詩【忘れ音/今朝のまどろみ】
今朝のまどろみ
ピアノで曲を書いていた気がするけど
もう忘れてしまったよ
鍵盤の中央の方
白と黒
ビルエバンスのような
丸まった背と指の記憶さえ
重なる音の隙間を縫うための
アイディアも無いし
離れゆくその時々のメロディだって
遠く消え去るのなら
覚めないうち
縁取る音に書き出した今日と明日までもが
もう2度と吹かない風に
さらされるうちが幸せだと
冴えない口ごもりがちな日々を
さいた詩まで溶けていくよ
そのままでいただけの
道の影
咲きかけた花を思わせて
箸にも棒にもかからんことばかり
歯牙にかけたがるような世界
針のむしろだって今も
多分
階段の中央の方
上と下
続いてきたデカダンス
まるで延々を見て取れる修道士
まだ
重なる音の隙間を縫うための
アイディアも無いし
離れゆくその時々のメロディだって
遠く消え去るのなら
枯れない花などないから
儚くも咲いた音を撫でるよ
耳を澄ませば澄ますほど
うつくしげに落ちていく花びら
待てない朝
張り裂けかけた邂逅に
思い思いのこと
朽ちた後に咲く微笑みの在処
忘れられた音
さようなら
語りかける声
果たされる何か
見知らぬ音を呟いて
今朝のまどろみ
ピアノで曲を書いていた気がするけど
もう忘れてしまったよ
鍵盤の中央の方
白と黒
ビルエバンスのような
丸まった背と指の記憶さえ