真っ先にキャベツを食べる私は、好物を最後までとっておく一人っ子である。

「キャベツからいくんや、珍しいね」

客人が家に来て、一緒にお昼ご飯を食べていた時、私にこう言った。

その日のメニューはコロッケだった。
コロッケが2つ盛られた皿には、それを押し返すほどキャベツの千切りが乗っかっている。

「珍しいですか?」
「うーん。普通メインからいかない?」

周りを見ると、客人も母もコロッケから食べている。
母はそんな私たちの会話を聞いて、にまっと笑った。

あ、来る。
母がこの笑い方をするときは、あの一言が出るのだ。

「この子は一人っ子やから、好物は最後にとってのんびり食べるねん」

ほら出た。
私は心の中でため息をついた。

「お前は一人っ子やからワガママなんや」
「一人っ子は贅沢させてもらえていいよな」
他人から「一人っ子」と言われることにあまりいい思い出がない。

母の言う「一人っ子」に悪意はないのだろう。
でも少し、むっとする。
母が三人兄弟の真ん中ではなく、一人っ子として発言していたら、違う印象を受けるのかもしれないけれど。

そんなわけで私は、母の「一人っ子」論を覆すために口を開いた。

「違う違う。食べる順番、野菜からのほうがいいって聞くやん」
「あぁ、なるほど。その年から健康意識しててえらいなぁ」

感心する客人の横で、私はとっさに出た建前に困惑していた。

「どうせ同じものを食べるのに、順番を変えるだけで良いことがあるなら」と、確かに意識はしている。
しかしキャベツを先に食べることにはもっと重要な意味がある。


私はソース類があまり得意ではない。
たこ焼きやお好み焼きなどの「粉もん」、それからポテサラは例外だ。
主に苦手なのは、揚げ物にかけるタルタルソースとか、サラダにかけるソースとか。

よって、私はソースをかけずにキャベツの千切りを食べる。
当然味がしない。自業自得だ。
特に味が濃いものを食べたあとでキャベツに移ると、ただ食感を楽しむ時間が始まってしまう。
さらに千切りは大盛なので、その時間がかなり長い。
だから後に待つコロッケやカキフライ、とんかつをモチベーションにして、真っ先にキャベツをかきこむことにした。

早く完食したいと焦りながら食べるキャベツと、大好物の揚げ物を楽しみにしながら食べるキャベツでは味が全然違う、ような気になる。

こんなにもしっかりとした事情があるのに、私は別の理由を挙げてしまったのだ。
慌てて本来の理由も付け足し、その話題は何事もなく終わった。


今回のことで一つ、知ったことがある。
意図はなくても、結果としてお荷物のように扱っているキャベツの千切り。
どうやら私は自分の知らないところで、キャベツへ罪悪感を抱いていたようだ。

これからも揚げ物が食卓に出たら、同じお皿にはキャベツの千切りがデンと乗せられているだろう。
そのときは真っ先に箸を伸ばしながら、「油っこいものとのバランスをとってくれてありがとう」と心の中で感謝して口に運ぼうと思う。


書いている途中に気が付いた。
キャベツを楽しく食べる対策とはいえ、結局好物を最後に残している以上、母の「一人っ子」論は成立しているのだ。
しかし彼女がそれを理解するまでは、「食べ順信者」でなんとか押し通すつもりだ。

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