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屑の惑星【小説】


※注意※
この小説には、過激な描写が含まれます。苦手な方はお控えください。





むかし、むかし、小さい女の子がありました。この子には、おとうさんもおかあさんもありませんでした。たいへんびんぼうでしたから、しまいには、もう住むにもへやはないし、もうねるにも寝床ねどこがないようになって、とうとうおしまいには、からだにつけたもののほかは、手にもったパンひとかけきりで、それもなさけぶかい人がめぐんでくれたものでした。

 でも、この子は、心のすなおな、信心のあつい子でありました。それでも、こんなにして世の中からまるで見すてられてしまっているので、この子は、やさしい神さまのお力にだけすがって、ひとりぼっち、野原の上をあるいて行きました。すると、そこへ、びんぼうらしい男が出て来て、
「ねえ、なにかたべるものをおくれ。おなかがすいてたまらないよ。」と、いいました。女の子は、もっていたパンひとかけのこらず、その男にやってしまいました。そして、「どうぞ神さまのおめぐみのありますように。」と、いのってやって、またあるきだしました。

すると、こんどは、こどもがひとり泣きながらやって来て、
「あたい、あたまがさむくて、こおりそうなの。なにかかぶるものちょうだい。」と、いいました。そこで、女の子は、かぶっていたずきんをぬいで、子どもにやりました。それから、女の子がまたすこし行くと、こんど出て来たこどもは、着物一枚着ずにふるえていました。そこで、じぶんの上着うわぎをぬいで着せてやりました。それからまたすこし行くと、こんど出てきたこどもは、スカートがほしいというので、女の子はそれもぬいで、やりました。



 そのうち、女の子はある森にたどり着つきました。気付けば、なけなしのパンも与え、身に着けているものは下着のみでした。そこに、木の陰からなにやらこちらをうかがう影がありました。女の子が目をやると、きれいな身なりをした男が、丁重にお辞儀をして、いいました。
「なんと気高い女の子よ。自分の身を犠牲にしてまであなたは人を助けた。あなたは人の上に立つ存在だ。どうか怖がらず、私が温かい服と温かいスープを与えよう。」
 女の子は、素直でした。女の子は言われるがまま男性についていき、小綺麗な小屋に入ると、そのまま犯されてしまいました。
「君はやはり素晴らしい。私の目に狂いはなかった。疲れただろう、存分に休みなさい。」男はそういってにっこり笑うと、女の子に温かいスープとパン、ふかふかの寝床を用意しました。
 女の子は、「なんて幸運なんだろう。かみさまがいるというのは本当のことだったんだわ。さっきのことは少しびっくりしたけど、やさしくしてくれたし、何より前のような生活よりはまし。所詮私なんて、たいがい貧乏な娘でしかないもの」と、思いました。



 女の子と男の奇妙な共同生活は、2か月ほど続きました。男は温かい食事と寝床を与え、かわりに毎晩のようにからだを求めました。
 ある日のこと、男と女の子は街に出ました。暗がりの路地にある店の前で立ち止まると、男は、「君に会えてよかった。この2か月間、君と一緒にいることができてとても幸せだった。だが、私ができることはここまでだ。あとは、ここの人が良くしてくれる。君なら大丈夫だから、しっかりがんばりなさい。」といって、帰って行ってしまいました。残された女の子は、おいて行かれた悲しさ、驚きもありましたが、なによりかけられた言葉に感動して、涙をこらえることが出来ませんでした。なにしろそんなことをいわれたことはなかったのですから。

 それから2年がたち、女の子はあの売春宿にいました。素直だった女の子も、自分が男にだまされたのだとようやく気付きました。ですが、男のことを憎むことはできませんでした。それは、あの男がかけてくれた言葉を信じていたいといういまだ残る”素直さ”の最後の一片のせいだったのですが、彼女はそこに”素直であった自分”という偶像にしがみつく自分のみにくい姿を見つけ、わが身に鞭打つようにはげしく腰を振りました。

この物語は『星の銀貨(グリム兄弟)』(楠山正雄訳. 青空文庫)に着想を得てつくられたフィクションです。

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