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前山田という苗字は羨ましい
日本人には2文字の苗字が多い。なので、相対的に1文字や3文字の苗字はレア感が生まれる。とりわけ3文字の熟字訓はカッコイイ。五十嵐(いがらし)とか東海林(しょうじ)とか。
あまり語られないけれど、名前は「地味コンプレックス」の筆頭な気がする。ありふれた苗字とか、なんとなく音が好きじゃないとか、どこか自分の苗字を好きになれないという人も結構いるんじゃないだろうか。しかし、苗字への不満が社会問題になるようなことはない。なぜなら、生活する上で特に支障がないからだ。珍しい苗字の場合、店の予約をする時に読み間違えられたり、発音を聞き返されたりするでしょうが、逆に言えばその程度。もし苗字を理由に優劣をつけられるような事があれば「結婚して苗字をかえられる女性はズルい!(男性でもできますが)」や「優遇される苗字の男性は結婚する時に有利だ!ズルい!」みたいな議論が勃発するでしょう。そんな話はまず聞かない。それに引き換え、見た目は第一印象に直結するので、強いコンプレックスを持つ人は多い。自分の印象を良くしようと、今や美容整形もファッションの一環だ。
しかし、僕は見た目と同じくらい苗字にもコンプレックスを持っている。平凡な苗字な上に、名乗った後で聞き返されることが多い。特に電話越しの時。同じ母音の異なる苗字が複数存在するからだ。なんてこった。だから、僕はフォーマルな場面を除き鳴瓢(なりひさご)という偽名を使う。まあ、これも必ず聞き返されますけどね。いかにコンプを拗らせているかお分かりいただけるでしょう。
熟字訓の3文字苗字も良いですが、僕は昔から「前山田」みたいな苗字にロマンを感じている。前、山、田、どれも広く苗字に使われる漢字だし、読みもそのまま「まえやまだ」だ。しかし、苗字に使われる一般的な漢字を組み合わせているが故に起こる必然…。そう。「前山田」という苗字の中には複数の苗字が存在している。具体的には「前山」と「山田」と「前田」。インチキが許されるならば「田山」と「山前」と「田前」も含まれる。つまり、前山田さんは前山田さんでありながら、同時に別の苗字も複数持っていることになる。幹部キャラを吸収して自分を強化するボスみたいでカッコイイ。今日は気分を変えて「前山」でいくか...いや、「田前」もアリだな...。みたいなロールプレイもできそうだ。
ていうか、だったら僕も偽名として「前山田」を使えばいいじゃないか。どうして今まで気づかなかったんだ。鳴瓢に比べれば、相手から聞き返される頻度も圧倒的に少ないだろうし。よし、そうします。これから僕は前山田です。よろしくお願いします。
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