カステラ
小学1年の時、学校から帰宅して母が家に居ることはほとんどなく母はいつもどこに居るのかわからなかった。
お父ちゃんと呼ぶ人と一緒に暮らし始めても
母の夜の仕事は変わらず…
一日のうち母が家に居るより、居ない時間の
方が多かった記憶しかない。
ある時、学校から帰宅すると珍しく母が居た。
母は、炬燵に入りテレビを観ていた。
私も母の傍にいき一緒に炬燵に入り…
何の会話もなく沈黙の時間が流れる中
母は戸棚からカステラを出し、それを
半分に分けて私にくれた。
黙ってそれを食べる私。
あの時、私は緊張していたと思う。
普通の母娘ならどんな会話をするのか、
私は「普通」が何か知らなかった。
長い長い沈黙。
だけど今、振り返ると母と私の
あの2人だけの静かな流れる時間が
好きだったから今でも忘れられず
思い出してしまうのかな…と思う。
一言も会話がなかったのに…。