見出し画像

止まない雨はなく

何を見ているのだろう。
誰と一緒にいるのだろう。いや独りなのか。
どうして泣いているのだろうか。悲しいから。寂しいから。悔しいから。許せないから。怖いから。
無事に向こう側に行けるだろうか。そこには何もないのだろうか。
もし遠い空の向こうにあるオレンジ色が海の向こうに沈んだまま上ってこなかったら。
もし誰かに励まされてもう少しだけ学校に行っていたら。
もしあと数秒走り出すのが遅くて、軽自動車と衝突することがなかったら。もし引きこもったまま誰にも出会うことなかったら。
もし明日がやってこなかったら。

年齢を重ねるに連れて死ぬ能力を身につけてしまった。
幸せになる術。幸せと不幸せを天秤にかける。不幸せがどこまでも追いかけてくる。逃げても逃げても、どこまでも。
もし不幸せが絶対に消えることがないのなら。
例えばアタシはどこか遠くにでも行ってしまおう。
こんな大人になりたくなかったのに。

誰かがどこかで「生きたい」と叫んでいることを知ったとしてもアタシは「死にたい」と思い続けたし、実行を思い止まったまま今日まで生きてきた。
アタシは生きたいから生きているのではなく、なにか小さな幸せなことが心地よくて、死んでしまったらと考えてしまうが故にあるかないかもわからない何かに縋り付いている。
死にたくないから生きている、なんてもっての外である。
離したくないのではなく、突き放されるのが怖いだけ。
さもなくば無意識のうちに生死を超えた感情に身を任せて、素直にどなたかの愛情に心を開くのだ。


こんな綺麗な空はアタシの冬にはあまりにも似つかわしくない。
どうしたんだろうこんなに晴れ渡って。
めんどくさいとか寒いとか眠いとか常に抱きかかえている感情をそのままコートの中にあたためて歩き出した。
できるだけ誰も通らない、広くて小さな道を見つけて風を感じながら進む。土の匂い、川のせせらぎ、遠くの道路に車が行き来する音、白い太陽、雪を被った山々。
空にかかった黒い電線はさながらそちらへ続く線路だね。
誰とすれ違うこともなく、ただコンクリートを蹴る音だけが次を踏み出す勇気をくれるみたいだ。

孤独を紛らわし、求め、好き、そして忘れた。
アタシは去年も生きていた。その前も、そのまえも。
そこに生きていたアタシがふとこっちに振りかえってニコっと手を振って見せた気がした。そんなイメージ。行かないで。もう少しだけ近くにいたいから。アタシはまだあたたかいよ。風も花も分かるんだ。

あまりにも自由で柔らかかった記憶が蘇り、息を吹き返したみたい。頭や胸がドキドキして何かを思いつこうとしていた。忘れないように書き留めた。なにか忘れてはいけない大きなパーツになる気がした。生まれ変わって出ておいで。とびっきり綺麗な言葉にして世界にもう一度解き放つんだ。

また会おうね。きっと会えるね。

いいなと思ったら応援しよう!