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AKI

妹からマスクが届く。

彼女の手作りの、あたしと旦那がそれぞれ好きそうな布を使って。


彼女は一見すごくワイルドで、たくましい。

だけど実は料理がすごい上手で、ワイルドの中は細かい気配りにあふれてて、

手作りの服も、DIYも、子どもたちを楽しませる作戦もたくさんやる。

だから、心をくれる人のことをすごく大事にする。


うちの父親がガンになり、

その後脳梗塞を併発して倒れて、体半分動かなくなったときも、

ヒステリック起こして手をあげて怒ってた父を真正面で受け止め、

スパルタでリハビリをした。

力持ちとワイルドをあわせもった彼女はリハビリにはピッタリで、

父親も「厳しいんだ〜」とあたしにこぼすけれど、

どこか嬉しそうだった。


その後彼女はあたしに、

「誰よりもお父さんが生きるのを諦めてなかったし、

 お父さんにも諦めてほしくなんか絶対なかったから」と泣いた。


彼女は父が亡くなったあとしばらく、

上手に笑うことも、父親のために手を合わせることもできなくなった。


その後、息子が生まれた。

息子の世話で忙しいときに、大好きなおばあちゃんが今度はガンになる。


父親が病気になったときにあたしは東京で一人暮らしをしていて、

毎週末実家に帰っていても、力になりきれなかった後悔があった。

その後悔が、

東京から実家に戻るという道を選ばせてくれた。

そして、おばあちゃんの病気のときには実家に戻って生活することができていた。

検査の前の病院も、余命宣告も、延命治療の可否も、

おばあちゃんの下の世話まで全部受け止めることができた。


代わりに妹は東京にいた。


今度はあたしが支えると、おばあちゃんと一緒に戦った毎日。

今夜が山場という夜。

病院に泊まり込むあたしのために、彼女は

「今自分にできるのは病院でおばあちゃんのそばで戦うまりを支えること。」と、

こぶしくらいある特大肉巻きおにぎりを3個も手作りして持たせてくれた。


おばあちゃんが旅立った少しあと、

今度は大事な彼女の息子が川崎病にかかった。

おばあちゃんが亡くなってほんの少しのときだから、

病院に泊まり込んで息子の看病する彼女がどれだけ不安か、

ただでさえお父さんを思い出して辛い病院で、

おばあちゃんもいなくなってしまった病院。

そこで今度は

彼女をいつも笑顔にしてくれる大事な息子が病気で苦しんでる。

不安を表に出して甘えるのがすごい下手な彼女をすごく心配して、

家族全員で必死に代わり代わりに支えた。


そのとき、東京にいた彼女の旦那は、

大事な妻と息子の頑張る姿を新幹線に乗り、病室に一泊して見届けて、

翌朝東京に戻った瞬間に妹に電話をし、

「別れよう」と告げた。

その話を聞いて以降、あたしは彼とはもう家族になれないと思った。

それからいろいろあり、彼女は離婚した。


そこから彼女は新しい旦那と出会い、

母親も一緒に東京に引っ越した。


そして、新しい旦那との間に2人目の息子が生まれる。

彼は、18トリソミーという病気を持っていた。

余命1年を宣告され、

染色体異常だという病気の原因が自分だったかもしれないと、

彼女は出産の報告とともにあたしに泣きながら電話をくれた。

あたしたちの心配をよそに、

むしろあたしたちの心配よりもはるか大きな優しさで、

彼は今もすくすくと育ち、

本当に優しくて、強い子になった。


そして、3人目を妊娠。

安定期に入ったときに、

ずっと気になっていたベロの下側にある口内炎みたいなのが気になり、検査を。


舌癌だった。


ステージ1だったけれど、安定期に入ってすぐの妊婦が舌癌は、

全国でも症例が少なくて、彼女にはたくさんの主治医がついた。


その報告を受けたあと、

あたしもバランスが取れなくなるくらいに、落ち込んでしまった。

父も、祖父も、祖母も、

みんなを奪っていったガンが、

こんなに頑張り続けてきた彼女を襲うなんて。

神様なんて本当にいないとさえ思った。


彼女の手術は無事に成功した。

彼女の旦那は病院と仕事と家の往復を頑張った。

まだ手術から数日しか経っていないときに、

彼女とともにいろいろなことを乗り越えて、

ずっと彼女のそばで笑ってくれてた一人目の息子の

幼稚園最後の運動会があった。

彼女は先生たちに泣きながら懇願した。

「息子の最後の幼稚園だけはどうしても見たい。

 たくさん練習して頑張ってるの知ってるから、

 どうしてもお弁当を作ってあげたい」と。

運動会の前夜に病院から家に直帰し、

運動会に出てそのまま病院に行くスケジュールで、

病院側はなんとか許可を出してくれた。

妹のために、あたしも泊まり込んで早起きしてお弁当を作る。

上手にまだ話せない彼女は、

つらそうな顔ひとつせずに、いつもどおりにお弁当を作った。

あたしの友達も来てくれて、

みんなで撮影や場所取り、お迎えなど力を合わせた運動会。

リレーはびりだったけれど、

息子は本当に一生懸命走ってた。

その姿にいろいろな想いがあふれて、涙が止まらなかった。

走り終わった彼を、

妹は優しく笑って抱きしめた。


3人目は娘だった。

舌癌を彼女のお腹の中で一緒に乗り越えた彼女は、

それはそれは気が強いやんちゃ娘になっている。

娘が生まれた瞬間、

妹は健康で本当に良かったと大泣きしたそうだ。

怖かっただろうな。


彼女はやさしい。

そして、強い。

でも、弱い。


周りからは強いと言われてきて、

その代わりに弱さを上手に出すことができなくなってしまった。

あたしはその真逆で、

周りからは弱そうに頼りなそうに見えがちで。

でも彼女はあたしに言った。

「なにか悲しいことがあったときに、本当に強いのはまりだよね。

 あきはだめだ。」と、


彼女はいつも一生懸命だ。

すごくワイルドで、たくましい。

奥底にある苦労と頑張りが、

彼女の優しさごと、強くしているように見えた。


あたしは、妹である彼女を

尊敬している。

どうか、彼女がこれからも幸せでありますように。

彼女の大事な家族たちが、

これからも健康でありますように。


どうか、長生きしてね。



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