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明けの明星
直人は普通の中学生だ。
特に目立つこともなく、友達も少なかった。
ある日、彼は図書館の隅で古びた本を見つけた。
いかにもな雰囲気を放つ本は直人には光を放っているように見えた。
直人は恐る恐る本を開くと、
そこから小さな人が現れた。
彼は微笑みながら言った。
「こんにちは、僕は妖精、ルーシーだよ。
君のすべてを肯定するために来たんだ。」
直人は驚いたが、彼と話すうちにどこか心地よさを感じ始めた。誰かが自分を無条件に肯定してくれるなんて、今までにない経験だった。
それからの生活は一変した。
ルーシーは直人のすべての行動や考えを肯定してくれた。
宿題をサボっても
「宿題なんて面倒だし、やらないのも一つの選択さ。」と微笑む。
友達との関係がうまくいかなくても
「君は悪くないよ、相手がまだ幼稚なだけなんだよ。」と慰める。
直人は次第に自信を持つようになり、
日常生活が楽しく感じられるようになった。
ルーシーとの会話は、直人にとっての癒しであり、
彼の日々を支えていた。
ある日、友達の健太と些細なことで喧嘩をしてしまった。
健太が無神経なことを言ったことに腹を立てた直人は、心の中で「こんな奴、いなくなればいいのに」と思ってしまった。
「その通りだよ直人。君の感情は間違っていない。
彼に傷つけられたんだから彼を傷つけても、それは君の正当な行動なんだ。君が持っている権利なんだよ。」
ルーシーはいつもと同じ、屈託の無い微笑みでそう言った。
直人はその言葉に勇気づけられ、
健太に対して暴力を振るってしまった。
今まで募らせていた小さな怒りを一つ一つ、
自分の拳に込め一発、二発。
蓄積された怒りが拳を振るうごとに目減りしていくのを感じた。
健太は驚きと恐怖で泣き出し、周囲の友達も直人から離れていった。
直後、直人は自分の行動を後悔し始めた。
健太を傷つけたこと、友達を失ったこと、すべてが彼を苦しめた。
夜も眠れず、学校に行くのも怖くなった。
心の中に罪悪感が渦巻き、彼を追い詰めた。
「大丈夫だよ、直人。君は間違っていない。君の感じる罪悪感も正当なんだよ。君が彼を痛めつけたのも泣いている顔に拳を振るったのも何も間違っていないよ。」
ルーシーは相変わらず直人を肯定していた。
その肯定が直人をさらに追い詰めた。
何をしても肯定されることが、彼の心を蝕んでいった。
直人は次第に自分の存在を否定し始めた。
自分がいることで誰かを傷つけてしまう。
自分の感情や行動が正当化されることが、もう耐えられなかった。
「僕がいなくなれば、すべてが解決するんだ。」
直人はそう思い始めた。そして、その考えをルーシーに伝えた。
「君の選択は正しいよ、直人。確かに君がいなくなればお母さんも友達も喜ぶだろう。いつだって君は正しいね。君がそう考えるならそれが絶対に正解だよ。」
ルーシーの微笑みは変わらなかった。
AM 5:13
直人は最期の決断をした。
彼は静かに、自室で麻縄に首を括り、そのまま息を引き取った。
彼は最期までいつもと変わらず微笑みをたたえていた。
直人の死は、彼の周囲に衝撃を与えた。
彼の友達は助けられなかったことを後悔し、
彼の両親は息子の死を大いに悲しんだ。
彼の行動の裏に何があったのか、誰も知ることはなかった。
ただ一人、ルーシーだけが、全てを見守っていた。
全肯定の果てに何があるのか、直人は知ることができなかった。
しかし、その選択もまた、直人の選択だ。
彼の行動を全て肯定するよ。
ルーシーは表情ひとつ動かさず、大地に静かに沈んでいった。
もうすぐ日が昇る。