AI×SaaSのマストハブを作る、前人未到の挑戦。45億円の調達を達成したストックマークのその先。
デスクワーカーは、日々の65%を情報収集と資料作成に費やしている
━━シリーズDで、45億円の資金調達。CEOとともにストックマークを立ち上げてから8年、有馬さんは今のストックマークはどのようなステージにあるとお考えですか?
シリーズCまでの経営とは何もかも変化したのを実感しています。「いかにして会社を生き残らせるか」と考えていたのが、ここに来てようやく「サービスの最高到達点をどのように高めるか」というステージでの勝負に変わってきました。
現在ストックマークではAI SaaSプラットフォームの「Anews」、新規事業のSAT、基盤となるLLMの開発など多岐にわたって事業を展開し、技術に投資しています。今までは目の前のお客様を満足させるためのプロダクト展開でしたが、ここからは社会に対して自社のプロダクトがどのようなインパクトを与えたいのかについても真剣に向き合っていきます。自社で出来ることには当然限界があるので、Big Tech(世界規模で大きな影響力を持っているIT企業)や政府とも協力して大きなものを作っていくフェーズとして、アクセルを踏む時が来ました。今回の資金調達は、そのための大きな足掛かりです。
━━ストックマークは、テクノロジーを使って世界にどのような変革をもたらしたいと考えているのでしょうか。
ホワイトカラーは、1日のおよそ65%を資料作成や情報収集に費やしていると言われています。統計的にいえば、情報収集だけでも1日1,000億円がそのような仕事に使われているんです。ストックマークのサービスを現在利用しているメインのお客様は、製造業R&Dの研究者や新規事業開発担当者の皆さんです。資料作成や情報収集をAIに任せれば、一人一人が研究や開発といったよりコアな業務に使える時間はもっと増えるはず。そこからビジネスの創造性の幅が広がり、社会がもっと豊かになっていくためのツールを作っていきたいと思っています。
━━その想いに至った原体験があれば教えてください。
起業する前から、情報収集や資料作成にまつわる社会の“不”を認知していました。僕が社会人一年目で任された仕事の一つは、机の上に並べた新聞の中から上司にとって重要な記事を切り抜いてスクラップを作る、という仕事でした。ものすごくアナログな手法なんですが、今でも情報収集の手段として実際に行われています。僕は大学院でずっとAIの勉強をしていたので、「この仕事をAIがやったらもっと早くて正確で生産性も高いのに」と思っていたんです。実際にプロダクトを作り初めてから解決の必要性を再確認しました。
「マストハブ」たるAI SaaSを生み出す
━━「このプロダクトで勝てる」と確信したタイミングはありましたか?
「Anews」が、お客様のマストハブになっていると感じた時です。アプリを公開した初期の頃は、まだまだ精度においても体験においても発展途上なところが多かったのですが、それでも使い続けてくれるお客様が存在しました。芯を食ったニーズを捉えられている、と感じはじめたのはその時です。
システム障害で情報の配信ができなくなった時、お客様の一人からお叱りの電話を受けたことがあります。30分後の経営会議に持っていく情報が得られなくて困っている、という内容でした。その人にとって、「「Anews」がなければ仕事に支障が出るツール」になっているのを深く実感したエピソードです。
━━確かに、ChatGPT含めAIツールのほとんどは「あったら嬉しいけど、なくても困らない」ものが多いですよね。
マストハブのツールを生み出すことは、AI開発者の数十年来の悲願かもしれませんね。絶対に必要で、なくてはならないサービスを生み出したいよね、という話はよく聞きます。ストックマークではそれが出来ていると自負しています。
━━資金調達を経て、今後の開発をどのようにアップデートしていく予定ですか?
まず、「Anews」を社外情報から社内情報までワンストップで届けるプラットフォームにアップデートする予定です。これまでの僕たちのサービスは原則、Webに公開されている情報を収集し、答えを生成するものでした。今後は、お客様の社内に埋もれている資料の収集もできるプラットフォームに進化していきます。エンタープライズのお客様が保有する資料は秘匿性も高く、強固なセキュリティが求められます。社内の情報にアクセスできる堅牢性の高いプラットフォームの開発を進めるためにはさらなる技術投資が必要です。
もう一つは、読解難易度の高いクリエイティブなものや図表なども理解できるようなAIモデルを作っていくことが急務だと思っています。今まではシンプルなテキストだけを解析できるものでしたが、お客様と話していると必要なのはそれだけではないんだな、と痛感します。視覚情報も判断して質問に返してくれるAIを作るというのは非常に大変なことですが、グローバルに見ても最大級で、かつ優秀なものをこれから作っていきます。
━━秘匿性の高いデータにアクセスできるくらい、システムの堅牢性を高めていく、ということでしょうか
セキュリティを高め、信頼性の高いサービスにすることはもちろんですが、AI自体のレベルアップも必要です。秘匿性の高いデータというのは、専門用語が使われていたり、複雑な設計図が書かれていたりと、人間であっても詳しくなければ読み解くことが困難なものも含まれています。今のAIモデルでは出来ない高精度な読解を可能にし、安心してあらゆるデータを学習させられるサービスに成長させていきたいです。
そうして進化した自社のAI知見を、図表を含むあらゆる形式の社内文書を抽出・構造化するプラットフォーム(SAT)として提供する新規事業も推進しています。複雑な図式を含む資料を理解し、データの検索にまつわる問題を解決するAIになっていくはずです。それによって、社内全ての資料に精通しているAIをビジネスの一助として導入し、よりスムーズな資料やデータの検索を実現します。
✔️SATとは?
図表や画像などが多く含まれ、既存のAIサービスで検索ができない社内情報を構造化、解析し、検索できるようにするプラットフォーム
━━SATの開発は受託開発に近いと感じるエンジニアも多いようですが、SaaSが伸びている今、あえてSAT領域も新規事業として広げていく意思決定をした背景はなんですか?
もちろん最初はお客様の要望に合わせてカスタマイズしていく要素もありますが、中期的にはプラットフォームとして展開していきます。また自社のAIにフィードバックを溜め、成長させていくスピードも高めることができると考えています。難しい資料やフローチャートの読み方などを次第にAIが学習していけば、さらに高精度で答えを生成することができるようになってきます。お客様の求める多様なニーズに応える受託開発というよりも、検索プラットフォームとして展開していくための探索的なPoCという側面が強いと考えております。
創業当初から見据えていた、大きな市場への投資
━━ストックマークは創業期からLLM(大規模言語モデル)に投資を続けてきました。その意思決定に至った背景はどのようなものですか?
非常によく聞かれる質問ですが、むしろ「なんでお金をかけるのを躊躇する人が多いんだろう」と思っています。資料作成と情報収集のため、1日1,000億円以上が人件費に割かれているのは先ほどお話しした通りです。1ヶ月20営業日とすれば、2兆円。ものすごく大きな市場です。生成AIの開発にはすごくお金がかかるというイメージがあると思いますが、市場規模2兆円に対して一つの会社が投資するのは例えば数十億円です。月2兆円の市場の中で考えれば、十分に投資する価値があると思ってきました。その考えは今でも変わりません。
✔️LLM(大規模言語モデル)とは?
LLM(Large Language Model)とは、大規模なデータセットを使って訓練された人工知能(AI)モデルののことを指します。LLMは大量のテキストデータを基に、言語を理解し生成する能力を持っています。
━━投資する価値があると思っていたからこそ、ストックマークでは初期からリサーチャー(自然言語処理の研究者)の採用を続けていたのでしょうか。
そうですね。創業した当時は、AIの精度が急激に高まり技術が進化し始めた頃でした。AIを研究してきた技術者として、その時期のブレイクスルーの度合いには目を見張るものがあったんです。社会のフェーズが一つ変わる予感がしていました。一方で、すでに世の中にある技術はまだまだビジネスで扱えるレベルまで進化していないのも事実です。だからこそ、自分たちで作るしかないと考え、リサーチャーの採用とAIの開発には初期から取り組んできました。世の中のニーズに応えるためには、もう一歩進んだ自分たち独自の技術を作る必要があるのです。
━━2024年現在、AIバブルと言えるほどChatGPTや生成AIをベースにしたサービスが多く生まれています。このブームを、有馬さんは予測していましたか?
兆しは15年くらい前にはあったと思いますが、完全に予想できていたかと聞かれるとそうではなかったと思います。今のChatGPTの根本の原理を作った人ですら、ここまでになるとは思っていなかったと話しているくらいです。本音を言えば、このAIのブームを自分たちが作り出したかったな……とは思っています。
ストックマークはChatGPTにいかにして勝つのか
━━「今からAI領域で勝負しても、結局ChatGPTに勝てないのではないか」という問いかけが散見されます。有馬さんが考える、ストックマークの勝ち筋とはどのようなものでしょうか。
一つの汎用的な人工知能が全てを担うのは難しいと思っています。僕たちが現実で直面する問題は、過去の学習だけでは解決できません。予測できないことにぶち当たるのがビジネスでも同様です。ChatGPTはまさに汎用的な人工知能として世界に受け入れられていますが、それだけでできないことをやっていくことに勝ち筋があるのではないかと思っています。
言うなれば、ChatGPTは表計算ツールです。多くの人が使えるツールとしてエクセルが存在していますが、全ての仕事をエクセルで管理するわけではないですよね。営業なら顧客管理ツール、採用なら候補者管理ツール、というように、より便利な特化型サービスに細分化され、それを多くの人が使っているわけです。ストックマークは「ビジネスにおける文章を扱う」ことに圧倒的に長けたAIを作り続けていくことを重要視しています。自社でLLMを開発しているのも、AIを使ったSaaSを作っているのもこの「特化型AIで市場を勝ちきる」という考え方に則ったものです。
━━AIスタートアップでは、今でも受託開発を主な収入源としている企業が多いと思います。そんな中でストックマークがSaaS領域に乗り出した理由を教えてください。
自社のSaaSプロダクトとして、色々な人に使ってもらってフィードバックをもらうことで洗練されていくことを重要視したからです。受託開発をして後の使い方はクライアントに任せてしまう、というより、長い時間をかけてアプリケーションを磨き、それによってより多くの人が使うというサイクルを生み出すためには、やはり自社SaaSとしてサービスを提供するのが最も良いと考え、AI SaaSの「Aseries」を展開することになりました
僕は、ChatGPTがここまで世間に受け入れられた大きな要因が、アプリケーションとしての体験の良さにあると思っています。今でこそChatGPT一強のように考えられていますが、ここまでの盛り上がりを見せる前にすでにChatGPTと同等程度の精度の高いAIモデルは存在していたんです。そんな中ChatGPTが勝ち上がったのは、チャット形式で気軽に話しかけることができるというユーザーにとっての体験が圧倒的に良かったからだと思っています。気軽に使えるからこそ多くの人が触れ、それによってより多くのデータを得てAIが賢くなるという良いサイクルに入ることができたんです。
━━なるほど、ではストックマークのプロダクト開発においても、ユーザー体験は非常に重視されているということでしょうか。
その通りです。良いAIモデルを作ることはもちろん大切ですが、AIモデルが優秀なだけでは絶対に世の中に届きません。ユーザーが触れやすく、わかりやすいこと。そして、AIがユーザーのフィードバックにスピード感を持って対応できること。そういったユーザー体験の積み重ねを大切にしていますし、ユーザー体験重視したSaaSのプロダクト開発ができるエンジニアを採用し続けてきました。
人類がまだ知らない、次世代の体験を本気で作る
━━やはりAIのスペシャリストでなければ、ストックマークで共に人類未到の領域にチャレンジするのは難しいでしょうか。
巨大最先端AIモデルを実用レベルに持っていくために、リサーチャーもプロダクトエンジニアも採用して参ります。AIのモデルを構築できるリサーチャーと同じぐらい、ユーザー体験に拘れるプロダクトエンジニアが重要です。SaaSは我々の売上の主となるサービスです。先ほどもお話しした通り、AIモデルが優秀なだけでは人々に使ってもらえるマストハブなサービスにはなり得ません。AIを使ったサービスが「使いやすい」という体験を通してはじめて、愛され使われるサービスに成長していきます。だからこそ、今後も顧客体験にこだわった開発ができるエンジニアを求めています。AIの領域に限らず、まだ人類が経験していない新たな体験を作るというところを重視していきます。また社内情報も検索できるプラットフォームにしていくため、堅牢性の高いシステム開発ができるエンジニアも重要なポジションとして採用していきたいと考えています。
━━AIモデル強化のため、リサーチャーの採用も強化していくのでしょうか。
もちろんです。ここからは、図表を含む複雑なドキュメントを人間レベルで理解できるAIを作っていくことになります。それが今後のストックマークのコアになっていきます。人間レベルでドキュメントを解析できるAIは、まだこの世に誕生していません。前人未到の領域に挑む上で、リサーチャーの存在は欠かせないのです。
━━誰も作ったことのないサービスを作る、というのは苦難の連続になると思いますが、共通してどのような人が今後のストックマークに必要ですか?
未到の挑戦をする以上、失敗も多く重なります。それでも、それを面白いと思って続けられる人にとっては最高の環境になると思います。市場は大きく、まだ解決できていない課題は山のようにあります。だからこそ、できることはたくさんあります。誰も見たことのない新たな挑戦をすることは、何物にも替え難い経験になるのではないでしょうか。そういった高い志を持った人材に来て欲しいと思っています。
有馬さん、ありがとうございました!
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