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母になった友に贈る絵本が見つからない
母になっている姿に泣きそうになった
数ヶ月前に臨月の友だちに会いに行った。
『赤ちゃんが産まれたら、ふたりでゆっくりお茶したりは、しばらくできないよね』
ということで新幹線で日帰りで会いに行った。
赤ちゃんが産まれたら、彼女はどんな風に過ごすようになるのか、私の知らない生活が待っている。
もしかしたら、いや、もう妊娠している今も、すでに知らない生活を送っているのだなと思うと、気持ちがふわっとして会うのに少し緊張した。
久しぶりに会えた彼女は、ゆったりとしたワンピースを着て、いつも背負っていたリュックで現れた。
正面から向き合うとあまり変わっていないようにも見えたし、横から大きなお腹をなでているところを見ると全然違っているようにも見えた。彼女の優しい声とゆったりとした話し方は変わっていなくて、ホッとした。カフェに入ったときに、自分の母親ぐらいの年齢に見える店員さんが彼女の腰を労ってそっとクッションを渡してくれたのが知らない世界を覗いたようで、その日私はこれまで通りといつもと違うという気持ちを行き来することになった。
レストランで正面に座った彼女から、スマートフォンに保存したエコー写真を見せてもらった。
「このときは、まだ小さかったな」
「だんだん、手足がはっきりしてきて」
「大きくなったから、もうお顔しか見えなくて」
LINEのアルバムをめくりながら、これまでのエコー写真を愛おしそうに見つめて、少しずつ確かに大きくなった日々を振り返る姿を見て、胸が詰まって泣きそうになったので自分で驚いてしまった。
エコー写真をじっくり見るのは初めてだった。赤ちゃんの写っている白と黒の写真が、なんだか地層のように見えてしまって「分かりづらいのだけど、ここが目で、このあたりが鼻で」と丁寧に教えてもらっても、最後まで赤ちゃんをはっきり認識することができなくて申し訳なかった。だからこそ、彼女がこれまで何度も同じエコー写真を見返して、少しずつ大きくなっていることに安心して、会える日を楽しみにして、赤ちゃんを想って過ごしてきたことが伝わってきて、大切な友だちが母になっているところに直面して、感動したのだと思う。
彼女が結婚したときも、幸せそうな姿をみてとても嬉しかったのだけれど、私の生活の延長線上のどこかにいるような、少し先にいるような感じで、妊娠中の「母になっている」彼女は別世界にいるような感じがした。赤ちゃんが産まれたら変わるのではなく、やっぱりもう変わっていた。
その日は私のほうがそわそわドキドキしてしまって
「暑くないか、寒くないか」
「飲み物が欲しいか、お腹すいたか、苦しくないか」
何度も何度も彼女に確認をして、道行く人が彼女にぶつからないように敵からガードするかのように寄り添って歩き、何度も訪れたことのある駅にもどこにでも危険が潜んでいて気が気でなかった。そんな私を見たからか、彼女からカラオケの個室でゆっくり過ごさないかと提案してくれた。個室で冷暖房が調整できて、ドリンクを部屋に届けてもらえて、同じ階にトイレもあるので、妊婦さんと過ごすのに安心した。
新幹線の改札まで見送ってくれた彼女の顔を見たとき、なんだかいつも以上に遠く離れた場所に行くような感じがして心細くなった。私はそっと彼女のお腹に手を添えてから「会えるのが楽しみだね」と声をかけた。彼女は私からもパワーをもらえてよかったねと赤ちゃんに声をかけて嬉しそうにしていた。あのときの別れは、きっと私のほうが寂しかっただろうと思う。
理想の絵本が見つからない
彼女の赤ちゃんが産まれてから、ときどきLINEのアルバムに赤ちゃんの写真を送ってもらっている。
ふたりの旅行のアルバムの並びに、赤ちゃんの写真をあげるためのアルバムを作ってくれた。そういえば、いつも彼女がLINEのアルバムをつくって思い出を残してくれていたと気づいて、ふたりの時間を大切にしてくれていることに嬉しくなった。
そして最近、彼女が赤ちゃんをあやしている動画を送ってもらった。彼女のお母さん、赤ちゃんのおばぁちゃんがふたりの様子を撮ってくれたらしい。
彼女の優しい声に、あかちゃんは手足をバタバタさせたり、体を大きくのけぞってみたり、「うーうー」と返したりして、それがとても嬉しそうに見えた。
彼女からのリクエストで出産祝いは絵本を贈ることになったので、私は何度も本屋さんに足を運んだ。
年齢ごとに分けて置いてくれていたり、ひとつひとつの絵本に帯がついていたり、ポップが書かれていたり、本が贈り物として用意されていると初めて感じた。大人たちから買ってもらっていた本を、自分で買えるようになって、今度は贈る立場になったのかと。
図書館にも行ってみて、親子連れの隣で座りこんで絵本のページをめくったりもした。隣のお母さんは、お子さんにページを見せながら、どの本を借りて帰るかいっしょに選んでいた。その手にはもう3冊抱えていて、いろんなお話を聞かせてあげたいんだなと思った。本棚の横で小さな声で読み聞かせをしている親子もいて、お父さんお母さんの優しくて抑揚のある読み聞かせ独特の読み方と、どの子も真剣に本を見つめていたことが印象的だった。
彼女と赤ちゃんに贈る絵本は、彼女が絵本と赤ちゃんの顔を交互に見ながら優しい声でゆっくり読んであげる場面が浮かぶ温かい絵本を贈りたい。
モノの名前を教えたり、子どもたちに人気のキャラクターで新しいお友だちができたりすることよりも、お母さんお父さんがどれだけ誕生を心待ちにしていて、大切に思っていて、毎日が愛おしいということを言葉にしてくれる本がいいなと思っている。できればその本をいっしょに読むことで、彼女が赤ちゃんを大切にできていると感じられてほしい。
本屋さんでも図書館でも、絵本は1種類につき1冊だけ置かれているものも多くて、タイトルだけではお話の内容が分からなくて、私は迷子になってしまった。
本屋さんで何冊も重ねられているのは知育の絵本や、人気のキャラクターものの絵本のが多かったので、贈りたい絵本が選びきれなかった。
ならばお母さんお父さんに毎日頑張っている、赤ちゃんを大切にできていると寄り添ってくれる本はないかと育児本のコーナーにも行ってみたけれど、子どもを大切にするために大人が頑張る本が並んでいた。
子どもたちへの社会からの優しい言葉のように、親になった人たちに対しても、親になったことを祝うような、毎日を労るような言葉がもっと届けられてほしいなと思った。
初めて、大切な友だちのお子さん贈り物を探したときの気持ちを残しておきたくてnoteに書いた。
この記事を読んでくれた方が、赤ちゃん、お子さんといっしょに過ごす時間を楽しめるような絵本、大切に思う気持ちが伝えられる絵本のおすすめを知っていたら教えていただけたら嬉しいです。
赤ちゃんが少しずつ、確かに育っていくように
お母さんお父さんがゆっくり親になれますように。