだかイタコだかに発展していくのだろうか。とりあえずただただ気持ちいい。至福。
もうひとつのほうは、どちらかといえば静かな曲で一音一音聴き逃したくなくなるような楽曲に対する反応。下の動画がまさしくこの日のやつで、weirdfishepayaさんという方が当日の演奏をその日の夜にいくつか挙げてくれていた。感謝。
こういう場合、もうひたすらくそ真面目に、とにかく集中して音を聴くだけになるというか、そうならざるを得ない。身体も揺れない。ただただ音に意識を集中させる。音から計り知れるであろう意味だか意思だかを掴み取ろうとする。というか脳味噌/心が勝手に音に吸い寄せられていく。どうにも抗えない。
この2種類の楽曲が繰り返され、そのつど身体を漂わせたり心を集中させたりする。なのでメリハリがあってけっこう楽しい。2人の演奏はたぶん1時間ちょっとだった。
ところで僕の座っていたベンチの隣には、20代くらいの男性が座っていた。彼は竹村延和のように長い髪を束ね、黒っぽい清潔な身なりをしていた。前座DJの時はうつむいて静かに聴いているだけだった。
しかしsam×samになると僕と同じくベンチの上に立ち、食い入るように演奏を見ていた。終わるとまた座って静かに佇んでいた。たぶんかなりの熱量をもって彼らを聴きにきていたんだろう。そういう人が隣にいて良かったな、と思ってまたその隣を見たら、その人も似たような身なりと挙動の男性だった。とても良かった。
pauliになるといきなり雰囲気が変わり、かなりチャらくなる。「mst」あたりのをやってくれたらいいのになと思いつつ、妻と相談しもういいやと外に出る。またsam×sam出るのかな?出たらもったいないなあと思いつつ。これが19時くらいだったから、この後3時間やったんだろうか?と思っていたら、ひたすらpauliがやっていたらしい。凄い。
外に出て階段を上がると、sam gendelと何人かが話をしている。おおっと思いつつ今回のフライヤーが貼られた看板の写真を撮っていたら、彼と話していたmetroのスタッフらしき人が、看板からはがしていたsam×samのフライヤーを持ってきて、「これにサインもらおうと思って看板からはがしちゃってたんです、すみません」と言いながら看板にそのフライヤーを貼り直す。
僕は「あの人sam gendelですよね?」とそのフライヤーさんに話しかけると「そうなんですよ、写真撮ってもらいますか?」と言う。僕は嬉々として彼らの方に向かい、写真を撮ってもらう。少し年配の外国人夫婦もいて、どうやらsam gendelのご両親のようだった。
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突然の出来事に僕は子どものようにはしゃいでしまい、にやにやが止まらない。ひとしきり写真を撮ったあと、フライヤーさんが「奥さんも撮りませんか?」と言う。そういや妻ほったらかしだった。
これが僕たち夫婦とsam gendelという3人での写真になってしまう。こんなことが起こっていいんだろうか?と僕は世のgendelファンの皆さんに申し訳なく思ってしまう。妻なんてgendel好きでもなんでもないのにね。
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結局僕は浮かれてしまって彼とろくに話もできず、かろうじて握手をしてもらう。せめて演奏の感想くらいはきちんと伝えておきたかったな(あとサインももらっておけばよかった…)。
しばらくは興奮冷めやらずで、コインパーキングへの道すがら、「まじか!いやまじか!」ばかり繰り返し言っていた。我ながらあほみたいだ。妻は笑っていた。
彼はとても物静かだった。心ここにあらずという感じで、僕たちの言われるがままに写真を撮られていた。おっさんたちがはしゃぐのに付き合わせてなんか申し訳なかったな…
途中退場しちゃったのはもちろん本意じゃないけど、実際楽しめないだろうなあと感じたし、その感覚に従うのもアリだろう。こういう幸運につながっていくこともあるんだろうし。
食事をということで、metroの近くにある町中華のマルシン飯店に行く。ここは天津飯が有名で、いつも行列ができている。でも今日は日曜の夜ということもあるせいか、そんなに並んでいなかった。念願の天津飯と餃子を堪能した。天津飯は卵雑炊みたいだった。胃に優しそう。妻は、もっと酸っぱくないと、と言いながら酢を足していた。
家に帰ってからも写真を見返してはにやにやしていた。誰かに自慢したくて2人の友達に写真を送ったけど「誰?」と返事が返ってきた。まあ彼らがsam gendelを聴いてないのは知ってたけど、誰かに伝えたいという衝動を止められなかった。子供だ。
sam gendelはこのアルバムを初めて聴いて、「なんだこの不思議な音のサックスは?」と衝撃を受けた記憶がある。一発で好きになった。
あと、これも好き。
このあたりからちょっと音が変わってきた感じ。このアルバムはyoutubeでも見た。スバルの車に乗ってこのジャケットの場所に行き、フィールドレコーディングみたいなことをしていた。
たぶん2022年ころから作品をばんばん出すようになり、このペースだとさすがにきちんと聴き込むことができないなあと思っていた。でも創作意欲があることはとてもいいことだし、これからもどんどん作品をつくってほしい。疲れない範囲で。