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ドキドキレターパック部!(DDLC)

 僕宛てに届く荷物は、その大半がネットで購入したものだ。インターホンが鳴れば、たいていは「あの商品が届いたな」と目星がつく。
 先日、身に覚えのないレターパックが届いた。ハガキでも封筒でもなく、レターパック。そのサイズ感の荷物が届いたのだから、何かピンと来なければおかしい…しかし思い当たるものがない。ひとまず送り主の欄に目をやると、そこに記されていたのは僕の働いている会社名だった。

 会社から心当たりのない送付物。なんだろう、嫌だなあ。いや、少し考えてみると心当たりはあった。
 僕はつい先日に職場復帰をしたのですが、それまでの2カ月間、あまりに愚かすぎるムーブをしていた。まず、昨年の11月末に無断欠勤をした。働くのが苦しすぎてバックレてしまったのだ。すぐに謝罪をして数日後に復帰する予定でいたのですが、これも上手くいかず再び無断欠勤。その後、1カ月の休養期間を経ていよいよ復帰するぞ、と意気込むもまた失敗。3度目の無断欠勤。しかも、さすがに取り返しがつかないと思った僕は、2週間くらい会社の連絡を無視し続けた。もう95%くらい辞めるつもりでいたものの、退職の旨を伝えられずモゾモゾしていたのだ。醜いね。

 3度にわたる大戦犯をかましておきながら、よく復帰させてもらえたものだ。会社側が寛大すぎて頭が上がらない。それに僕も僕だ。まともな神経をしていたら、こんな状況では職場復帰なんてできないでしょう。他のメンバーに合わせる顔がない。我ながら謎のメンタルをしている。

 ……待てよ。本当に職場復帰できたのか?あまりに身勝手な行動をしているし、こんなの一発解雇モノだろう。
 休職中も常に僕と連絡を取ってくれていた上司からは、特に何も言われていない。とはいえ上司も現場の人間だ。人事に関しては人事部の人間の管轄なので、上司とてわざわざ言及せずにいたのかもしれない。
 そうか、繋がったぞ。レターパックは会社の本部から送られてきている。この中には「お前さんクビのお知らせ」が入っているに違いない。そういうことか…と思いながら、目を細めて恐る恐る封を切り中身を確認した。

 が、解雇通知ではなかった。
 内容としては、「傷病手当を申請できるかもよ」というものだった。傷病手当。普通、あまり縁のないものかもしれない。けれど、僕は別の会社で働いていた頃に一度申請をしたことがあるので知っていた。
 都内の会社に勤めていた頃。ある日、僕は通勤電車の中で発狂してしまい、出勤できずそのまま半年くらい休職することになった。その時に申請したのが傷病手当。ケガや病気で仕事を一定期間休んだ場合、給料の何割かが支給される制度だ。

 実を言うと、僕は今回も傷病手当を申請しようか迷っていた。断念した理由は2つ。まず、休職した理由があまりに自己都合すぎること。無断欠勤で迷惑をかけまくった上に、傷病手当を申請させて下さいなんて図々しいにも程がある。もう1つは、以前に申請した時、手続きがあまりに面倒だったこと。書類をたくさん用意して、何度も何度も不備を訂正させられて根負けしそうになった。

 今回は僕から申し出たわけではなく、会社から傷病手当の申請を提案された。それゆえか、手続きがずいぶんと簡略化されていた。送られてきた書類にも、「この部分に記入をお願いします」「ここには◯◯と書いて下さい」など事細かにメモが貼り付けられていた。会社の人が面倒な部分を処理してくれていて、僕がやるべきことは最小限に抑えられている。そして返送用の封筒つき。おんぶに抱っこだ。

 これまで、僕は職場の人間関係や会社に対して大きな不満を持ったことはない。裏切って逃げ出すのは、いつだって自分のほうだから。職場に嫌いな人はいますか?と聞かれたら、「うーん…。自分、かな!」と答える。

 世の中でさんざんブラック企業が取り沙汰されたけど、僕は「言うほどブラックな環境って溢れてるか?」と疑問視していた。それもそのはずだ。僕はブラックな環境を「作る側」だったんだ。
 今回の件にしたって、僕の無断欠勤で割を食った人たちは、「クソブラック環境がよお!」と怒り狂っていたかもしれない。そういうカラクリだったんだ。
 申し訳ない、僕も精一杯やっているつもりなのです。とりあえず、傷病手当を申請するために病院へ行くとしよう。

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