すべてがここにはないから
できるだけ誤解を避けて生きていたい。
が故に言葉数が増える。
心の中の言葉を、できるだけ具体的に誤解を与えないように話そうとするものだから、修飾に修飾を重ね、ダラダラ早口に何かを言っている。
相手の意思を汲み取ろうとする時も同様である。
前方から肌の露出が多い服を着た人が歩いてきたら、間違っても見てると思われたくないから目を瞑る。
歩行に十分な視覚情報を得られないため、一瞬緊張する。
自分が人よりも少し身体が大きくて、自分が思っている以上に真顔が怖くて、一人で歩くときは常にキョロキョロしていて、はたから見れば落ち着きがなくて、且つ"男"であるアタシはもっと人に向ける視線と、人から向けられる視線に気を配らなければならない。
やらなければいけないことがある時、その憂鬱さと取り返しのつかなさから目を背けたくて、何も気にしなくて済むように毛布に顔を埋めて目を瞑る。
耳を塞いで出鱈目な声を出して、やがて出なくなって、不恰好に泣く。
世界が世界たる情報を完全に遮断したとき、そこに出来上がったアタシだけの暗闇に怖さを覚えた。一度ゼロを感じたとき、アタシの周りには暖かな風が流れていて、決して一人ではないことを思い出すことができた。
できるだけ自分だけの世界を大切にしたい。
無理やり世界から自分だけを引き剥がすように、静寂を編み出すために、
アタシはイヤホンを耳に差し込み音楽を流す。
喧騒をかき消すために音楽を流すって、不思議で、当たり前で、ずっとそばにいて、素敵。
リーガルリリーも銀杏BOYZも久石譲も、アタシの世界でアタシのことを抱きしめてくれてる。
清らかな流れの中で一人、自動改札機に跳ね返された。
その甲高い不快なエラー音があたしの頬を赤らめた。
ついでに衣服の下のそこかしこから嫌な汗が噴き出す。
右手に握ったスマホに残金が足りなかった、ただそれだけのことなのに
みんなとは何かが違くて、お金じゃない何かがが足りてないのだと勘違いしてしまう。まあ少なくともその自覚がある。
どうせならそのままあたしを遠くへ弾き飛ばして欲しかった。
大学生、もとい大人になるにつれて分かってきた。
自分のことは自分で褒めてやらねばならない。
誰かがとやかく叱ったり、その都度指摘してくる煩わしさがない代わりに、努力を見ていてくれたり褒めたりしてくれることもない。
「自立」するってこういうことなのだなと。一人でなんでもできるようにならなければいかんな。
時間はあるのにお金はない。
お金は欲しいのに。ほしいのに。
高校時代はかなりお金を浪費できる生活をしていた。
一週間で学校に行くのは1回だけ。バイトに行って、仲のいい社員さんとお喋りしながら、ただお金を稼いでいる実感を得ることがモチベ―ションだった。
大学に通うようになってからも新しいバイト先で少しずつやってる。
上司のあたりがかなり強いことを除けば、やりがいもあっていい仕事だ。
どうにもやる気というか活力が出てこないのはなんでだろうな。
歌も歌っていない。
前は作詞然り、このnote然り、思ったことをすぐにメモして忘れないようにしていたけど、どうも忙しくて、それを怠っているわけではないが、前みたいにできなくなってしまった。
生活が変わりすぎて、自分が好きなものを見失っている気がする。
それは決して嫌いになったわけではなくて。
好きなことをする体力が今は無くなりつつある。
ほんとに体力付けないと、気力から死んでしまいそうだ。
今は、前に作った曲を歌い続けて、アタシは楽しいことをしていたんだということを忘れないようにしていかなければ。
すっかり夏。日は長く、こうしてゆっくりバス停にいても夕日は家に帰るまで燃えている。
眠くて眠くて、ふと気が付けば最寄りのバス停に着くところ。
目の前で降車ドアが開くとひんやりとした風と、夜の虫の声が吹き込んできた。
季節はもうすっかり夏みたいだ。
家まで歩く。たった五分ほどの間に、いつもと変わらない空を重い瞼を広げて見上げている。
ふと追い風が吹いた気がして、アタシは後ろを振り返る。
どこかであなたの声が聞こえた気がした。
気のせいでも十分だった。
元気してるかな。困ってることないかな。笑っているかな。
アタシが言わなくたって、あなたは自分で幸せになろうとするだろう。
でもアタシはやっぱりあなたなしではダメみたい。
今いいことしてるんだ。
いいのができそうなんだ。
できたらまた、みんなのこと想って頑張ってみるよ。
そんなときが一番幸せなんだ。