フレッドペリーよ、大旗を振って

フレッドペリーは泣いていた。フレッドペリーはファッションブランドではなく、彼のニックネームである。ポロシャツばっかり着ているから、女性陣からあだなをつけられたのだ。前髪まっすぐのフレッドペリー。彼はそうやって女性陣にからかわれたけど、性格が優しくて女性的なので、ぜんぜん怒ったりはしなかった。

ところで、彼が泣いているのは、もちろんニックネームがひどいからじゃない。

彼はたった今、失恋したのだ。一世一代(本人いわく)の恋に破れ、ビルの屋上でえっぐえっぐと泣いていたのを私が見つけた。優しくて女性的な彼の恋の相手は、もちろん背の高い、会社の同僚の男だった。最初はみているだけで良かったらしいが、日に日に思いは募っていき(思いが重いわけですね)、彼はお昼休みに男を呼び出し、ついぞ気持ちを打ち明けた。

答えは「No」。恋をする相手にはならないと言われた彼は、「ですよね、えへへ」なんて言ってみたものの。あっというまに涙が止まらなくなり、どうやら屋上へ逃げてきたらしかった。

随分と詳しいじゃないかって?

それは、私がその告白の相手だったからだ。

残念ながら、私はフレッドペリーのことを、恋愛の相手とは思えないのだ。彼は気持ちは優しいし、特別変なところもないし、趣味の音楽のことも聞いていて面白い。友達としてならとても好意があるのだけれど、恋愛対象にはならなかった。

男を振るのは初めてだったが、どちらにせよ、あんまり気持ちのいいもんじゃない。

フレッドペリーになんて言おうか。彼を見つけた私だが、いったいどうしたらいいものか、困ってしまった。変に気遣うのも失礼ではあるし、かといって放っておけば落ち込んで会社も辞めてしまいそうだ(なんてったって告白相手に"一世一代"と言い放ったくらいだから)。

自意識過剰なのは置いておいて、やっぱり彼に一声かけることにした。失恋した男心は、男にならわかるのだ!泣くなら泣け、失恋相手だろうが、俺はあいつの友達だ!

フレッドペリー!!!

フレッドペリーは泣くのもやめて、目を丸くしてこっちを見た。私はもう一度腹に息を吸い込んで、ネクタイをゆるめてから、声をあげた。「フレッドペリー、大旗をふれー!おまえの覚悟は素晴らしかったっ!!

フレッドペリーはきょとんとした後、涙を止めて笑い出した。私はなんとか安堵の息を吐き出して、笑顔で彼と屋上で話した。

end.

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